Winding Road

私、旅に出ることになりました

01牙と葉っぱと赤い髪

『どーした?』
前を歩くワニノコ―ダインが不思議そうにこちらを見ていた。
「あ、えっと、何でもないよ」
ついついぼけっとしていたらしい。ダインはまだこちらを見ている。ふわふわした態度が気になるみたい。
『次どっち?』
「この道を真っ直ぐ行けばポケモンじいさんの家に行けるわ」
私は地図を確認して目的地の方を指した。
ダインは私の指先をじっと見て首を傾げた。いやいや、指じゃなくて指の指した方を見て欲しいんだけど。
『……おなかすいた』
さっきポケモンセンターに寄ったばかりなのに。
連れ歩いてとウツギ博士から言われたけど仕方がない。
「じゃあボールに戻っててね」
ダインを戻し、代わりにデルビルのバルトをボールから出した。

ウツギ博士はご近所さんで、有名な博士。幼なじみのヒビキは博士の研究を前から手伝っている。私は手伝いはしていないけれど、よく研究所に遊びに行っていた。そこでポケモンの卵をもらったこともある。卵から生まれたのはヤミカラス。私はその子にラスカという名前を付けた。
ラスカと一緒に草むらで遊んでいたら怪我をしたピカチュウを見つけたこともあった。それがアリスとの出会い。
それから、つい最近シンオウ地方にいる知り合いから卵をもらった。何の卵か教えてくれなかったから、生まれるのがすごく楽しみ。
よくヒビキに「博士の手伝いでもしたら?」と言われるけれど、私に出来るか不安だから手伝ったことは今までなかった。
それが今、どういう訳だかワニノコを預かり、研究を手伝うことになり、ポケモンじいさんの家までお使いに行くことになってしまった。
『ヨシノシティより先に行くのは、久しぶりだな』
バルトは少し嬉しそうにこちらを向いた。
バルトは元々私のポケモンじゃなかった。昔、ある人に貰ったポケモンだ。コガネシティで両親とはぐれて迷子になった私にバルトを見せて宥めてくれた。そしてバルトを気に入り、しがみついて離れなかった私にバルトを譲ってくれたのだ。とても優しい人だった。いつかコガネシティに行ってまた会えたらきちんとお礼を言いたいと思ってる。
『早く行こう』
バルトはスタスタと前を歩いて行く。まるでお兄さん気取り。
小さな頃から一緒にいるからきっと私のことを妹だと思ってるに違いない。

草むらにはポッポやコラッタがいた。バルトは気にすることなく歩き続ける。私も同じように歩き続ける。時々、目の合った子には声を掛けた。声を掛けられたポケモンは、大低びっくりして逃げてしまったけれど。それでも中にはお喋りをするポケモンもいて、道中は楽しかった。
しばらくすると、ダインがボールから飛び出した。
『あそぼー』
言うや否やバルトに飛び掛かった。
勿論、バルトはお兄さんだから避けることもなく、ダインに付き合っている。やっぱりバルトはお兄さんだ。
ほのぼのとその光景を見ていると、
「邪魔だ」
赤い髪の男の子が私を睨んでいた。この人、確かウツギ博士の研究所を……
「どけ」
どん、と押されて思わずよろけてしまった。そんな私を見てバルトが男の子に吠え立てた。
けれど彼の鋭い目に睨まれるとその声は小さく萎んでいった。男の子はそんなバルトを見てボールを構えた。現れたのはチコリータ。相性はチコリータにとって不利だった。それでも構わず勝負を挑まれた。
怖じけづいたバルトでは勝てない、直感がそう言っていた。
「弱いトレーナーには弱いポケモンがお似合いだ」
チコリータの葉っぱカッターがバルトを攻撃した。
まともに攻撃を喰らったバルトは―怖じけづきながらもダインを庇ったことには驚いた―倒れてしまった。ダインもその様子に驚き、とても戦える状態じゃない。
「ふん」
チコリータを戻し、男の子は去って行く。威圧的な彼に、ただただ呆然としていた。
ふと、彼のいた場所にトレーナーカードを見つけた。
手に取ると案の定、それは彼のものだった。名前は……
その時、チコリータのツルが伸びてきて、私の手からカードを奪った。
はっとしてツルが伸びてきた方を見ると、彼がきっ、と睨んでいた
ワカバタウンでは見ない、その冷たい瞳に不安を覚えた。
 

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