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主を褒め称えよ
主を褒め称えよ 私は生ける限りは主を褒め称え、 永らえる間は我が神を褒め謳おう 息のある全てのものに主を褒め称えさせよ エィメン ―――全て貴方の仰らせるままに ++ 有限カタルシス 00 ++
神の力を与えられたと思い上がる人間は、其が故に楽園を追放されたのだとは永遠に気づかない。日に決まった数だけ祈りを捧げることで得る救いなぞ、たかが知れているではないか。欲望に、勤めを。劣情に、敬虔を。ただただ賛美だけを唱える子どもに囲まれれば満足頂けますか、我が主? く、と唇が歪む。軽侮交じりの笑みは、元よりこの地とは相容れる筈のない自身と完全に適応しきっている構成員へと向けられていた。神を信じぬ己が十字架を背負って戦地を駆ったとしても、果たして加護は得られるのだろうか。異教徒はおよそ赤子に至るまで惨殺し慈悲の言葉を知らぬ至上の存在は、果たして。果たして。 心中の声はどうやら我らが父には届かぬようであった。おざなりに跪いた姿勢から立ち上がり、神田はやはり十字架を背負って前を見据えた。彼の視界には広がる闇。瞳のそれより禍々しく淀んだ漆黒の中に見つけ出した「ソレ」に、神田の瞳は細められた。あぁともうぅともつかぬうめきを上げ、緩慢に蠢くソレ。見下ろす神田の表情には覇気も英気もなく、かといって諦念も嫌悪も浮かんではいない。ただただ無表情に無感情に、神田はソレに歩み寄りながら脇の刀に手をかける。それは彼の所有する神の力ではない、名も無きただの刀に過ぎなかった。 「―――安心しろ」 お前だけでは…ない。 声には乗せずに、自分の中でのみ完結した言葉を投げかけ、神田はずらりと銀の刃を闇へと晒した。 何よりも、手向けの為の一切を彼は持ってなどいないのだ。 夥しい返り血の中にあっても、神田の表情が揺らぐことはなかった。 |
『有限カタルシス』 |
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