「あんた、それどうしたの」 パーラはテーブルにちょこんと置かれたそれを見つめ、吹き出した。
ここへ来て10日目のことだった。 「ああ、これを読んでるのですね」 本を閉じ、それはテーブルに置かれた。 「なかなか面白い話だったと記憶しています」 ランスが私を不思議そうに見る。一方私は彼を睨み付ける。だって、彼は今この小説の一番の楽しみを私から取り上げようとしていたのだから。 「犯人言っちゃだめですよ」 ちっとも悪びれた様子がなく、まるで私の方が悪いと言わんばかりの顔にムッとする。大人のくせに。 「それより、あれを早く戻しなさい」 あれ、とは本に噛み付いている私のヨーギラスだ。 「少々遊んであげようと思っただけですよ」 肩をすくめる彼の瞳は本気にしか見えなかった。
「…………、それ」 ふと、ランスが手に何か持っているのに気が付いた。ピンク色のそれは、どこか見覚えがある。そうだ、フレンドリィショップの棚の上にそれ、ピッピ人形はかわいらしく陳列されていた。ポケモンに投げ付けるなんて勿体ない、と大好きクラブのある友人が買い占めていたぐらい、ピッピ人形の出来は良いものだった。私も実は1つ買って家に飾っている。 「殺風景だと荒んでしまうと思いまして」 テーブルにちょこんと座ったピッピ人形は私の方を向いている。まさかランスがこれを買ったのだろうか。だとしたらフレンドリィショップの店員さんは驚いたに違いない。こんな冷たい目をした男が買っていったのだから。 「気に入りませんでしたか」 少し、ほんの少しだけ残念そうに見えた彼の顔が私に不思議な感覚をよこした。 「そっ、そんなことないです」 ランスの手より先にピッピ人形を掴んだ。 「喜んで貰えて良かったですよ」 ランスはその顔にうっすらと笑みを浮かべ、踵を返してドアノブに手を掛けた。 「まさか全て偶然の一致だなんて、思いもしませんでした」 私の唯一の楽しみ、小説の結末をさらりと言って部屋を出て行った。
「これをランス様がねぇ」 パーラはピッピ人形を手に取り、じろじろと眺めた。 「何かあるんじゃない?」 もう一度それを掴み調べていたパーラがピッピ人形を睨む。けれど何の変哲もないピッピ人形は愛らしい瞳を向けるだけだ。 「……あちゃー」 その時、私はどうして彼女の提案に頷けないのか、理由を見つけられなかった。
彼とあの子と私
パーラの視線がやけに鋭く感じた。 |