天気は今日も快晴だった。私はワニノコのダインをボールから出して歩き出す。昨日のように、ちょっと目を離すとどこかへ行ってしまうかもしれなかったけれど、外を歩きたそうにするダインに我慢させることは私には出来なかった。
「あ、ちょっと待った」
幼なじみのヒビキの言葉を思い出す。
「トレーナーとバトルになるかもしれない。だから傷薬はしっかり用意すべきだよ」
バトルなんて出来れば避けたいけれど―そう言いつつもジムにチャレンジしようとしてる私は見事に矛盾している―準備を怠ってはならない。
「フレンドリィショップに行こう」
フレンドリィショップには色々なものが売っている。モンスターボールに傷薬、それからメールも。けれど、お母さんから貰ったお小遣はあまり多くはないから慎重に買う物を選ぶ必要がある。
どれにしよう、あれかな、これかな、と考え込んでいるとまたもやダインが消えていた。
「ダイン、何して……」
ポケモンフーズお買い上げだ。
フレンドリィショップのポケモンフーズは食べちゃいけないと教えてない自分が悪い。けれどよりによって高いのを食べなくていいのに……
結局、ポケモンフーズに傷薬を3つ買うことにした。
店を出た後、私は後ろについて来るダインに厳しい視線を向けた。
けれど、
『おいしーな、これ』
ダインがあんまりにも嬉しそうにに言うものだから、怒る気にもなれず、ただため息が漏れるだけだった。
キキョウシティまでの道中、出会ったトレーナーと何度かバトルをすることになった。
予想はしていたけれど、中々に難しい。自分のポケモンの技だけでなく、バトルの癖も把握しなきゃ思い通りのバトルが出来ない。
ダインはどんな相手でも突っ込んで行く勇敢な子だ。そしてちゃんと攻撃を避けるすばしっこい子でもある。
デルビルのバルトもダインに似ている。けれどダインと違ってしっかりと考えて相手に向かって行く賢い子だ。と思っていたら攻撃することなく逃げ回っていることもあるから、バルトは案外気まぐれなのかもしれない。
ヤミカラスのラスカは戦う、と言うよりも遊ぶようにバトルする。そしてバトルが終わって私が褒めてあげるとすぐにボールに返ってしまう。褒められて照れているみたい。
「……アリス、大丈夫?」
何度目かのバトルの後、泥だらけ、傷だらけになったピカチュウはそれでも元気に『だいじょーぶ』と返事した。初めて会った時は今にも死にそうで弱々しさを感じたのに、今ではそのかけらも見い出せない。この子、本当はとっても丈夫だったのね。
アリスは泥を丁寧に掃うとにこにこしながら走り出した。
ダインと言いアリスと言い、走るの大好きなんだから。
キキョウシティに着くと後ろから声を掛けられた。
振り返るとそこには幼なじみのヒビキがマリルを連れてやって来ていた。
「やるなー、いつの間にか追い抜かれちゃったよ」
ヒビキは困ったような顔をして笑っている。そしてすっかり懐いたワニノコに目を向けて「よく懐いてるね」と笑いかけた。
ダインはそんなヒビキに立派な歯を見せ付けるように口をぱくぱくしてみせた。
キラリと光る牙にヒビキは少したじろいたようだった。
その様子に満足したのか、ダインはヒビキの足元にいるマリルの方へ関心を向けた。
「キキョウシティのジムリーダー、倒すつもりなんだろう?」
うんと頷くと「きっとなら大丈夫だと思うよ」ヒビキはにっと笑みを見せた。
「僕は先に行くよ。マリルおいで!」
今度は抜かされないからな、マリルと共に先に行くヒビキの後ろ姿に、私も負けてられないなとぐっと拳に力が入った。
『要するには負けず嫌いなんだよ』
バルトが真っ直ぐにこちらを見て言った。
ボールの中からヒビキとの会話を見てたらしい。そしてあの会話の感想がこれだった。
『ヒビキもバッジを集めるのか?』
彼はあくまで博士の研究をしているのだから、恐らくバッジは集めてないだろう。そう伝えると、バルトはしばし考え込んだ。
『じゃあ自分のペースで集めたらいいんだよ』
バルトに励まされ、ダインにも噛み付かれた。噛み付くのは決して励ましの意味ではないと思うけれど、ダインなりの励ましと受け止めよう。
「そ、だね。マイペースで頑張ったら良いんだよね」
目の前のキキョウジムを睨むように見つめ、挑戦すべく足を踏み出した。
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