ロケット団が悪事を働く現場を見てしまった私は彼らに軟禁されていた。
監禁や殺されることを望んでいる訳ではないけれど、どうして軟禁なのだろう。
衣服や荷物こそ取り上げられているが、今のところ不自由なことは何もない。
食事も私だけでなくあの子、ヨーギラスの分もしっかり用意してくれる。風呂にも入れるし、ラジオも聞かせてくれる。
「いつまでここにいるんだろう」
部屋を走り回るヨーギラスに尋ねる。ヨーギラスはもちろん答えることなく走り続けた。
「どうして捕まっているんだろう」
疑問は尽きない。けれどそれに答えてくれる人は誰もいない。
一度、食事を運ぶロケット団を問い詰めようとしたけれど、当然ながら何も答えてくれなかった。
そしてあの日以来、あの人は姿を見せなかった。あの人が一番知っていると思うのだけど、会えないことには聞くこともできない。
はあ、とため息が出る。
一方私のヨーギラスは何が楽しいのか、ずっと部屋を走り回っている。
「ランス、疲れないの」
「何のことでしょうか」
いつの間にか誰かが部屋に入っていた。机に頬杖ついていた私は顔を上げる。
ロケット団の人々は態度は悪いが私たちに手を出すことはなかった。だから私は油断していた。
ぴたりと首筋に当てられたそれは鋭い刃だった。
ひっ、と短い悲鳴が漏れる。
男は何も言わず首にナイフを強く押し付ける。
「顔の傷は消えましたね」
それはどこか残念そうな言い方だった。
ナイフが首から離れる。その瞬間、彼から逃げる。ぴったりと壁に張り付き、目の前の男の僅かな動きにも目を光らせる。
「捕まっている自覚を忘れないで下さいよ」
そんなことのために、この男は私にナイフを向けたのか。何ていう人だ。
「ランス、こっちにおいで」
この男に捕まったら何をされるか分からない。
私のヨーギラスは男を避けるようにして私の所まで来る。男は苛々とその様子を眺めている。
「そのヨーギラスの名前、変えてもらえませんか?」
彼、ランスは私を睨む。鋭い眼光に思わず目を逸らす。
「それは、出来ないです」
「どうしてです?」
ずずいとランスが近付いて来る。
どうして出来ないか、それは簡単な話だった。
この子は私が捕まえたポケモンではなく、人から譲り受けたポケモンなのだ。
捕まえたトレーナーでなければ名前を変えることは出来ない。つまり、私はランスの名前を変えることは出来ない。
それを話すとランスはひどく不機嫌になった。
「では、私がここへ来る時はあれをボールに戻しなさい」
ギロリと睨まれ仕方なくランスをボールへ戻す。後でボールから出した時、きっと怒られるだろう。でも仕方がない。
「さて、聞きたいことは何ですか」
「えっ…」
「一つ質問に答えると言ってるんですよ」
「えっと………」
まさかそんなこと言われるとは思わなかった。
聞きたいことは沢山ある。その中から一つなんて選べるはずがない。どうしよう、何を聞けばいいのだろう。
迷いに迷っていたらランスがまた私に近付いていた。
「時間切れです」
「えっ、そんな……」
ランスがニヤニヤしている。そしてまた一歩、距離が縮まる。
少しでも距離を取ろうと、壁沿いに逃げる。
けれどそんなの、無駄な抵抗だった。
「そういえば。あなたの名前を聞いてませんね」
「………、です」
「ですか。綺麗な名前ですね」
「……」
「ああそうだ、これを返しておきましょう」
そういえば、ランスは袋を持って来ていた。彼はそれを丁度私たちの真ん中へ置いた。
目を凝らしてそれを見ると、私の衣服だった。しかも袋から覗いているのは下着ではないか。
「ちょ、ちょっと!」
ぐいと手を伸ばし、袋を引き寄せる。
「色気のない下着を見ても何とも思いませんよ」
「あ、なっ、何言って……!」
たまらなく恥ずかしかった。それなのにランスはつんと澄ました顔をしている。まるで私なんかに興味ないようだ。興味を持たれても困るけれど、無関心であることにも腹が立った。確かに色気ない下着ではあるけれど、別に言わなくたっていいじゃない。
「今度にぴったりの下着でも用意させましょう」
「なっ・・・、いりませんっ!」
良い様ににからかわれている。それは頭の隅で気づいたけれど怒りを表さずにはいられなかった。
すると案の定、体よくあしらわれる。睨んでも効果はなかった。
「ではまた」
笑いもせず睨みもせず、事務的な挨拶をしてランスは部屋を去る。
足音が遠くなったのを充分確認してから、袋で返された衣服を広げる。
「………あぁ」
せめてもう少し色気ある下着にすれば良かった、無意識にそんなことを考える自分が嫌になった。
彼とあの子と私
でも、ここで貰った下着よりは女らしいと思うんだけどな。 |