仏教が大切にしてきた言葉に「慈悲」という言葉があります。「慈悲」の「慈」は、インドの古い言葉で「マイトリー」という言葉の訳語で、見返りを求めない「純粋な友愛」を意味しています。「悲」は「カルナー」の訳語で、他者の悲しみや苦しみを共に痛んでいく心を意味していました。これは他者の痛みを自分と関係のないものとして眺めていくのではなく、わがことのように引き受けていく共感の心です。仏さまは私たちの苦悩をご自身の痛みとして受け止め、響きあう心をお持ちだからこそ、私たちのしあわせを心から願い続け、その実現のためにはたらき続けてくださるのです。
私たちは互いに様々な痛みを抱えて生きています。誰にも言えない苦しみや悲しみを、心の中に抱えて生きています。しかし仏さまは私の抱える痛みに対して、「自分で治しなさい」とか、「自分で何とかしなさい」とはおっしゃらず、共に痛み、共に泣いてくださいます。「つらいね。悲しいね」と、どこまでも苦悩の私に寄り添ってくださる温かな心を慈悲というのです。
この仏さまの慈悲の心こそ、尊い真実(まこと)であると受け止めてこられたのが、多くの先人方が大切にされてきた仏教的な価値観でした。
ドラえもんの映画「のび太の結婚前夜」に、とても有名な感動的なシーンが出てきます。ドラえもんに登場する、のび太くんとしずかちゃんは未来に結婚することになるのですが、まだそのことを知らないのび太くんが、ドラえもんと一緒にタイムマシーンで未来を訪ねて、自分がしずかちゃんと結婚できているのかどうかを確認しにいくというストーリーです。未来のしずかちゃんは、のび太くんとの結婚式の前夜、結婚することに対して不安を抱えていました。そんなしずかちゃんに対して、しずかちゃんのお父さんは語りはじめます。
のび太くんを選んだ君の判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それが人間にとって一番大事なことだからね。彼なら間違いなく君を幸せにしてくれると、僕は信じているよ。
この言葉がなぜ、多くの人々の心を打ってきたのでしょうか。それはここに語られている言葉に、世代を超えて語り継がれてきた大切な価値観が込められているからだと思うのです。作者の藤子・F・不二雄さんが、ここに仏教的な価値観を込められたのかどうかは分かりませんが、このような価値観に触れる時、私たちの心奥に確かな共感が広がっていくように思うのです。
仏教が長い間、大切に説き続けてきた仏さまの温かな慈悲の心を、私自身、これからも聞き続け、伝え続けていきたいと思っています。
(赤井智顕)
自分を動かすことを、なまけない 超勝寺住職・著述家/大來尚順
今月の『育心』の中の、大來尚順先生と娘さんの微笑ましいエピソードを、大変興味深く拝読させていただきました。
大來先生は、娘さんと遊ぶ中で「遊びは、型にはめる必要はないということを改めて感じた」そして、「どんなことでも遊びや自分の興味のあることに変えることができるのは、子どもならではのパワーと能力だと感じました」と仰っています。
日常のどこにでもある当たり前を、水や土や石ころ、雲や風や夕暮れに見える人影であれ、子どもたちはいろんな方向から自由な発想や感性で、一瞬にして遊びに変換して楽しむ天才だと私も常々感じています。
テーブルにこぼれてしまった容器の水を、手のひらで集めたり散らしたり、何度も何度も繰り返して楽しむ2才児のTちゃんを、台布巾で拭こうとする手を止めて、微笑んで見守るM先生の姿を見たことがあります。
テーブルの水が窓からさす光でキラキラとしながら、塊になったり広がったりする様の面白さに、共感していたのかもしれません。明るくて優しくて、ウキウキが伝わる光景だったのを覚えています。
「のびのびと育つ中で生まれる発想力と行動を大切にし、人間の柔軟性を育む親(保育者)」でありたいと私も思いました。
ちょっと かえて
あそび歌作家・大阪芸術大学短期大学部保育学科客員教授/鈴木翼
2ページ目は、鈴木翼さんの『かんたんふれあい遊び』です。
今回の手遊び歌は「ちょっと かえて」です。キャベツの「ツ」を「ピ」に変えたり、ぶたの「た」を「ぺ」に変えたり、本当に「ちょっと」変えるだけで、子どもたちの笑いがはじけます。
鈴木さんが仰っているとおり、子どもたちの笑顔のためには何でも工夫したいですね。でも逆に、子どもたちから「笑い」をもらうことも多いかもしれません。
アレンジは自由自在ということなので、子どもたちと一緒に考えながら、いろんな言葉を「ちょっと」変えて楽しんでみたいですね。
誌面のQRで鈴木さんの動画を見ながら、ご家庭でも日常のちょっとした隙間時間に、子どもさんと一緒に楽しんでみてください。
オペラをご覧になったことはあるでしょうか オペラ歌手/田坂蘭子
『私の雑記帖』は、オペラ歌手の田坂蘭子さんのお話です。
コロナウイルス感染拡大の時期を経験し、私たちの人生において「文化」というものが極めて大切であると実感され、街中のいろんな職種の人々と一緒になって「音楽を愉しむ街づくり」の活動をされています。
田坂さんは、心の豊かさを育むことは、人と人を、自分自身を思いやることのできる社会につながっていくと仰っています。
音楽を通したあたたかな活動が、未来につながっていくことを心から願っています。
貴重な原稿をありがとうございました。
蓮の花 文・絵/三浦明利
今月の『お話の時間』は、朝日に照らされた池に開く蓮の花を見ながら、つきみちゃんとほし君、お父さんお母さんの会話がはずみます。
雨の日のお散歩が楽しい季節になってきました。
(鎌田 惠)
令和7年6月16日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)