「うわっ、土くさっ」

開口一番、パーラは顔をしかめた。
バクバクと土を平らげる私のヨーギラスはパーラの非難なんてお構いなしに土を食べ続ける。彼にとったら久々のご馳走だ、誰かに構うより食べることを優先中だった。
サボりの常習犯であるパーラは私のベッドに座ると、必死に土を食べる私のヨーギラスを眺めた。その光景が珍しいようだった。

「もしかして、テンガン山の土…?」
「そうです。さっき男の人が持って来ました」
「へぇ……」

私自身、あまり期待していなかっただけに、土を運んできた男の人を見て驚いたものだった。土を食べれない苛立ちで主人にすら噛み付くヨーギラスを大人しくさせるためだとしても。頼んでおきながら申し訳なかったかなと今さらながら考えた。
でも、心底嬉しそうに土を食べる私のヨーギラスを見ていると、やっぱり頼んで良かったとも思う。

「あとは、窓だけか」
「流石にそれは無理だと思うから、
時々外に出してもらえればそれで構いませんよ」
「あ、多分それも叶うわよ」
「えっ、窓作るんですか」
「まあ、それはお楽しみにしときなさい」

パーラは土を食べ終わったヨーギラスのランスを優しく撫でた。そして私の食べ終えた食器を手に取るとさっさと出て行った。
彼女がサボらずに帰るのは今日で2度目だった。
そっけないな、閉められた扉をじっと睨んでため息をついた。

 

 

暇潰しの読書も終わってしまい、ラジオを付けてうとうとしていたのは昼下がりだっただろうか。暇を持て余していた私はDJセージの声で眠りに就こうとしていた。
もうすぐ眠ってしまえる、と感じた時だった。
扉が開き、いつも夕食を運んで来る男が入ってきたのだ。
夕食にはまだ早過ぎる時間に、何も持たずに何をしに来たのだろう。パーラではあるまいし、サボりに来たはずはない。寝ぼけた頭であれこれ考えを巡らしていたら、

「ついてこい」

といつものそっけない言葉が耳に刺さった。

「………へ?」
「だから、早くついてこい」

男は大きな声で怒鳴ると私がベッドから起き上がるのを静かに待った。
何だか訳が分からなかったが従うしかない。
ベッドから起き出しヨーギラスをモンスターボールに戻すと男について行く。
黙ったままついて行くと、とある部屋の前で足が止まった。どこに行くのかすら教えてもらえず、目の前の部屋に何があるのかも当然分からない。
それなのに男はぶっきらぼうに「入れ」と指図する。
扉が開き、中を確認する間も与えられず押し入れられ、扉が閉まった。
ポンッとボールからランスが飛び出し、新しい部屋をくんくんと嗅ぎ回った。大きな窓の付いたその部屋で、私はぽつんと立ちすくんでいた。
ランスが私を見つめる。

「ぎゃあ」
「うん、なあに?」
「ぎゃっ」
「そっか、ランスは嬉しいんだね」

私もだよ。声に出して言ってみれば本当に嬉しくなってきて、にやにやしながらふかふかのベッドに倒れ込んだ。

 

 

「あっ、」

夕食の後やってきたランスはまたもや可愛いらしいぬいぐるみを持って来た。
それをテーブルに置くと私をじろりと睨んだ。いや、睨んだと思ったのは気のせいかもしれない。何故なら、彼はその瞳をすぐさま臥せたからよくは見えなかったのだ。
テーブルに置かれたそれは、見覚えのあるライチュウのぬいぐるみだった。どこで見たのか思いはべると、コガネデパートだと気が付いた。たしかこれは。

「コガネデパート限定ライチュウ……」

私の呟きにランスが僅かに目を見開く。

「何か?」
「あっ、いや、何も…ない、です」

ライチュウのぬいぐるみを抱くと不思議な感覚に陥る。
それは支配された空間にいるからなのか、それとも違う理由が存在するのか。
今の私には分からない。
ただ、目の前に立つ彼の笑顔を見たいと強く願うこの気持ちは、確かに存在している。

 

とあの

 

「あのっ」「何でしょう」「ありがとう、ございます」「……っ、」

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