本研究の目的は、日本の公立小学校において、ペアワークやロールプレイを取り入れた英語活動を実施し、音声によるインプットとインタラクションによる「英語の意味に交渉する活動」が、子どもの単語の意味理解にプラスの影響を与えるかどうかについて検証することである。この検証のプロセスが、真に「コミュニケーション」につながる小学校英語活動にとってプラスの材料となるよう展開したい。
子どもの言語習得の過程を客観的に観察することは容易ではない。そこで、単語の 意味理解(音によるインプットによって理解する)の力は言語習得の過程を表すバロメ ータであると考え(Ellis,1999)語彙の理解度でインタラクションの効果を検証する。
そのために、まず、インプット仮説、インタラクション仮説及び子どもの言語構築に関する先行研究から、「意味への交渉」が起こるような授業の必要条件を絞り、教師(担任とALT)と子ども(H-L)、子どもと子ども(L-L)のインタラクションに焦点を当てた英語活動を提案する。
3.1 子どもにとっての「意味への交渉」と「五つのストラテジー」
子どもにとっての「意味への交渉」は、第2言語に耳を傾け、うまくいくかどうか見てみることによって仮説を創り出し、またそれを試すような学習の機会である。(Huge,2001)「意味への交渉」で使われる「五つのストラテジー」は次のようなモデルからなる。理解チェック、明確化要求、確認チェック、自分での繰り返し、他者による繰り返しである(Oliver,1998)。@ Comprehension Checks A Clarification Requests B Confirmation Checks C Self-Repetition D Other Repetition (Oliver, 1998)3.2 小学校年齢の子どもと「気づき」
目標言語のフォームは学習者の「気づき」がない限り習得されるものではない。「気づき」はどの年齢の学習者にとっても必要条件である。Focus on formは、学習者の注意を言語的な特徴に向けさせるのに適した指導の工夫である。(Shmidt, 1990)3.3 Focus on form
Focus on formは、学習者がコミュニケーションにうまく巻き込まれる中で、第2言語の「言語的コードの何らかの特徴」に学習者の注意をはっきりとむけさせようとする学習指導の工夫である。(Long, 1991)3.4 第1言語における子どものPattern Finding
子どもは第一言語の習得において次のようなプロセスを辿ると考えられる。(1)子どもは言語の統語構造を理解する前にまず一定量の単語を知っている。語彙の理解は統語の理解を助ける。(2)他者のアクションやジェスチャーに反応しながら、模倣的に学習する。(3)統語理解の認知的プロセスとしてはまず骨組みとなるスキーマを持つ。(4)言語構造のいくつかの部分にパターンを見つけ、統語的な特徴として捉える。例えば「動詞の島」(verb island hypothesis: break-, kick-, It's---ing.)(5)言語のパターンや抽象的な言語構造を捉え、スキーマ化や分析によって、動詞や規則の一般化を行う。(Tomasello, 2003)4.1 短期実験
理解可能なインプットをベースにchild-child interactionのある授業(Task1)と、教師主導型のインプット中心の授業(Task2)を同じ被験者(4年生33人)に行い、ヒアリングによる語彙理解の差異を検証した。結果: タスク1とタスク2実施後のリスニングによる語彙理解のスコアの間には有意な差異が認められた。(Z=-2.252,1.96?|-2.252|,p=0.024).
4.2 長期実験
Focus on form を伴うインタラクションのある英語活動を経験した学習者(Ex)とFocus on meaningの一部である、ゲームや歌を楽しんだがインタラクションのある英語活動を経験していない学習者(Non-Ex)を比較し、ヒアリングとインタビューによる語彙理解の差異の接近を一年間に渡って検証した。(児童英検使用)結果: 両者の差は顕著ではないがレベル2,3のテストにおいて僅かに有意傾向がある。
Pre-test(Z=-1.789, 1.96?|-1.789|,p=0.074), Mid-test 3(Z=-1.477,1.96?
|-1.477|,p=0.140) , Post-test3(Z=-1.394,1.96?|-1.394|,p=0.163)
4.3 意味の理解テストと模倣的アウトプットの観察
インタラクティブな英語活動をサポートする子どもの2側面として、「聞く能力」と 「模倣的なアウトプットの力」に注目し、その相関関係をスピアマンの相関係数(p先行研究と実験の結果から、H-L, L-Lのインタラクションは英語の語彙理解と共に、インタラクションに必要な二つの能力(英語を聞く力と模倣的なアウトプットの力)にプラスの影響を与えることを確認したと言える。しかし、実施した授業観察では、8歳から10歳の学習者は英語の型やパターンに意識的に注目しているのではなく、むしろ交わされる意味に注目して英語活動を楽しんでいることが伺えたことから、授業では、何らかの言語のパターンに気づくような活動を理解可能なインプットの中に意図的に統合することによって、子どもは第1言語に頼らずとも「わかる語彙」、「コンテクスト」、「言葉のやりとり」から「意味への交渉」を行い、第2言語学習の足がかりを得ることができるのではないかということが推察できるのではないだろうか。インタラクションのある授業が語彙理解における優位性を示すとすれば、おそらくその有効性は、「子供が第2言語の意味に交渉する」機会をより積極的に授業に創りだせたかどうかにあるのではないかと考える。
参考文献
Ellis, R. (1999) Input, interaction and vocabulary learning. In R. Ellis (Eds), Learning a second language through interaction, 33-34.
Ellis, R., R. Heimbach, Y. Tanaka and A. Yamazaki.(1999) Modified input and the acquisition of word meanings by children and adults. In R. Ellis (Eds), Learning a second language through interaction, 63-114
Harley, B. (1998) The role of focus-on-form tasks in promoting child L2 acquisition. . In C. Doughty and J. Williams (Eds), Focus on form in classroom second language acquisition, Cambridge University Press, 156-174
Hughes, A. (2001) The teaching of language to young learners: linking understanding and principles with practice. Effective foreign language teaching at the primary level: focus on the teacher, 17-24
Long, M. (1883b) Native speaker/ non-native speaker conversation and the negotiation of comprehensible input. Applied Linguistic.4, 126-41
Long, M. (1991) Focus on form: a design feature in language teaching methodology.
In K. de Bot, R. Ginberg, & C. Kramsch (Eds), Foreign language research
in cross-cultural perspective. Amsterdam:John Benjamins,39-52
Oliver, R. (1998) Negotiation of meaning in child interactions The Modern Language Journal, 82, 372-386
Schmidt, R. (1990) The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics, 11(2), 129-158
Tomasello, M. (2003) Constructing language: a usage based theory of language
acquisition. Harvard University