ここへ来て4日経った。
昨日ようやく部屋に掛けられた時計を見上げる。
2時を過ぎていた。昼食も終わり、散歩でもしたい時間だった。けれど、当然私はこの部屋から出ることが出来ない。
太陽が恋しい。窓のないこの部屋に入ってから一度も見ていない。変化のない景色に嫌気がさしていた。

「あんた、何ボケっとしてんのよ」

部屋に入っているのは、私を倉庫からここまで連れてきた女だった。彼女は自身をパーラと名乗った。
パーラは私に食事を運ぶついでに、この部屋でサボりを働いた。今も食器を下げると言いながらかれこれ1時間はここにいる。

「外に出たいなぁって」

少しでも太陽に当たりたい。
こうこうと光る蛍光灯ではおかしくなってしまいそうだ。
パーラは顔をしかめて「無理に決まってんでしょ」と怒鳴った。

「こっから出したらアタシが怒られるでしょ」
「わ、分かってますよ」
「でも、って顔してるわよ。言っとくけど、出さないから」
「じゃあせめて」
「じゃあもないの!ダメったらダメ!」
「……、言い付けますよ」

パーラの顔がぴくりと引き攣る。

「あんた、アタシを脅すつもり?」
「………」

睨みつける彼女の瞳から目を逸らし、時計を見る。もうすぐポッポが飛び出して鳴くだろう。

「脅したって」
「パーラさんの上司はあの人でしょ?」
「まっ、まさかランスさまに告げ口する気じゃ……!」
「ランス、さんなんだ。あなたの上司って」
「嵌めたわね!」

パーラは怒りに狂うがもう遅い。
私は告げ口という切り札を手に入れた。一方彼女は私に手を出すことを禁じられているらしく、手も足も出せないでいる。

「少しだけでいいから、太陽が見たいんです」

何度も頼み込み、彼女が首を縦に振るのを待つ。
ボールの中から私のヨーギラスも出て来てパーラに頼む。ランスも日光を浴びたがっているのだ。
そうして遂に、

「わかったわよ。少しだけよ」
根負けしたパーラが頷いた。

 

 

「アタシがサボってること、絶対言うんじゃないわよ」

連れてこられたのは建物の屋上だった。
屋上から見える風景は全く見覚えのないもので、ここが何処なのかちっとも分からない。それでも、久々の太陽は心地良い。
大の字になって寝転ぶと目を閉じた。

「呼びに来るからここにいなさいよ」
「はい、ありがとうございまーす」

屋上の扉が閉まる。
私と、私のヨーギラス以外に生き物の気配はない。
ふうと息をはいて眠りについた。

 

ところが眠ろうとした私の耳に物音が届いた。
パーラのそれよりもがさつな足音で、つまり彼女ではない誰かが屋上に来ようとしているのだ。
見つかったらマズイ、慌てて貯水槽の影に隠れる。
恐る恐る覗いてみると、男と女がいた。どちらも何となく貫禄がある。

「ランスの野郎、最近動きがおかしいな」
「あら、そうなの?」
「ああ、お前さんは気づかないか?」
「あたくし、興味ないもの」

二人は何やら話している。
ランス、と聞こえたからあの男の同僚か何かなのだろう。
あの男はそれなりの地位であると思うから、あそこの二人も地位が高いのだろうか。きっと、そうなんだろう。

「ほら、早く帰るわよ」

そっと肩を叩かれ、ぎょっとして振り返るとパーラがいた。
口元に指を沿え、静かにと目配せされる。

「こっちよ」

どうやら扉は2つあるらしい。入ったのとは別の扉を通り、部屋へ戻る。

「まさかアテナさまとラムダさまが来るとは思ってなかったわ」

歩きながらパーラが喋る。
私がきょとんとしていたから、簡単に説明してくれた。

「アテナさまもラムダさまも幹部なのよ。
分かってると思うけど、ランスさまもね」

やっぱり偉い人なんだ。
じゃあ、あの人たちに勝てば此処から出られるのだろうか。

「ねぇあんた、」

パーラがいつになく真剣な声で私に問う。

「あんたは……、やっぱ止めた。何でもない」

どうしたのと聞き返す間もなく、彼女は私を部屋へ押し込んで鍵を閉めた。
ボールから私のヨーギラス、ランスが飛び出る。その子をそっと抱きしめるとため息が漏れた。
私はいつまでこんな生活を送るんだろう。どうして、ここにいるのだろう。

「はあ、嫌な感じだね」
「ぎゃあ」

もう一度ため息をつくと、ベッドに潜り込んだ。

 

とあの

 

夜になってやってきたランスは、私のやる気ない瞳を見ると何も言わず出て行った。