樹齢1000年を超える巨大スギをヤク杉というが、1966年に発見された」縄文杉は樹齢3000年近い屋久島を代表する杉である。古くから伐採されてきたにもかかわらず幹がまっすぐでない木などは残されたのが長寿の杉を育てた要因。
日本のすぐれた自然の代表格である屋久島は太平洋と東シナ海に浮かぶ、熱帯と温帯の移行帯にある山岳島で生態地理学上たいへん貴重な島である。また 低地の常緑樹林からスギ林、高山植物までの垂直分布帯の価値も重要である。
「月に35日雨が降る」と言われる屋久島で雨は、九州一の高峰、宮乃浦岳など標高1800mを超える山々の岩肌を一気に駆け下り海に流れ落ちる。
水が森を育て、その森がまたきれいな水を生み出す。この自然の営みが樹齢数千年という屋久杉を育ててきた。しかし、この小さな島では わずかな気候の変化や人為的影響によって生物群は大きな影響を受ける。
豊富な自然に恵まれる世界遺産の島は、今、きめ細かな保護対策が必要とされている。
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九州の最高峰
日本でいちばん高い山は富士山。
では,九州地方でいちばん高い山はどこでしょう?
世界最大のカルデラで有名な阿蘇山(あそざん)でしょうか。
火山帯の名前にもなっている霧島山(きりしまさん)でしょうか。どちらもはずれです。実は,
屋久島(やくしま)の宮之浦岳(みやのうらだけ)(1,935メートル)なのです。世界遺産「屋久島」は,この宮之浦岳を中心とする山々にはぐまれた,世界的に貴重な自然が対象になっています。
月に35日は雨?
屋久島は周囲132キロ,面積503平方キロの島で,面積は東京23区とほぼおなじです。この島は,1400万年ほど前,地下のマグマがかたい花崗岩(かこうがん)を押しあげてできました。いまも1000年に約1メートルという速度で隆起し、海岸には温泉がわいている。
屋久島は、季節風がけわしい山にぶつかって,たくさんの雨が降ります。1年間の降水量は,少ないところでも約2,500ミリメートル,山間部では8,000ミリをこえるところもあります。林芙美子(はやしふみこ)が,小説『浮雲』で「屋久島は月のうち35日は雨というくらいですからね」と書いたほどです。
亜熱帯から亜寒帯まで
屋久島といえば「縄文杉」があまりにも有名で,島全体がスギの木におおわれているように思われがちです。
しかし樹齢千年をこえる「屋久杉」が生えるのは,標高1,000メートルをこえる高山地帯です。
人がすむ海岸地帯は,1年中ゆたかに花のさきみだれる亜熱帯で,すずしい気候をこのむスギには適しません。標高が上がるにつれて気温は下がり,九州から関東に分布する照葉樹林へ,さらに針葉樹林のスギの森へと植物相が変わります。
いちばん高いところは北海道とおなじ気候で雪もつもります。また冬には,北西側は北西の風が吹きつけて雨が多く,山には雪がつもるのに対して,南側は暖かく晴れが多いという島です。ちょうど本州の日本海側と太平洋側のようなちがいがあります。屋久島は,日本の沖縄から北海道まで,そして日本海側の気候と太平洋側の気候を,ぎゅっとつめこんだような,きわめて多様な自然をもつ島なのです。
緬文杉の謎
有名な縄文杉は,標高1,200メートルあまりの深い山のなかに立っています。そこに行くには,最低でも5〜6時間は歩かなければなりません。高さ25.2メートル,周囲16.1メートルという屋久島最大のスギの木です。1966年に発見されて以来,この木の樹齢についてはいろいろな説があります。過去に切られた屋久杉の年輪から年間の成長量を計算して7200歳とする説。いまから約6300年前にばくはつ かさいりゅう屋久島が火山の爆発で火砕流におおわれたことがわかってからは,それより古いことはないという説もだされました。その説には,島の生物が火砕流で全滅したとは考えられないとする反論もあります。そのほか,2本の木が合体したという説などもありますが,はっきりしたことはわかっていません。
縄文杉の内部は空洞になっていて,たとえ切ったとしても年輪は数えられません。空洞近くの材を科学的に測定したところ,2170年前という数値がだされています。縄文時代から生きてきたということはまちがいないようです。世界最古の木であるという可能性を秘めながら,樹齢不詳の縄文杉はいまも成長をつづけています。
くさらないスギ
縄文杉に行くとちゅうに「ウイルソン株」という巨大な切り株があります。周囲13.8メートルで,樹齢は4000年だったと推定されています。地元の営林署が伐採したと誤解した観光客から抗議されたこともあるそうですが,この木が切られたのははるか昔です。京都の方広寺(ほうこうじ)に大仏殿をつくるために,豊臣秀吉が切らせたという話が伝わっています。ウイルソン株だけでなく,屋久杉の森には,江戸時代に切られたスギの切り株や残材があちこちに残っています。それらが屋久杉のひとつの特徴を証明してくれます。
ふつうスギの木は成長がはやく,寿命は500年ぐらいです。それにくらべて屋久杉は,土中の栄養が少ない岩だらけの島にそだつので,成長がおそく,木がかたくて樹脂が多くなる特徴をもっていきす。それでくさりにくいのです。縄文杉のように数千年の樹齢をもつスギが生まれる秘密も,そこにあります。
神のすむ森
屋久杉の伐採がはじまるまで,島の人びとは,屋久杉の生える深い山岳地帯を「奥岳」と呼び,神やおそろしい精霊がすむ場所,人がみだりにはいることのできない場所として,おそれうやまってきました。
かつては日本中に,このような人の手のはいらない森がありました。
日本人は山や木や動物などの自然を神として信仰していたのです。人間が深山(みやま)にはいって木を切ったり鉱山を開発するようになって,こうした森は失われていきました。
しかし屋久杉の森には,太古の日本の森の姿,人間が自然をうやまい共存していた時代の森の姿がまだ残っています。
映画「もののけ姫」のスタッフは,ここをモデルとして「神のすむ森」を描きました。
人間の開発がはじまっても,このような森が残っていて,人間と共存していることが,屋久島を世界遺産に登録させたもうひとつの理由なのです。
共生をめざして
屋久島の人口は現在約14,000人。過疎化が進み,40年前の半分近くまでに減少しました。
かつては林業が島の中心産業でしたが,自然保護の気運が高まって仕事がへりました。
現在は,観光に産業の中心が移りつつあります。観光客は屋久島が世界遺産に登録され,交通が便利になったこともあって増加しています。しかし,そのために縄文杉の根が弱って,まわりに柵をつくらなければならなくなりました。自然破壊が心配されています。
鹿児島県では「環境文化村構想」を立てて自然体験セミナーなどを行い,自然と人間が共存できる地域づくりをめざしています。
霧島屋久国立公園
桜島・開聞岳・高千穂峰・屋久島(宮之浦岳・千尋の滝・縄文杉・ウィルソン株・ヤクザル) 等