Winding Road

私、旅に出ることになりました

02日向ぼっこと花びら

ここはヨシノシティのポケモンセンター。穏やかな雰囲気の中、ワニノコのダインが走り回っている。追い掛けるのを止めたのは随分前のことだ。誰も怒らないからいいや、と好きなようにさせている。

赤髪の彼、シルバーと会った後は何事もなく進んだ。
ポケモンじいさんの家に行って不思議な卵を受け取った。
その時偶然来ていたオーキド博士にポケモン図鑑を託された。
そしてウツギ博士の研究所に戻ると、ポケモン泥棒が出たことを知らされた。そして犯人がシルバーだということも。あの時戦ったチコリータは研究所から盗まれたポケモンだったのだ。
もしそのことに気づいていれば、もし私がバトルで勝っていればチコリータは戻って来ていたかもしれない。
そんなことを言っても今更だけれども、あの冷たい瞳を思い出すと悔しくなった。
でも私にはどうすることもできない。警察に任せよう。

博士はポケモンじいさんの卵に興味を持っていた。私のことなんて全く気にすることなく色々と調べ始めた時には呆れてしまった。
博士はすまないと苦笑して、私にすっかり懐いたワニノコを見て、ジムに挑戦することを提案した。ジムに挑戦だなんて考えたこともなかったが、一番近いジムがキキョウシティにあると聞き、旅行がてら挑戦してみることにした。
お母さんにそれを伝えると、快く承諾してくれた。
あくまで旅行だから、マダツボミの塔を見るついでだから、と何故か必死に言い訳してした私は、もしかしたらずっとジムに挑戦したいと思っていたのかもしれない。

私がポケモンセンターでのんびりとしていると短パンのよく似合う男の子が走り込んで来た。どうやらバトルに負けてしまったようだった。
ふと、自分が瀕死のポケモンをポケモンセンターに連れて来る様子が浮かんだ。
私もきっと、あんな風に取り乱すに違いない。
でも、彼ならどうだろう。あの冷たい瞳は、自分のポケモンを愛でているのだろうか。
そんなことを考えていると、ポケギアが鳴っていることに全く気づかなかった。
慌てて電話に出ると、それはシンオウからの電話だった。
《やあちゃん、元気かい?》
私に卵をくれた人だ。私はジムに挑戦することを彼に伝え、彼はパートナーのポケモンの様子を私に伝えた。
《ところで、もう生まれたかな?》
もうすぐ、と答えると嬉しそうな声が返ってきた。彼の暖かな声を聞いていると心がぽかぽかしてきた。
ひとしきり話すと電話を切った。心も体も回復していた。
「さあ、しゅっぱ……あれ?」
静かなポケモンセンターに、ダインの姿がなくなっていた。
ダインはずっと研究所にいたポケモンだった。ずっとボールの中にいて、外に出ることもあまりなかったらしい。会う人間と言えばウツギ博士とその助手くらい。だから見るもの全てに興味津々だった。ポケモンセンターではしゃいで走り回っていたのも此処が楽しくて仕方なかったのだろう。
センター内にはいないことを確認し、外へ出る。
ポケモンセンターの扉は自動で開く。ガラス戸の前に立つとセンサーが感知して扉が開くのだ。きっとダインには不思議で仕方なかったに違いない。そして何かのはずみで外に出てしまったのだ。
「ラスカ、手伝って」
ボールから飛び出したヤミカラスのラスカはしばらくくるくると旋回し、肩に停まった。いや、ワニノコのダインを探してほしいのだけど。
「そんなに遠くへは行ってないはずなの」
無口なラスカはこくりと頷いて飛び立った。3秒後、ガラス戸に体をぶつけて墜落してしまったが。

それほど大きくない街だから、すぐにダインは見つかった。
「何してんのよ」
小綺麗に整えられている花畑の中にダインはいた。仰向けになって気持ちよさそうに眠っている。見つけたラスカもくんくんと花の香りを嗅いでいる。
「まったく、」
ため息をつきながらボールに戻すと、ラスカも自らボールへ戻った。そして代わりにバルトがボールから飛び出した。
、今日はもうみんな疲れてるからここで休もう』
言われなくともそうするつもりだった。だって今日は既に色々なことが起きすぎたもの。
ワニノコを貰ったり、卵を取りに行ったり、そして、彼に出会った。
何故だかずっと頭から離れないあの少年は、今どこで何をしているのだろう。ウツギ博士からポケモンを奪い、何をするつもりなのだろう。
気になることは多いけど、今日はもう止めよう。考えるには色々なことが起こりすぎた。
今日は休んでまた明日、明日になってから考えよう。
 

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