プラスチックの性質を調べてみよう
■ねらい
プラスチックの材質による性質の違いを簡単な実験で調べる。それらの性質の違いで材質の見分けができることを理解する。
■準備と留意点
器具:ビーカー(200 ml×2個)、ガスバーナー、三脚、金網、割りばし、ピンセット、銅線(1 mmφ,約20 cm)、コルク栓、沸騰石
試料:高密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂(各樹脂 約1 cm×4 cmを4枚程度)
・プラスチック板は、材質の確かな、発泡させていないものを購入する。
・
高密度ポリエチレンを身近なものの利用で実験するときは、材質表示欄に高密度ポリエチレンや低圧ポリエチレンと記載されているか、

マークの不透明(乳白色)なもの、HDPE 等の表示のあるものを使う。写真のフィルムケース、試薬の空き瓶などを切って使っても良い。
よく似ているポリプロピレンは、結晶性が高く軟化温度が高い(約165℃)など、性質が異なるので間違わないようにしたい。
市販品は、25 cm×35 cm×1 mmで、230円程度。
・
ポリ塩化ビニルは、焼却したとき有害ガスが出ることからすぐに捨てられるものにはあまり使われなくなってきている。耐候性がよいことからホース、波板、雨ドイ、上下水道管に使われている。実験に身近にあるものを利用するときは、材質表示欄にポリ塩化ビニルと記載されている硬 質のものか、

マークの硬質のものを使う。
市販品(例えば、積水化学工業鰍フエスビロンプレート,硬質透明)は、 0.5 mm厚×30 cm×60 cmで、470円程度。1 mm厚×30 cm×60 cmで、600円程度。
・フェノール樹脂は、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂やベークライトとも呼ばれ、電気のコンセントやソケットの硬質のものや電子配線の基盤に使われている。
市販品は、電子工作用ベークライト板 1 mm厚×10 cm×20 cmで135円、1 mm厚×245 mm×325 mmで440円程度。(製品に関する問い合わせ先 サンハヤト(株)電話(03)3984-7791)
■操作と留意点
@200 mlビーカーに水道水を約1/2入れ、各樹脂を1本ずつ浸す、空気の泡が取れるように割りばしでかき混ぜたりしたあと、静置する。水に浮くかどうかで、密度を比較する。
A200 mlビーカーに水道水を入れ、沸騰石を入れてバーナーで加熱し沸騰させる。各樹脂を1本ずつ熱湯に浸し1分以上したあと、割りばしで引き上げ、曲げたり伸ばしたりしてみる。火傷をしないように注意すること。
Bガスバーナーの炎の中にいきなり入れず、炎に少しずつ近づけて、変化を観察する。
・融けたプラスチックに直接触れると、皮膚に付着して取れにくく、火傷をすることがあるので触れないように注意する。机にぬらした紙を敷き、その上で燃やすとよい。
・においをかぐときは、煙・すすや気体を直接吸わず、手であおぐようにして鼻に気体を運ぶ。
・特に、ポリ塩化ビニルは、塩化水素など有毒ガスが出るので注意する。あまり長時間燃やし続けないようにする。換気に注意する。
C銅線の先端を外炎に入れ、加熱する。それを熱いうちに直ちにプラスチックにつける。融けて銅線に付着したら、その先端を外炎の中程の所に入れる。
・一度使用した銅線は、付着しているプラスチックを完全に焼ききり、青緑色の炎色反応を示さなくなってから、次の実験に使用する。
・ポリエチレンのように塩素が含まれていなければ、青緑色の炎色反応を示さない。
・ポリ塩化ビニルのように成分元素として塩素が含まれていれば、銅イオンの炎色である青緑色に炎が着色する。
・フェノール樹脂は、熱した銅線で触れても融けないでこげるだけで熱した銅線に付着すらしないので炎色反応もしない。
■実験結果とまとめ
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ポリエチレン |
ポリ塩化ビニル |
フェノール樹脂 |
水に入れる |
浮く。 |
沈む。 |
沈む。 |
熱湯に入れる
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少し軟らかくなるが、弾性がある。
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軟らかくなり成形可能になる。冷やすとそのままの形で固まる。 |
変化しない。
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ガスバーナーで加熱する
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ろうそくのような炎を上げぽたぽたと落ちながら燃える。ススはあまり出ない。揮発油のような臭い。 |
黒いススを出しながら燃える。炎の外に出すと消える。たいへん強い刺激臭がする。 |
燃えない。黒くこげる炎から出すと白い煙が出てたいへんくさい。
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銅線につけて炎色を観察する |
炎色なし。
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青緑色の炎色。
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炎色なし。
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@ポリエチレンやポリ塩化ビニルは、軟質のものから硬質のものまで多様にある。硬さが違うのは加えてある可塑剤の量が違うからである。同じ種類のプラスチックでも材質により熱湯での軟化の度合いは一定でなく表の通りとは限らない。
A燃焼したときは、前記の表のように3種類の特徴がはっきり現れる。
■考察の例
@ポリエチレン(PE)は、ロウなどパラフィンと同じ炭化水素である。密度は、HDPEで0.94 g/cm3くらい、LDPE(低密度ポリエチレン)で 0.92 g/cm3くらいで、ともに水より小さく水に浮く。
ポリ塩化ビニル(PVC)は、成分元素に原子量の大きい塩素が含まれているため密度が大きく 1.4 g/cm3で、水に沈む。
フェノール樹脂は、ベンゼン環があり水素原子が少なく炭素原子が多いので密度が大きく水に沈む。
APE、PVCは、鎖状の高分子で加熱すると分子と分子がずれることができるので、変形ができるつまり軟化する。
HDPEは、分子に枝分かれが少なく、結晶化度が95%と高く、軟化点は、120℃前後で、透明性にやや劣るものの強さ、耐熱性にはLDPEより優れている。
LDPEは、分子に枝分かれが多く結晶化度が数十%しかなく、透明性はよいが軟化点は、100℃前後とやや低く、機械的強度も劣る。
PVCは、軟化点 70℃前後で沸騰水中では、大変軟らかくなり、曲げたり伸ばしたり成形ができる。
一般にPVCの耐熱温度は,60〜80 ℃と表示されている。
フェノール樹脂は、立体的網目状に共有結合しているので、加熱しても変形せず軟化しない。
BPEは高分子のパラフィンであり、ロウのように融けながら燃える。
燃えるとき炎が出るのは、熱分解で発生した気体が空気中で燃えるからである。ポリエチレンでは、熱分解で生成したエチレンなどの炭化水素のガスが燃えて炎となる。
PVCは、炭素原子が塩素原子によりPEよりは酸化されているため燃えるが、炎から遠ざけると消える。ポリエチレンに比べて難燃性である。170℃で溶融し、190℃以上で熱分解して塩化水素などを発生する。
フェノール樹脂は、加熱しても融けず、分解もしにくいので燃えにくく、炭化し、黒く焦げていく。白い煙は、分解により生じたフェノールやホルムアルデヒドなどであろう。
Cこのハロゲンの検出方法は、ロシアの有機化学者バイルシュタイン(F.K.Beilstein 1838-1906)が発見したのでバイルシュタイン試験(Beilstein test)と呼ばれる。
銅線を強熱すると、表面に酸化銅(U)の被膜ができる、その銅線に微量の試料をつけバーナーの炎に入れると、成分元素としてハロゲンがあれば、酸化銅(U)とハロゲンが化合しハロゲン化銅イオンが生成する。(塩素であれば、塩化銅イオンCuCl+が生成する)
金属銅や酸化銅(U)は、バーナーの炎の中の温度では昇華せず、炎色反応は示さない。しかし、ハロゲン化銅(T)は、バーナーの炎の温度で昇華し、銅イオンの青色〜青緑色の炎色反応を示す。
このときの反応は以下の通りである。
H Cl H O
| | | ‖
−C−C− + CuO → CuCl+ + −C−C
| | | |
H H H H
PVC 酸化銅(U) 塩化銅イオン PVC分解物
■発展実験
(1)試料としてポリスチレン、アクリル樹脂、メラミン樹脂等を加えて同様の実験をしてみてもよい。
(2)さらに、アセトンに溶けるかどうかを調べてもよい。ポリスチレンはアセトンに溶ける。アセトンは引火しやすいので使用するときは、実験室内のバーナー等の火をすべて消してから行うなど注意したい。
(3)ポリ塩化ビニルが燃焼すると塩化水素が発生することを調べる。試験管にポリ塩化ビニルの小片を入れ、ガスバーナーで加熱する。その試験管の口に、右図のように、水でしめらせたリトマス試験紙をかざして変色を観察する。
■参考文献
・長倉三郎・武田一美監修,「新訂図解実験観察大辞典 化学」,東京書籍(1992),pp.421〜422,宮川保之,”付録2 プラスチックの見分け方”