窓があるだけで部屋が広々と感じられる。
窓を開けてベッドに横になっていたら扉が開いた。

「しばらく任務でアタシもランス様も来れないから」

パーラだった。
起き上がり扉まで駆け寄って顔と顔を突き合わせる。

「任務、ですか」
「なあに、危険なもんじゃないわよ」
「あの、どんな」
「聞いてどうすんの」

パーラのただならぬ剣幕に口をつぐむ。興味本意で聞くんじゃなかった。

「あんたヤドン好き?」
「ヤ、ヤドン?まぁ、嫌いじゃないですけど…」
「ふうん、わかった」

じゃあね、言うことだけ言い切って、パーラは扉を閉めた。
任務とヤドン、一体どんな繋がりがあるんだろう。ヤドンなんて、ロケット団のイメージとは掛け離れていると言うのに。

「……変なの」
「ぎゅぎゃあ」

 

 

あの日から3日経った。
任務は終わらないのか、あれ以来パーラにもあの人にも会っていなかった。
枕元に飾ってあるライチュウドールをぎゅっと抱きしめ、2人の無事を祈る。
けれど次の瞬間には早く捕まってしまえとも願っていた。
私は、パーラという人間は好きだった。しかしロケット団のパーラは好きにはなれない。悪事を働く組織に、どうして好意的になれるだろう。
これは彼、ランスにも同様に言えることだった。
私はきっとランスという人間に少なからず好意を寄せている。私を捕まえているのはロケット団として、何か理由があるからと考えていた。ランス自身の考えではないのだと。

「はぁ、任務っていつ終わるのかな」
「ぎゃあ」

ヨーギラスは相変わらず楽しそうに遊んでいる。
今はひたすらにジャンプしていた。ドシンドシン、とわたしにとっては迷惑極まりないのだけど、まぁ仕方がない。不機嫌にさせてしまうともっと迷惑を掛けられてしまう。
でもそろそろ注意した方がいいかな、と思った時だった。
ヨーギラスが不意に立ち止まり、ドアの方を睨んだ。そして走り出すとドアを押した。

「ラ、ンス……?」

必死にドアを押す姿は一見すれば微笑ましいが、その顔が危機迫っていれば話は別だ。まるで何かを入れないようにドアを押しているようなヨーギラスに、私は少し恐ろしくなる。
何かがこの部屋に来ようとしているのだろうか。この子が恐れるような何かが。
この前あの人から貰ったライチュウドールを抱きしめながら恐る恐る、ドアに近づいた。
ヨーギラスはドアを押し続けている。
しゃがみ込んでヨーギラスに触れた瞬間だった。ドアノブがガチャリと回る。

「ぐぎゃあっ」

パーラが来る時も、あの人が来る時でさえ、この子がこんな風に反応することは一度もなかった。
ドアの外にいる人物はガチャガチャとドアノブを回す。それでもドアが開かないとわかると、今度はドンドンと乱暴にドアを叩いた。
こんなのパーラでもランスでもない。恐ろしくなって逃げ道を探す。けれどドアは1つしかなく、そのドアには恐怖がやって来ている。
こうなれば、こうなったら。
窓から逃げるしかない。
私は窓に駆け寄ると鍵を開ける。この部屋は地上3階あたりだろうか、飛び降りるには少々危険な高さだった。
けれどそんなこと言ってる場合じゃない。パーラもランスもいない今、我が身を守れるのは私しかいない。

「……私、あの二人を信頼してるんだ」

ふと気づいたそれは、思いもしないものだった。パーラはともかく、あの人まで信頼してるなんて、どうかしている。

「ぐぎ、ぎゃあ……」

ヨーギラスが苦しそうな声を上げる。
そうだ、今は考え事をしている暇はないんだ。
窓に足を掛け、飛び降りる準備をする。あの子をボールに戻してすぐに飛び降りるつもりだった。
チャンスは一度きり。大丈夫、私なら出来る。

「いち、にの……戻って!」

ヨーギラスをボールに戻し、思い切り跳んだ。
 

とあの

 

ランスに翼があったら良かったのに!