金属のいろいろな性質を調べてみよう
 
ねらい
 金属と酸や塩基との反応および燃焼について、金属の種類による反応性の違いを調べる。
 
準備と留意点
器具:ビーカー(50 ml×3)または細口試薬ビン(60 ml無色×2,60 ml褐色×1)、試験管(18 mmφ×9)、
   こまごめピペット(5 ml×3)ガスバーナー、ピンセット、サンドペーパー(150番程度)、ゴム手袋、防護めがね
薬品材料
20%塩酸(15 ml):約6 mol/lでもよい。濃塩酸(約35 %,12 mol/l)と純水を等量混合すればよい。20 %にするなら、濃塩酸に体積で0.9倍の純水を加えればよい。
20%硝酸(15 ml):約4 mol/lでもよい。濃硝酸(約70 %,16 mol/l)に体積3倍の純水を加えればよい。20%にするなら、濃硝酸に体積3.9倍の純水を加えればよい。光によって分解するので褐色ビンに保存する。
20%水酸化ナトリウム水溶液(15 ml):約6 mol/lでもよい。結晶24 gを純水に溶かして100 mlにする。20%にするなら、結晶20 gに純水80 gを加えて溶かす。
・上記3種類の溶液とも、劇物であるので試薬ビンには、赤色の枠のラベルを貼っておく。
鉄片、銅片、アルミニウム片(金属板を約1 cm×3 cmに切ったものをそれぞれ3枚ずつ)または、鉄くぎ、銅線、アルミニウム箔でもよい。
鉄線(約1 mmφ×15 cm、約0.3 mmφ×15 cm)
市販の針金は、1.0 mmφ×140 m(1 kg)で700円程度、0.3 mmφ×170 m(100 g)で150円程度。鋼鉄線(ピアノ線)ではなく、針金を購入する。
スチールウール(約3 cm×3 cm)
市販の日本スチールウール(株)の「ボンスター」で、太さNo.0(細い)、450 gで1,400円程度。太さは、No.6(極めて荒い)〜No.0000(極めて細い)まで5種類あるが、No.0程度がよい。はさみで切って使用する。
アルミニウム箔(1 cm×3 cm)
 家庭調理用のアルミホイルでよい。
 15 μm厚×30 cm×25 mで890円程度。
銅線(約2 mmφ×15 cmと約1 mmφ×15 cm)
 銅線には、錫引銅線と裸銅線があるので購入の 時は「裸銅線」と指定する。
 市販のものは、1 kgで3,900円程度。
 
■操作と留意点
【酸や塩基との反応のようす】
@3本の試験管に20 %塩酸をそれぞれ約5 mlほど入れる。溶液の高さは約3 cmになる。これに鉄片、銅片、アルミニウム片を入れて、反応のようすを観察する。
・塩酸にアルミニウムを入れた場合、発熱反応のため時間が経過すると、液温が上昇しさらに反応が激しくなってくる。あまり激しくなりすぎて水素の泡が試験管からあふれそうになってきたら早めに純水を注いで塩酸をうすめてやれば反応はおだやかになる。
A3本の試験管に20 %硝酸をそれぞれ約5 mlほど入れる。これに鉄片、銅片、アルミニウム片を入れて、反応のようすを観察する。
・硝酸が手につくと、キサントプロテイン反応といってタンパク質と反応して、黄色くなる。手についたときは、すぐ水道水で手を洗うこと。
・硝酸が反応したとき発生する無色の気体NOや褐色の気体NOは、有毒なのでできるだけ吸わないように注意すること。換気もよくするようにしておく。
B3本の試験管に20 %水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ約5 mlほど入れる。これに鉄片、銅片、アルミニウム片を入れて、反応のようすを観察する。
・薬品が目に入らないように、防護めがねをする。もし、目には入った場合は、水道水で十分洗い。医師の診断を受ける。
・水酸化ナトリウムなど塩基は、タンパク質を溶かす。目にはいると角膜が溶けて失明することもあるので、特に注意すること。
 
【炎に入れて燃やしてみる】
@鉄線、銅線は、サンドペーパーでよく磨く。
スチールウールは、端から少しずつほぐしておく。
・針金は、さびていない新品でも亜鉛メッキがしてある場合があるのでサンドペーパーでよく磨いてから使用する。
・0.3mmの針金が先端しか反応しない場合は、炎から出し冷えてから、サンドペーパーで酸化物をよく落とすと細くなるので、もう一度炎に入れて加熱すると、うまく燃焼する。
・スチールウールは、切ったそのままでは目が詰まっていて、外側しか燃えず、内部は、空気が入らないため燃えない。端から少しずつ引っ張ってほぐしてから火をつける。
A鉄線(2種類)、少量のスチールウール、アルミニウム箔、銅線(2種類)をピンセットでつまんで炎に入れて加熱してみる。
B金属の種類や太さの違うものを同様にして、反応の様子を比較する。
 
■後始末
・残った金属片は、水道水で洗って回収する。
・アルミ箔やスチールウールは、可燃ゴミとして捨ててもよい。
・酸、塩基の廃液は、回収し中和してから多量の水でうすめて下水へ捨てる。
 
■実験結果とまとめ
【酸や塩基との反応のようす】
@塩酸に入れたとき。
・鉄は,比較的おだやかに無色・無臭の気体の泡を発生する。数分後、無色だった水溶液がごく薄い緑色になってくる。
・銅は、変化がみられない。
・アルミニウムは、無色で無臭の気体の泡をさかんに発生する。液が少し温かくなってくる。。溶液の色は、変化しない。時間が経過すると、だんだん反応が激しくなってくる。
A硝酸に入れたとき。
・鉄は、はじめはおだやかに気体の泡を発生する。しだいに液温が上昇し、気体の発生が盛んになってくる。はじめのうちは、鉄から黒っぽい緑色の液がしみ出し試験管の底のたまってくる。反応が盛んになってくると無色だった水溶液は、しだいに褐色を帯びてくる。発生した気体は、水溶液近くでは無色だが、試験管の中程で空気に触れると褐色になる。この気体は、特有の刺激臭がある。
・銅は、おだやかに気体の泡を発生する。水溶液は、数分で青色を帯びてくる。発生する気体は、無色である。
・アルミニウムは、変化が見られない。
B水酸化ナトリウム水溶液に入れたとき。
・鉄は、変化がみられない。
・銅は、変化がみられない。
・アルミニウムは、たいへん小さな気泡の無色で無臭の気体を発生する。液温が徐々に上昇し、それに伴って反応がだんだん激しくなってくる。水溶液の色は、変化しない。
 
【炎に入れて燃やしてみる】
鉄線:直径0.5mm以上では、赤熱しても燃焼はしない。表面に黒い酸化物ができる。0.3mm以下の非常に細い鉄線は、赤熱後、炎の外の空気中に出すと、パチパチ火花を散らして燃焼し黒い酸化物ができる。先端には融けた酸化物が球を作る。スチールウールでは、ときどき火花を散らしながら燃え広がっていく。一部が融けていたるところに小さい球になってついている。燃えたあとは、黒い酸化物の綿になり、燃える前より硬くなる。手でもむと、細かい粉になってしまう。燃えている最中に、息を吹きかけると、燃える勢いが激しくなる。温度も上昇し、融ける部分が増える。
銅線:直径2mm程のものは、赤熱しても燃えない。炎の中では、美しい銅色をしているが、空気中に出すと表面に黒い酸化物ができる。直径1mmほどのものは、加熱すると真っ赤になり先端から融けて球になる。空気中に出すと黒い酸化物になる。
アルミニウム箔:加熱すると灰色の酸化物になる。
 
■考察の例
【酸や塩基との反応のようす】
は、塩酸や硝酸と反応し、気体を発生し溶けていく。水酸化ナトリウム溶液とは反応しない。
・一般に、イオン化傾向がHより大きい鉄などの金属は、酸に溶け水素を発生する。
・両性金属以外の金属は、アルカリ水溶液には溶けない。
は、強酸である塩酸とは反応しないが、同じく強酸である硝酸とは反応し気体を発生して溶けていく。水酸化ナトリウムとは反応しない。
・銅は、Hよりイオン化傾向が小さいため塩酸など普通の酸とは反応せず溶けない。
・希硝酸、濃硝酸、熱濃硫酸(加熱した濃硫酸)は、酸化力のある酸で、一般に銅など銀よりもイオン化傾向の大きい金属を溶かす。希硝酸が酸化剤として働くと、水素ではなく無色で刺激臭のある気体である一酸化窒素NOを発生する。濃硝酸からは、褐色刺激臭の気体である二酸化窒素NOが発生する。熱濃硫酸からは、無色刺激臭の気体である二酸化硫黄SOが発生する。
アルミニウムは、塩酸と鉄よりも反応しやすい。激しく気体を発生し溶ける。同じく強酸である硝酸に入れても反応しない。塩基である水酸化ナトリウムと反応し気体を発生し溶けていく。
・アルミニウムは、鉄よりもイオン化傾向が大きいため、塩酸とは鉄より激しく反応する。しかし、硝酸と反応しないのは、不動態になるからである。つまり、アルミニウムの表面に硝酸の酸化作用のためにち密な酸化アルミニウムAlの被膜ができてしまい内部が反応できなくなるからである。不動態になりやすい金属には、アルミニウムの他に、鉄、ニッケル、クロム、チタン、ステンレス鋼などがある。
・鉄は、希硝酸や濃硝酸には溶けるが、発煙硝酸には、不動態になり溶けない。
・アルミニウムなど酸とも水酸化ナトリウムなど強塩基とも反応する金属を、両性金属という。他に、亜鉛、スズ、鉛などがある。
・塩酸や水酸化ナトリウムが金属と反応したとき発生する無色で無臭の気体は、水素と思われる。それを確かめるには、発生した気体を捕集し、点火して燃焼または爆発をするかを調べてみればよい。
・希硝酸から発生した気体は、無色であるが空気に触れると褐色になったことから、一酸化窒素と思われる。そうだとすると褐色の気体は、二酸化窒素である。二酸化窒素であれば、水に溶解すると反応し硝酸になるはずだから、この気体を確認するには、褐色の気体を捕集し、純水にとかし酸性であることを確かめればよい。また、特有の刺激臭がある。
 
【炎に入れて燃やしてみる】
・同じ鉄でも、太い場合は燃焼しないが、細くしたり表面積を大きくすると燃えるようになる。燃えるとき炭素含有量が少ない軟鉄はあまり火花が出ない。炭素含有率の大きい鋼は、よく火花を散らす。スチールウールは炭素含有量が比較的少ないと思われる。
・燃えやすさの順は、アルミニウム>鉄>銅である。
・金属が酸やアルカリと反応して溶ける反応は、酸化反応であり発熱反応である。そのため液温が上昇する。アルミニウムは、イオン化傾向が大きく反応しやすく、塩酸や水酸化ナトリウムとの反応は、時間が経過すると、液温の上昇とともにさらに反応が激しくなってくる。そのため激しくなりすぎて水素の泡が試験管からあふれそうになってきた。そこに純水を注いで塩酸をうすめてやれば反応はおだやかになる。
 
■発展実験
・他の金属を使って、反応のしやすさを比較する。たとえば、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、銀。
・鉄、アルミニウムや銅は、他の酸でも反応するかどうか。その反応の激しさはどうか比較してみる。たとえば、酢酸、希硫酸、濃硫酸、熱濃硫酸、濃硝酸。
・鉄、アルミニウムや銅は、他の塩基と反応するかどうか調べてみる。たとえば、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水。
・シュウ酸鉄(U)の淡黄色粉末を試験管に約1/4とり、ガスバーナーで強熱すると、分解して鉄や酸化鉄の混合した黒色微粉末ができる。これを空気中に放出すると自然発火する。
 このことから、鉄は、太いと燃えない、細い線にすると点火すると燃える、微粉末は自然発火するということがわかる。
・マグネシウムに空気中で、火をつけ燃焼させてみる。イオン化傾向がアルミニウムより大きい金属は、たいへん激しく燃焼(酸化反応)することがわかる。
・燃えているマグネシウムは、二酸化炭素の気体中や沸騰水中に入れても燃え続ける。このことから、燃焼には必ずしも空気(酸素)は必要でないことがわかる。
 
■参考文献
(1)長倉三郎・武田一美監修,「新訂図解実験観察大辞典 化学」,東京書籍(1992),pp.376〜378,
 武田一美,”220 金属の性質”,光り方、硬さ、熱伝導性などについてや他の金属についても比較してある。
(2)日本化学会編,「教師と学生のための化学実験」,東京化学同人(1987),pp.61〜64,佐々木恒孝, ”16 もえる鉄,もえない鉄”
 
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