突然ですが昨年、園全体で『自分のことは自分で』という目標を立てました。コロナを経て、全般的にこどもたちの意欲が弱くなったように感じたのです。面白そうなことを前にして、やってみる前に諦めたり、そもそもやる気が薄かったり、経験のないことに尻込みするような姿が、以前よりぐんと目立つようになりました。あれこれ考えて、失敗の経験が減ったことが、原因の一つに挙げられるのではないかと思い至りました。というより、コロナ禍はまぎれもなく暗闇の中を手探りで進むような毎日。感染症を極端に恐れ、殻に閉じこもって自分の身を守るようなやり方が良いとされ、感染した方やマスクをしないことへの批判も沸き起こりました。誰も悪くないのに、疑心暗鬼と不安が生活のすべてを支配して、絶対に失敗できないような空気が漂っていましたっけ。
だけど本当は、何度失敗したっていいんだよ。失敗がたくさんあった方が、成功した時はもっとうれしいんだよ。ほかにも、失敗についてこどもたちに伝えたいメッセージがたくさんあります。わたしたちもいっぱい失敗して、それを許容してもらって、大きくなってきました。つまり、安心して失敗できる土壌こそ、大人たちから、未分化から分化へという発達を辿るこどもたちへの、最大のプレゼントだと思うのです。
失敗しても大丈夫だから、自分でトライする一年間を過ごしてほしい。そんな願いのもと、各学年でさまざまな試行錯誤が始まりました。年中・年長さんはもちろん、0歳児にも0歳児なりの、自分でやってみるべき経験があります。「お家の方に通園バッグを持ってもらうのってどうなんだろう」「やればできることをやらない時にはどうしよう」など、保育者たちは話し合いながら、かかわりを見直し始めました。
同時に、「自分のことは自分で」という言葉の響きに、かすかな違和感を感じるようにもなりました。世界はまさに戦争の真っただ中。世界各地で大規模災害が起きて、たくさんの人が日常を奪われています。それに、どんなに元気で自立した人でも、歳をとればいろいろと自分ではできないことが増えていくのです。自分のいのちを守るだけで精いっぱいの状況で、「自分のことは自分で」という言い方は、なんだか冷たく寂しく聞こえる。掲げた目標の意義と課題の狭間で悩み始めたころ、
自分のことは自分でしない
保育の先輩先生が紹介してくださったこの言葉に、衝撃を受けました。関西大学名誉教授杉本厚夫先生のご著書のタイトルでした。手伝ってほしい時に「手伝って」と言える関係の方こそ大事。孤立しない、本当の自立のためには、コミュニケーションを紡ぐことだと。
今年、わたしたちは新しい目標を掲げました。『自分たちのことは、自分たちで』。共助や共生を目指し、「助けて」と言える関係を作り、自分の得意を生かして、みんなとかかわってほしい。「自分たち」の輪は、クラスや園を越えて、世界人類を包括できるほど大きくなり得るのだと知ってほしい。戦火の中のあの子のいのちとわたしのいのちのつながりを感じてほしいと願っています。
(武田修子)
世界から選ばれる平和な日本に 作家/玉岡かおる
今月の『育心』は、玉岡かおるさんがご執筆くださいました。
今年4月に入園してきた2歳児の男の子、K君の国籍はベトナムです。ご家庭では母国語のコミュニケーションなので、園で、なかなか日本語の発語がありませんでした。
時々発する単語は、母国語(おそらく?)だったり英語だったり、最近は少しだけ日本語のような単語だったりという様子です。
近頃便利なスマホの翻訳アプリを使ってみようかとか、ジェスチャーを大きくして体で表現してみようかなど、保育者たちは、どうやってK君とコミュニケーションをとっていこうか、少し構えた心持で話し合っていました。
ところが、K君を含む2歳児の子どもたちには、そのような壁は全く見られませんでした。同じ空間で一緒に遊び、ケラケラと笑い合ったり、走り回ったりと、とても楽しそうなのです。
「母国」「他国」の隔たり無く、その空間で、心いっぱいに体ごと楽しさを共に分かち合う、そんな子どもたちの姿に学ばせていただきました。
玉岡さんのお話にもありますように「まずは相手を思い、みんなの幸せを考える」を心に留め、それぞれの文化や習慣を認め合いながら、いろんなつながりが広がっていくと素敵ですね。
育ちあう楽しみを ホッとハウスinおおの代表/梅林厚子
2ページ目は、梅林厚子先生の『子育ちフォーラム』です。
梅林先生のお話の中にありますように、今年1月1日に起きました、能登半島地震において被災され、さらに豪雨において被災されました皆さんに、心よりお見舞い申しあげます。
本当に、当たり前の平生の不確かさを痛感いたしました。
梅林先生は、相手の思いを話してもらって「聴く」ことによって、相手を想うことができる。と、仰っています。そして、ことばではなかなか発信することができない、「泣く」「笑う」「怒る」「すねる」といった子どもの姿から、その思いをしっかりと受け止めることの大切さを学ばせていただきました。
焦らず、ゆっくりゆっくりと、子どもとともに成長していきたいと感じました。
変わるこころと変わらないもの 三島 慶
『私の雑記帖』は、鹿児島県の大円寺若坊守、三島慶さんのお話です。
ご結婚を機に、新しい環境での生活の中、子育てやお仕事、お寺の運営に奮闘されながら、仏さまを身近に感じ、その喜びを素直なおこころで発信されていて、拝読させていただきながら、私のこころも、とても温まりました。
ますますのご活躍が楽しみです。
新しいあそび? 文・絵/三浦明利
今月の『お話の時間』は、寺小屋での、つきみちゃんとほしくんにとっては「新しいあそび?」との出会いですが、お話の中に登場する遊びは、どれも懐かしい遊びばかりで、久しぶりに挑戦してみたくなりました。
今年は少し遅い紅葉でしょうか? 今しばらく秋が楽しめそうですね。
(鎌田 惠)
令和6年11月15日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)