ガラスをつくってみよう
■ねらい
ガラスは、身近にある原料でつくられる物質である。しかも、不透明な原料物質から透明な輝きのある宝石のような美しい物質ができることを体験するのは感動的でもある。ガラスの中でも融点が低く比較的容易にできる酸化鉛(U)とホウ砂を加えたガラスをつくってみる。
■準備と留意点
器具:乳ばち、乳棒、るつぼ(15 ml)、るつぼばさみ、ガスバーナー、鉄製スタンド、支持リング、るつぼ用マッフル(9 cm)、鉄板(または銅板,ステンレス皿でもよい)、作業用手袋、金属板(観察用鏡として使用)、薬さじ(ステンレス製)、木の板またはセラミックス板(約 50cm×50 cm)、(木灰入れ用容器)
薬品:酸化鉛(U)、四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、二酸化ケイ素(粉末ケイ砂)
・酸化鉛(U)(さんかなまり)PbOは、一酸化鉛またはリサージ lithargeとも言われる淡い橙色の粉末。劇物。毒性が強いので口に入らないように注意する。加熱の時も蒸気を吸い込まないようにすること。ラットの最小致死量は腹腔内投与で430 mg/kg。
・四(し)ホウ酸ナトリウムNa2B4O7の十水和物をホウ砂(しゃ)boraxやガラスホウ砂とも言う。
組成式は、Na2[B4O5(OH)4]・8H2O
・二酸化ケイ素SiO2は、硅砂や珪砂と表現されている場合がある。ケイ砂(しゃ)(粉末)または無水ケイ酸(沈降製)と発注する。
・薬品の量は次のようにするとよい。
酸化鉛(U)・・・・・・・・・・・・・7 g
四ホウ酸ナトリウム・・・・・4 g
二酸化ケイ素・・・・・・・・・・1.5 g
・このガラスは、鉛が入っているため淡黄色を帯びている。仕上がりのガラスの色を透明に近くするために、消色剤として黄色の補色である青色を出す塩化コバルト(U)CoCl2水溶液(0.25 g/l)を約1 ml加えてもよい。
・上記の量でつくると直径7〜8 mmくらいのガラス玉ができる。もう少し大きくペンダントにできるくらいの直径15 mmくらいにするため、1.5〜2.0倍くらいまで増量してもよい。あまり量を多くするとガラスが固まる時にできる歪みではねて割れることがあるので注意する。薬品の比率を変えすぎるとガラスができないことがある。
・ソーダ石灰ガラスにできるだけ近い成分組成にしたいところではあるが、実験室でガスバーナーを使用した加熱で短時間に作れるガラスということで劇物の酸化鉛(U)を多量に用いたガラスにした。
・800 ℃までの加熱ならるつぼのみでよいが、1,000 ℃程度の高温で熱する必要があるため、マッフルはぜひ必要である。るつぼの外壁や炎からの放射伝熱による熱エネルギーの損失をマッフル内壁の反射で防ぎ、炎からの対流伝熱の効率を高めるので加熱温度を確実に上昇させることができる。
・マッフルは三脚に置いてもよいが、加熱のための炎の位置を調節しやすいように、ここでは鉄製スタンドに支持リングを取り付けて行った。
・るつぼは、一度この実験で使用するとガラスが完全には取れないので、ガラスづくりの実験以外では使用できなくなる。
・LPGを利用している場合は、温度が上がりにくいことがある。バーナーは、火力の強いメッケルバーナーがあれば理想的である。
・ハンディタイプのバーナーなどで火力を補うなどの工夫も良い。
■操作と留意点
@まず、ケイ砂 1.5 gを乳ばちに入れ乳棒でできるだけ細かくすりつぶす。そこに、四ホウ酸ナトリウム4 gと酸化鉛(U)7 gを加え、細かくすりつぶしながらよく混合する。
・一番硬いケイ砂を最初にすりつぶしてから他の薬品を入れた方が、劇物であるPbOの粉末の飛散を防ぐ意味でよい。
・原料物質の粒子が細かくなっており、しかもよく混ざっていないと、低い温度でうまくガラスができにくい。

・このときもとの原料の色をよく観察しておく。
Aよく混ぜた原料全部をるつぼに入れる。
・劇物の入った原料を飛散させないように気をつけ、ていねいに入れる。
Bガスバーナーの上端とマッフルの下端との間隔が約7 cmになるように、支持リングをスタンドに固定し、マッフルを置く。そこに原料を入れたるつぼを置き、さらにもう一つのマッフルをかぶせる。
・加熱中の様子を観察するためにも、また、原料の加熱分解で二酸化炭素や水蒸気などが発生するので、るつぼにはふたをしない。
Cガスバーナーに点火し、初めの1分間くらいは中火で温度が上昇してきたら火力をしだいに強くしていき、最強の炎にしていく。
・しだいに火力を強くするのは、るつぼが急激な加熱で割れるのを防ぐためである。
・加熱中に、るつぼ内の様子を観察するとき、真上からのぞくと有毒な蒸気を吸い込んだり、熱風で顔面が熱くなったり、まゆ毛や髪の毛を焼いたりすることもあるので、板面がきれいな金属板などに写して見るようにするとよい。
・ガラスの鏡は、熱で割れる可能性があるので使用しない。
D気体が発生しなくなって、さらにで加熱し粘性のある液になったところで、るつぼばさみでかぶせてあるマッフルを取りセラミックス板上に置いておく。セラミックス板上に鉄板を置き、るつぼを取り出し、一気に傾けて鉄板の上に内容物をすばやく流し出す。
・バーナーの加熱が効率よく行けば、約10分でできる。加熱が弱かったりするとさらに数分の加熱を要する。

・溶けたガラスに粘りがありすぎて流し出すことができない場合。しかたないので、冷めたあとのるつぼの底のガラスを観察する。
Eるつぼは、急冷すると割れるので、マッフルの中に戻し、ゆっくり冷却する。
F取り出したガラスは、木灰(きばい)の中に埋めるか、図のように使用していたマッフルをかぶせてできるだけゆっくり冷却する。
・空気中でそのまま冷却するとひびが入ることが多い。上記の方法でかなりの割れを防ぐことができる。
・ホットプレートを加熱しておき、そこに載せてゆっくり冷やすこともできる。
G約5分後マッフルをはずし、もうしばらくさまし、十分冷えたことを確認後、できたガラスの透明度や輝き、持ってみて重さや硬さなどを観察する。
・ガラスが割れたり、ひびが入っているときは、手を切らないように十分注意する。
■実験結果とまとめ
・加熱を始めるとすぐに原料の粉末の中から、気体が発生する。気体が発生している間は、粉末の飛散を防ぐ意味から、中火にしておく。
・2分ほど加熱し続けると気体の発生が穏やかになるので、徐々に火を強くしていく。
・最大の炎にしてから、数分たつと真っ赤に融けた状態になる。
・るつぼを取り出し、一気に鉄板上に流し出す。
・融けたガラスは、まるではじかれた水滴のように扁平な球形になる。
■考察の例
・加熱によりるつぼ中の薬品が赤くなってくると気体が泡となってぶつぶつと出てくるのが観察される。これは主に分解によって生じた二酸化炭素や水蒸気だと思われる。
■発展実験
[着色ガラスを作る]
この実験で使ったガラスの原料に、微量の金属化合物を加えてガラスを着色し、色ガラスをつくる。
・方法は、混合したガラスの原料に、さらに着色のための金属化合物を加え、よくすりつぶしながら混合する。加熱など操作はこの実験と同じ。
・着色剤の量は、原料の全体量に対して1%以下の微量でよい。
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添加する化合物の例 |
添加量 |
色 |
塩化コバルト(U) |
0.01g |
淡青色 |
塩化コバルト(U)六水和物 |
0.1g |
濃紺色 |
硫酸銅(U)五水和物 |
0.1g |
緑色 |
酸化銅(T) |
0.1g |
緑色 |
硫酸ニッケル(U)六水和物 |
0.03g |
紫〜淡茶色 |
酸化マンガン(W) |
0.01g |
紫色 |
酸化鉄(U) |
0.1g |
茶色 |
クロム酸カリウム |
0.06g |
草色 |
セレン化カドミウム |
0.01g |
黄色 |
セレン化カドミウム |
0.05g |
橙色 |
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[ペンダントをつくる]
・上記の色ガラスを七宝焼の型や製菓用の金属型などに流し込む。
・鎖をつけたりすると見栄えのするペンダントになる。
・上記の方法でつくったガラスは、空気中の水分を吸って劣化し、1〜2か月で表面が白くなってしまう。透明マニキュアなどを塗っておくとそれを防ぐことができる。
■参考文献
(1)左巻健男編,「理科おもしろ実験ものづくり完全マニュアル」,東京書籍(1993),pp.189〜193,杉山美次,“44 色ガラスのペンダントづくり”
(2)左巻健男編,「楽しくわかる化学実験事典」,東京書籍(1996),pp.305〜307,杉山美次,“着色ガラスペンダント”