Winding Road

不審な影

07雨ふらしの井戸にて

「ウツギ博士から任された卵はいつ生まれると思う?」
ワニノコのダインは私の言葉に返事することなく出口に向かってずんずん進んでいた。
ここはつながりのどうくつ、抜ければヒワダタウンだ。
「ダイン、勝手に行っちゃ……はぁ」
彼が言うことを聞く訳もなく、立ち止まることなく洞窟から飛び出した。
『わっ、わー』
ダインが叫ぶ。
その声に私の足は走り出す。何が起きたと言うのだろう。
洞窟を抜けると冷たいものが頬に当たった。
雨、だ。
ダインは雨の中を走り回っている、喜んで叫びながら。
「まったく、」
何事かと思ったら雨に喜んでいただけなのか。まったく人騒がせなポケモンだ。
『とうっ』
いつの間にか側まで来ていたダインがモンスターボールの一つを投げた。
出てきたのはピカチュウのアリス。アリスは全身を振るわせて体に付いた水滴を落とす。その次の瞬間には新たな水滴が体を伝っているのだが。
「………あ、カサ」
自分もずぶ濡れになっていることに気づいて傘をさす。
その間にもダインは新たにポケモンを出す。次に出たのはヤミカラスのラスカだ。
ラスカは直ぐさま傘をさしている私の方に飛んできて肩に止まり、嫌そうに雨を睨んでいる。
ダインはそんなラスカに構わずアリスとはしゃいでいる。君がわざわざ出したラスカを無視するのか。
「……どうしよっか」
『5分くらい待てば』
「……そだね」
ラスカと私は泥まみれになってまで楽しそうに遊ぶ2匹を呆れながら眺めていた。

5分経っても雨は止まなかったが目と鼻の先にあるヒワダタウンへと向かうことにした。
ところがその僅かな距離に事件は起こるのだ。
いかめついおじさんと黒服の怪しい男が言い争っていたのだ。
関わりたくないな、その気持ちが足に伝わる。歩みは遅くなり、2人の声が聞こえるぎりぎりの位置で止まる。
「俺達はロケット団様だ!」
怪しい男の口から聞こえてきたのは3年前に解散したはずの名前。あれから3年も経ったからなのか、あの男自身に原因があるのか、かつての脅威は感じられない。
「つべこべ言わず消え失せろ!」
ロケット団の男は自身に詰め寄るおじさんをどん、と突き飛ばした。突き飛ばされたおじさんは悔しそうにヒワダタウンへと戻って行く。悔しそうな顔が、かすかに見えた。
ロケット団の男は満足げに仁王立ちする。
その側に看板が立っている。目を凝らして文字を読んでみる。
「ヤドンの、井戸……だって」
ポケギアのタウンマップで確認すれば、ヒワダタウンの名物と載っていた。別名雨降らしの井戸だとか。
ロケット団の男は井戸の前に仁王立ちしている。間違いなく良からぬことが井戸で起きている。しかし、
「私には、どうにも……」
出来ない、そう呟く。
私は見て見ぬ振りを決め込んだ。3年前に解散した組織ではあるが、やはり怖い。
『わるいのはたおす!』
私と一緒に一部始終を見ていたリオルのルキが男に飛び掛かろうと走り出した。
まてまてまて! 勝手に行っちゃダメだ。
男に気づかれる前に何とかルキをボールに戻す。そして、なるべくヤドンの井戸に近づかないように通り過ぎた。
 

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