目を覚ましたら薄暗い部屋の中だった。
まったく見覚えのない部屋に驚いて起き上がる。けれど体が思うように動かずもぞもぞと揺れただけだった。
どうなってるんだろうと目を凝らして見てみれば、手足を縄で縛られていた。さらに身につけている服も全く知らないものだった。服がないのだから当然持っていた荷物も何もかもなくなっていた。
何がどうなっているのかちっとも想像出来ない。
壁に寄り掛かるようにして何とか体を起こす。
小さくて狭い空間は色々なものが雑多に置かれていた。ここは何かの倉庫なのかもしれない。
それにしても、どうして私はこんな所にいるのだろう。
途切れた記憶を辿る。
たしか、そうだ。私は見てしまったんだ、あの光景を。
そして彼らに見つかってしまい、意識を失った。
ということは、ここは彼らの施設なのだろうか。
耳を澄まして外の音を拾う。足音と声のようなものが聞こえた。けれど、言葉までは聞き取れない。
何とかして聞き取れないかとゆっくりと壁を伝って扉の付近まで移動する。扉に耳をつけ、集中して声を聞く。
「・・・・・・り・・・・・・・・・は・・・・・・よね」
「・・・・・・ね・・・・・・しかっ・・・・・・・・・」
悔しいけれど上手く聞き取れない。女のような高い声が2つ聞こえるぐらいだ。
「それ・・・・・・・・・こ・・・・・・るの」
ガチャガチャとドアノブが音を立てる。まさか、このドアを開けようとしているのか。それはまずい。
「移動させ・・・・・・って、あんた何してんのよ!」
扉が開くと同時に、私の体は扉に押され不樣に倒れた。剥き出しのコンクリートが頬を削る。
「早くしてよ。仕事が遅いと怒られるでしょ」
扉の外からもう一人顔を覗かせる。2人の女は私の足を縛る縄に気付いてないのだろうか。これでは立てないと言うのに、無茶を言わないでほしい。
「あら、足の縄が邪魔ね」
「どうする?」
「解いてもいいわよね?」
「いいんじゃない?」
女の一人がナイフで縄を切る。
「ほら、早く立ちなさい」
立ち上がると、どんと背中を押され部屋の外へと出た。
白を基調とした廊下はとてもじゃないがロケット団のアジトには見えなかった。床はタイル張りで、裸足だとひやりとする。
女たちは私の前後に立ち、黙々と歩く。さっきまでのお喋りはどこへ行ってしまったのだろう。
しばらく歩いてある扉の前で止まった。
「入んなさい」
どんと背中を強く押され、部屋の中に倒れ込む。しかし先程と違って床にはカーペットが敷いてある。少なくともこの部屋は倉庫ではないのだろう。
女が部屋の明かりを点ける。簡易ベッドと小さなテーブル、イスは見当たらない。質素だけれど良い部屋だと思った。
「しばらくここで待ってなさい」
女はバタンと扉を閉めると鍵を掛け、足音を響かせ去って行った。
しばらくって、どれくらいなんだろう。それに今は何時なんだろう。この施設には見た限り窓がない。だから外の様子が全く分からなかった。もしかしたら地下なのかもしれない。
何も出来ないので待つ時間はひどく長く感じた。どれくらい時が経っただろう。鍵を開ける音が聞こえ、扉が開いた。
さっきの女ではない、見知らぬ男だった。
翡翠色の髪をした彼は手にモンスターボールを掴んでいる。
「そのボールは・・・・・・」
ボールカプセルをセットしたそれは、私の唯一のモンスターボールだった。
男は私の言葉にはまるで無視で「おやおや、顔に傷が出来ていますね」なんてうすら笑みを浮かべながら話し掛けてくる。
「私のボール、返して下さい」
「あなたはそんな強気で言える立場ですか?」
ニヤニヤと男が笑う。彼の言う通りだった。身ぐるみ剥がされ、自由に動くことも出来ない私は、要求出来る立場ではなかった。私は言い返す言葉を見つけられず口をつぐんだ。
「良い子ですね。
ではこれは返しましょう」
男は隣に立つ男に指示を出し、私の手を縛る縄を解かせた。そして彼自ら私の手の中にボールを落とす。
意外にもあっさりとボールが手元に戻ってきて、不気味さを感じる。
「その見苦しい傷を何とかしてやりなさい」
翡翠色の男は部下にそう言うと、背を向けて部屋を出ていこうとする。
その時、私のボールの中からポケモンが飛び出し男に向かって走る。口を大きく開けて噛み付こうとして、「面倒なヨーギラスですね」男のドガースに返り討ちにあった。
「ラ、ランス!」
目を回したヨーギラスに駆け寄り、抱きしめる。
ボールから出てきた彼がいつも通り元気だったことに安堵した。とは言っても次の瞬間にはドガースに瀕死にさせられていたから安堵はすぐさま消えてしまったけれど。ああ、いくらこの子が悪いとは言え倒さなくてもいいじゃないか。
睨もうと彼を見上げると、眉を寄せる彼がいた。
「・・・・・・このポケモンは、」
「ランスさま、アポロさまがお呼びです」
「ラ、ンス…?」
男を呼びに来たのは先程の女だった。
今この女は彼のことをランスと呼ばなかったか。私の大切なヨーギラスと同じ、ランスと言う名で。
彼とあの子と私
まさかロケット団の男とこの子の名前が同じだなんて! |