家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん11月号(2025年11月1日発行)は

美術館「えき」KYOTOで行なわれていた「やなせたかし展」に行ってきました。貴重な展示物が沢山あったのですが、私が一番興味を持ったのは、「アンパンマンのマーチ」の、手書きの原稿でした。そこには、多くの推敲跡も残されていました。
「そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ 胸の傷がいたんでも ああ アンパンマン やさしい 君は いけ! みんなの夢 まもるため」
の部分は、最初は、
「そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ いのちが終わるとしても ああ アンパンマン やさしい 君は いけ! 悲しみを 消すために」
だったのです。
やなせさんの伝えたいことは、
「生きる喜び。たとえ、いのちが 終わるとしても」ということと、「やさしい君は、行け、悲しみを消すために」ということだったのです。悲しみを消し、みんなを喜ばせるために生き抜いたのが、やなせさんの人生だったのではないかと思います。
仏さまの心は、慈悲という言葉で表わすことができます。そして慈悲は、「抜苦楽与」(苦を抜き、楽を与える)という意味だと解説されます。
やなせさんの思いの中に、仏さまの慈悲の心を感じました。

ノルウェーの平和学の父ヨハン・ガルトゥング氏は、「平和とは暴力がない状態のこと」と定義づけておられます。そして、暴力について三つ挙げておられます。
1つ目は、直接的暴力(物理的暴力)。例えば、戦争などです。
2つ目は、構造的暴力。例えば貧困、差別、占領などです。
3つ目は、文化的暴力。例えば無知、無関心などです。これは、直接的暴力や構造的暴力を、正当化したり、維持したりするような考え方・思想・態度などのことです。
戦争をしていない日本は、本当に平和だと言えるのでしょうか。特に、3つ目の文化的暴力について、考えさせられました。

ベンチでムヒカさんは、「貧しさ」について語った。「何もかも持って満たされている人が、さらに『これが欲しい』『あれが欲しい』というのが貧しさだと思う」
これは、2025年5月15日『朝日新聞』に載っていた「ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領死去」の記事の一部です。(亡くなられたのは、5月13日)。
ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領は、「世界でいちばん貧しい大統領」として有名になった方です。
「貧しさ」とは、一体何でしょう。お金や食べ物がないことも、貧しさでしょう。そのことを解決することは、緊急の課題です。しかし、それと共に「心の貧しさ」について考えることを、忘れてはならないでしょう。
(小池秀章)

育心

ただ信じて待つ   龍谷大学短期大学部教授/羽溪 了

今月は、羽溪先生の『育心』を通して、幼年美術の会で多くの学びをいただきました、黄瀬重義先生のお言葉を、味わわせていただきました。
「Kちゃんは、なかなか絵を描き出せないんです」「Sちゃんは、隣に座っているMちゃんの絵をそのまま真似て描いてしまうんです」など、描画活動(お絵描き活動)での保育者たちの声をよく聞きます。
黄瀬先生の言葉には「すぐに(画材に)飛びつく子、描く子もいれば、見ているだけの子、みんなが終わりかけるころゆっくりとりかかる子もいていい」とありました。何だかフワッと肩の力が抜けるような気がします。
そしてさらに、「お絵描き活動の後には必ず作品があるという思い込みを捨てましょう」とありました。
羽溪先生のお話や黄瀬先生の言葉にふれて、冒頭の「描き出せない」「描いてしまう」という保育者の言葉は、「作品の完成が正解」という保育者の思い込みからくるものかもしれないと気付かされ、学ばせていただきました。
「一人一人の描きたい≠ニいう気持ちの芽生えを信じて待つ」
という言葉をしっかりとこころに留め、こども達の「表現の芽生え」を大切にしていきたいと思います。

もっと絵本を楽しもう15

“絵を読む。言葉を受けとめる。みんな強くて…みんな弱くて…”   
絵の本あれこれ研究家/加藤啓子

2ページ目は、加藤啓子さんの『もっと絵本を楽しもう15』です。
今回は、文:趙博さん、絵:長谷川義史さんの「グーチョキパーのうた」をご紹介くださいました。
今も昔も悲しい争いが多い世の中で、いろんな人がいていろんな考え方があるということや、絵本の中にも出てくる「みんなつよくてみんなよわい」「みんなよわくてみんなつよい」ということを、言葉や絵で感じることのできる素晴らしい絵本だと思いました。
そして、こども達に届けたい「平和へのメッセージ」だと、私も深く感銘を受けました。
お話の中の加藤先生の言葉「急いでこども達に絵の解説はしないでください。こども達自身がじっくり時間をかけて理解していくことが大切だと思うので」は、羽溪先生の『育心』のお話にも重なり、さらに学ばせていただきました。

私の雑記帖

フィレンチェの街で感じた、心満ちる知足の日々   
リストランテ『cisoqui』オーナーシェフ/北田 謙

『私の雑記帖』のイタリアンシェフ北田謙さんは、本場フィレンツェのお料理とワインが美味しいお店の看板シェフです。
「イタリア料理なのにcisoqui(知足《チソク》)?」と、初めてお店にうかがった際に質問したのがきっかけで、会話がどんどん弾みました。
そして、お話ししているうちに、まだ行ったことのないフィレンツェの街並みや風景が、目前に広がっていくような不思議な感覚になりました。
店名に込められた思いや、イタリアでのエピソードなど、貴重な原稿をありがとうございました。

お話の時間 つきみとほし46

ひとのことは気づくのに   文・絵/三浦明利

今月の『お話の時間』は、失敗したことも、大きくなった自分たちも、認め合い喜び合うほし君とつきみちゃんのお話です。

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芋ほりや栗拾い、秋の味覚が嬉しい季節がやってきました。
(鎌田 惠)

令和7年10月15日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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