FETゲルマラジオの製作

 増幅度を求める計算は結構複雑ですので特性図から簡易に求めます。増幅度Avは相互コンダクタンスgmに負荷抵抗RLを掛けたもので Av=gm・RLです。gm=ΔID/ΔVGSです。特性図のIDSS=2.0mAの曲線のIDが1.5mA付近をみると、ほぼ直線でIDが0.5mAの変化に対しVGSは0.1Vですので、0.5mA/0.1Vより5mSを得ます。この値は規格表のYfsとも一致します。増幅度Av=gm・RLですので、5倍程度の増幅しかしていないことになります。これでNHKの第一(666KHz)と第二(828KHz)が混信なく聞こえました。2SK49はすでに生産終了していますが、ヤフオクで入手しました。このFETを入手する前に、オーディオ用の2SK184を使用しましたが、音声も小さく歪も大きく使い物になりませんでした。gmとf特性の違いと思います。両者の規格表から、gmは2SK49は約5.5mS、2SK184は約15mSと3倍くらい大きいのですが、オーディオ用とFMチューナー用との違いで入出力容量に違いがあるようです。これらの相違を下表にまとめました。

 AMを受信しますので、被変調波を歪まないようにする必要があります。FETのバイアスは、キャリアが歪まないポイントをカットアンドトライで決めました。方法としては、バーアンテナにSGから高周波(1MHz)を入れ、ドレインにオシロを接続してキャリアが歪まないドレイン―電源間の抵抗とソース―アース間の抵抗を求めました。その結果、求めた値はドレイン側の抵抗が1kΩ、ソース側の抵抗が220Ωになりました。このFETのIDSSの規格は0.5〜6mAです。使用したFETのIDSSを求めるため、ゲートソース間を短絡したときの1kΩの電圧を測ると2.22Vでしたので、IDSSは2.22mAということになります。この値は特性図のIDSS=2.0mAに近いので、この曲線とみなすことにします。ソース-グランド間に接続した220Ωの両端の実測電圧は326mVでしたので、この220Ωに流れる電流は326mV/220Ωで1.48mAになります。これはドレイン電流Iと同じになるはずです。ドレインにつないだ抵抗1KΩの両端の実測電圧は1500mVでしたので、電流は1.5mAになり1.48mAとは若干の差がありますが、抵抗の両端の電圧を測り、5%品の公称抵抗値で割って求めていますので、違いが出て当然ですので1.5mAとしておきます。IDSS=2mAの曲線上でID=1.5mAのときのVGSは約-100mVになります。ここに誘起電圧が重畳してくるのですが、この電圧は数mVから数十mV程度ですので、ほぼ直線的に増幅される範囲にあることが分かります。ドレイン―ソース間の電圧は1130mVでした。   

 今更、ゲルマラジオなんて、と言われそうですが、構造がシンプルな分、奥深いものを感じます。ゲルマラジオを作って、イヤホンから何も聞こえてこないという経験をされた人は多いと思います。昔の木造の住宅では、同調回路に直接ゲルマダイオードを接続し、アンテナ代わりの屋内配線に10pF程度のチタコンを接続して、簡単に受信することができました。しかし、マンション等の鉄筋住宅では、住居内のAM電波(中波)はかなり減衰しているようです。同調回路に誘起した電圧を増幅なしに受信することは困難なため、高周波増幅が必要になります。又、バーアンテナとバリコンの並列共振回路のQを高くする必要があります。そのためには増幅回路の入力インピーダンスが高いことが必要です。増幅素子はトランジスタかFETかを選択しますが、FETは入力インピーダンスをトランジスタに比べ高くすることができるので、FETを使用することにしました。使用したFETはNECの2SK49です。ゲルマダイオードは1N60を使用しました。

 Qは共振回路の鋭さを表しますが、バーアンテナの直流抵抗をrとすると、Q=ωL/rで表されます。rの実測値は8Ωでした。周波数fにおいてQがピークから3dB落ちたところの周波数幅をBとするとB=f/Qで表されます。3点の周波数におけるQ、Bの計算をすると下表の概略値になりました。

周波数選択度

f 500KHz 1000KHz 1500KHz
Q 200 400 600
B 2.5KHz 2.5KHz 2.5KHz

FETのVGS-ID特性図からバイアスを決める

 検波出力の後にトランジスタのバッファを入れました。イヤホンはほぼ完全な容量性負荷ですので、イヤホンにオシロをつないでも歪んだ波形しか見えません。又、検波出力に直接イヤホンをつないでも音が出てきません。2SC945のエミッタフォロアとして取り出すとうまくいきました。検波出力から見てイヤホンのインピーダンスが小さいので、ここでインピーダンス変換をして大きくする必要があるようです。

2SK49(NEC) 2SK184(東芝)
Yfs 5.5mS 15mS
Ciss 5pF 13pF
Crss 0.07pF 3pF

 Yfsは順伝達アドミタンスで、ゲート電圧の変化分に対するドレイン電流の変化で、単位のSはジーメンスです。相互コンダクタンスgmも同じ意味です。Cissは入力容量です。バリコンの容量範囲は27pFから284pFで、バーアンテナのインダクタンスは、購入時のコイルの位置で500uHでした。従って、この位置での共振周波数範囲は422KHzから1370KHzになりますが、Cissが大きいと選択周波数の上限が低くなりますので、この値は小さいにこしたことはありません。Crssは帰還容量で両者で大きな違いがあります。これが大きいと高周波領域において異常発振しやすくなってしまいます。

増幅度を簡単に求める

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