以前、あるご門徒のお宅へ寄せていただいた時の出来事です。80代でご往生されたお母様のご法事のご縁でした。ご法事には60代の息子さんがお一人でお参りされていました。お勤めをはじめますと、背中越しに、すすり泣く声が聞こえてきます。息子さんが肩を震わして泣いておられるご様子でした。そのすすり泣きは、お勤めが終わるまで止むことはありませんでした。
人の一生には歴史があります。息子さんとお母様との間にどのような時間があり、どのようなことがあったのか私には分かりません。しかし親子の関係には、親と子にしか分からない深い想いのあることだけは間違いありません。ご法事を終えた後、息子さんが仰いました。
仏さまの前で安心して泣かせていただきました。苦労して生き抜いた母を、お念仏のなかに感じさせていただきました。
私たちは普段、誰にも見せることのできない想いを、心の中にひっそりとおさめて生きています。仏さまの前に座らせていただく時、ふとその想いが涙となってあふれ出ることがあります。けれどそれは絶望や孤独のなか、一人で流す涙ではありません。仏さまのお慈悲のなかで泣かせていただく涙です。
浄土真宗の教えは、苦しみや悲しみを無くす魔法や奇跡を説くものではありません。ましてや私のわがままや欲望を満たす教えでもありません。決して無くすことのできない苦悩を抱えながらの人生を、仏さまと共に歩んでいく道、自分一人ではどうすることもできないこの人生が仏さまに支えられ、お浄土へと導かれていく教えです。悲しみも喜びも、ともに阿弥陀さまのお慈悲のなかにあると、親鸞聖人や先人方はお念仏の人生を生き抜いてこられたのです。
阿弥陀さまは法蔵という菩薩さまであった時、人に見せることのできない私の涙を、想いを、ご覧になってくださいました。そして「あなたを必ず救うことのできる親になる」と願ってくださいました。それから想像を絶するようなご苦労の果てに、その願いを完成され、「南無(まかせよ)阿弥陀仏(われに)」という、まことの親の名のりをあげてくださったのです。
今日も私とご一緒の仏さまがいてくださいます。いまここに先立って往かれた方々のはたらきに遇わせていただくことができます。「南無阿弥陀仏」の仏さまとご一緒であればこそ、この苦悩の人生が支えられ、決して空しくは終わっていかない、お浄土へと生まれ往く歩みが、私のいのちの上に開かれていくのです。
(赤井智顕)
「ギュッ」とではなく「パー」で 超勝寺住職/大來尚順
大好きな「たべっこどうぶつ(ビスケット)」を、小さなこぶしからはみ出るぐらい、いくつもギュッと握りしめて、顔を強張らせるMちゃん(3歳児の女の子)です。
「Kちゃんに、一つどうぞしてね」とお母さんに促され、仕方なくそのこぶしを開き、一つ年下の妹Kちゃんに「どうぞ」ができました。
「ありがとう!!」のKちゃんの笑顔と美味しそうな顔。Mちゃんもビスケットを一つ「パクリ」と食べて笑顔。頑なに握りしめた「グー」が「パー」と開き、幸せな世界が広がりました。
今月の『育心』は、大來尚順先生のお話です。
自分の「ものさし」を「ギュッ」と握りしめていたら、相手の「ものさし」を受け止めることはできず、ぶつかり合いになる。握った手の力を和らげ、「パー」にしてこそ相手を受け止めることができる。と、大來先生のお話の中にあります。
私たち大人は、なかなか握りしめた自分の「ものさし」をひらく勇気がありませんが、柔軟な子どもたちの姿に学び、仏さまのおこころを聞かせていただき、握りしめた手の力を和らげたいと思いました。
たっぷり楽しむ絵本 絵の本あれこれ研究家/加藤啓子
2ページ目は、絵本のあれこれ研究家の、加藤啓子さんの「もっと絵本を楽しもう14」です。
内緒話みたいにわくわくする「ささやき読み」、焦らして焦らしてページをめくる「次はどんなん?」のドキドキ、子どもたちのアクションでページをめくる参加型など、読み聞かせ術がいっぱいのシリーズです。
そしてきっと技術だけでなく、加藤さんが「この絵本が大好き」で、そのワクワク感が表情や間合いを生み、より楽しい絵本の世界が広がるのではないかと感じました。
ご紹介いただいた『す〜べりだい』『いろいろばぁ』は、子どもたちに人気の絵本で、園でもよく保育者の読み聞かせの場面を見ます。
まずは、私たち(読み手)が、思いっきり絵本を楽しみたいですね。
暮らしをうたう ボーカリスト/木原鮎子
『私の雑記帖』は、ボーカリスト木原鮎子さんのお話です。
木原さんの音(歌声)はいつも、軽やかだったり、爽やかだったり、しっとりしていたり、元気にはじけたりと、いろんな表情を見せてくれます。
木原さんの大切にされている暮らしや、音楽に向き合う姿勢が「音」となって広がっているんだと、このお話から感じました。
ますますのご活躍が楽しみです。
寒さが増してきますが、元気に新年をお迎えください。
(鎌田 惠)
令和6年12月10日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)