家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん8月号(2023年8月1日発行)は

年中組の参観日、Kちゃんのおばあちゃんに呼び止められました。「園長先生、すごいことがあったんです。幼稚園のおかげです」と、息せき切って話し始められたのはKちゃんの兄、この春卒園したY君のことでした。
Y君とKちゃんのお母さんは、生まれつき足が不自由で、車いすを使っています。明るく気丈なしっかり者で、フルタイムの公務員をしながら二人の子を育て、時々おばあちゃんに手伝ってもらうだけで、家事の一切を自分一人でこなしています。車の運転もするし、お裁縫も得意で、いつでもとびきりの笑顔。本当に素敵なお母さんです。
そんなお母さんに、ある日とても悲しい事がおこりました。いつものように幼稚園へ車でお迎えに来て、車いすに乗り換えたところへ、園庭から子どもの声が飛んできたのです。それは、不自由な足を嘲笑する、心ない言葉でした。思わず顔をそむけたお母さんに向かって、その声は「運転なんかできるんか」とまで言いました。
お母さんがもっと悲しくなったのは、そばにいた保育者の行動です。保育者は動転して、咄嗟に子どもたちを制することができず、聞こえなかったふりをしました。Y君とKちゃんは車いすのお母さんに飛びつき、温かい胸に顔をうずめました。
この一件を聞いて、わたしと副園長のT先生は泣きました。阿弥陀さまも泣いていらっしゃるだろうと思いました。先生たちを集めて話しました。わたしたちの心は弱くて、失敗することもたくさんあるけれど、Y君親子の心を深く傷つけたこんな失敗は、これ限りにしよう。障害の有無、男女、子どもと大人、職業や人種、さまざまな差別の根っこを持つ不完全なわたしたちを、阿弥陀さまがいつも見ておられることを忘れないでいよう。職員みんなで、はかない決意を固めました。
わたしとT先生は、3歳以上児のクラスを一つ一つ回り、言葉を尽くしました。Y君のお母さんの足と車いすのこと、逆境に負けないで一生懸命頑張っておられること、世の中にはさまざまな人がいて、ひとり一人が尊い存在だということ。だれも、だれかにからかわれたり笑われたりすべきではないこと。人権、尊厳、差別、平等。難しい話だったろうに、子どもたちは真剣な顔で耳を傾けてくれました。その後、Y君のお母さんの姿が見えると駆け寄って「困ってない?」「車いす押そうか」と声をかける子が何人も現れました。Y君は小学生に、Kちゃんは年中さんになりました。

「初めての参観日の前にね、Yがクラスのみんなに言ったそうです。大きな声で。ぼくのお母さん車いすなんだよって。当日みんながびっくりしないように。気の小さいあの子がそんなことを言えるようになったのは、あの件があったからだと思うんです」。誇らしそうに語るおばあちゃんの声に、涙がこぼれます。わたしたちのわざではありません。Y君のそばを離れず、逞しくお育てになった阿弥陀さまがいらっしゃったのです。
見ないふりをするわたし、聞こえないふりをするわたしに、阿弥陀さまは絶えず呼びかけておられます。わが名を呼べと、この胸を突いて、泣いてくださるのです。
(武田修子)

育心

通い合うこころ    京都女子大学 非常勤講師・善教寺 副住職/赤井 智顕

今月の『育心』は、赤井智顕先生がご執筆くださいました。
私の園では仏参の時に、担当の保育者が子どもたちに、仏典童話をお話ししています。
そのお話の内容は、赤井先生も仰っているように、動物が言葉を話したり、人間と動物が話しをしたりして、不思議な世界、架空の世界というような世界観を感じます。
しかし子どもたちは、なんの違和感もなく、さも眼前で繰り広げられる世界の中に入り込んでいるように、話に耳を傾けています。
「いのちといのちが繋がり合い、響き合っている仏さまの世界」を、お話を通して感じているのでしょうか。
赤井先生からいただいた今月のお話を拝読した後、ふと園庭に目をやると、私の身近な場所でも同じような世界がありました。草葉の上のテントウ虫を一匹ずつ手に乗せて、何やら熱心に話しかける、こうた君とたいち君の姿です。
「友達どうしなんやね」
「仲よくお散歩しいや」
響き合ういのちの世界を、子どもたちに気づかされ、教えられる毎日です。

親子でにこにこクッキング15

つぶコーンとわかめの炒めもの   
食文化・食育料理研究家/坂本佳奈

2ページ目は、食文化・食育料理研究家の、坂本佳奈先生の『親子でにこにこクッキング』です。
甘くて美味しい夏野菜、とうもろこしが、以前は小麦粉と同じような、穀物類の仲間だったということを知りました。
ミネラルの豊富なわかめと共に炒めて、栄養満点のレシピです。子どもたちと一緒に夏のクッキングを楽しみたいと思います。

私の雑記帖

「自分らしく」生きる道   
京都大学大学院医学研究科 先端作業療法学講座講師(認定作業療法士・Ph.D.)/田畑阿美

今月の『私の雑記帖』は、認定作業療法士の田畑阿美さんのお話です。
田畑さんは、ご自身が幼いころから病と向き合ってこられた経験の中で、「自分の経験が、誰かの役にたつかもしれない」と感じられ、『脳腫瘍になった。だけど未来がある』を支えるということが、生涯かけて成し遂げたい「夢」「使命」であり、「自分らしく生きる道」だとされています。
田畑さんの「生きる道」は生きづらさを抱えながら、今を生きている患者さんやご家族の希望だと感じました。
貴重な原稿をありがとうございました。

お話の時間 つきみとほし21

へいわとせんそう   文・絵/三浦明利

今月の『お話の時間』は、三浦明利先生が、実際にお子さんたちと、沖縄旅行をされた際に訪れられた「平和の礎」が舞台となっています。編集室だよりの4ページ目に、その時の様子を三浦先生が綴ってくださっています。
お話の中のほし君が、「平和の礎」を訪れて、沖縄戦で亡くなられた方の名前を刻んだ礎の、あまりの多さを目の当たりにして、「こんなに多くの人が亡くなったの?」と感じています。
つきみちゃんが、「勝っても負けても悲しいわ」と、大切な命を奪い合う、戦争の愚かさを感じています。
終戦の日のご縁に、「へいわとせんそう」を読んで、子どもたちとともに「戦争」・「平和」について話し合ってみたいと思います。

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暑中の折、どうぞお元気でお過ごしください。
(鎌田 惠)

令和5年7月10日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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