家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん5月号(2023年5月1日発行)は

ないおんの編集室から丁野惠鏡先生ご往生の報を受けた時、広島は数年ぶりの真っ白い雪に覆われていました。山の上にあるわたしたちの園は、雪が降ると車を寄せ付けず、トラックやバスがメイン通りでストップして、その後ろに途方もない渋滞ができるのが常です。せわしないはずの年の暮れ、真っ青な澄んだ空の下、山の上には行き交う人も車もありません。見慣れた景色がすっぽりと雪に埋まっている風景はどこか長閑で、あくびでもしたくなるような気分だったことを思い出します。丁野先生の物腰には、どこかこんな風に、人を思わずくつろがせてしまうような柔らかさがおありだったな。色白の、やさしい、先生のまるい笑みそのままのような雪を見ながら、そう思いました。
7年ほど前、ご縁あって「まことの保育」のテキスト製作のお仕事をご一緒させていただく機会を得ました。その会議で初めてお会いした丁野先生は、大変大きく、厳しい方に見えました。会議の間、手元の資料に鋭く目を走らせ、低い声でぴしりと訂正を入れられる先生の姿に、わたしはひそかに縮み上がっていたのです。このような場所に座っていてもいいものかと戸惑うわたしに、「あなた、そんなに緊張なさらなくてよいから」と、朗らかにお声をかけてくださったのも、丁野先生でした。
以来、先生に促されるまま、拙い文章を「ないおん」に掲載していただくご縁をいただき、今につながっています。丁野先生に読んでいただくものを書く。忙しいばかりの園長業のかたわらで、いつの間にかそれがわたしのライフサイクルの中に入り込みました。「あなたは現場だから、現場の話が一番聞きたい」そうおっしゃる先生の思いにお応えしたくて、子どもの話やお母さんの話、保育者たちの話を書くようになりました。
大学院でアメリカ詩の研究をしていたころ、担当教授に論文を指導してもらったのと同じように、丁野先生におずおずと書き送った文章は、幾度も詰めの甘さを指摘していただきました。「わたし」の視点に留まりがちな書きぶりは、「必ずあみださまに言及しなければならないでしょうよ」という優しい声に一蹴されました。
先生がいらっしゃらなければ、書くこともなかったお話ばかり。出来事や思いを文字にする時間は、そのことについて深く考える時間となり、うまく書けなくて自分で落ち込むような文章にまで過分な評価をくださいました。幾度もいただいた励ましは、「人として生を受け、法を聞かせていただいたからには、いのちの限り、おみのりを伝えなさい」というメッセージ。それが、連綿と手渡されてきた血まみれのバトンだったと気付いたのは、先生とお別れした後のこと。

ともしびを高く掲げて  わが前を行く人のあり  小夜中の道 / 甲斐和里子

この先も、力の続く限り、先生の照らしてくださった道を歩いていようと思います。合 掌
(武田修子)

育心

いま、このとき    京都女子大学教授/黒田義道

黒田義道先生の『育心』を拝読しながら、Nちゃんの姿が浮かびました。
入園を迎えたばかりのNちゃん(1歳児)が、M先生に抱かれて私のところへやってきました。小さな手でギュッと握ってM先生にしがみつき、涙いっぱいのNちゃんの顔は、初めてお父さんやお母さんから離れて、とても不安そうです。
M先生と言葉を交わしながらしばらくNちゃんを見守っていると、急にNちゃんの顔がパッと明るくなった瞬間がありました。
(何か面白いものを見つけたのかな?)そう思って、私はNちゃんの目線の先を見てみました。窓から見える風景は、いつもと変わりがありません。しばらくNちゃんの目線と、窓の外を行ったり来たりして見てみました。
するとそこには、陽の光に照らされた木の葉が、風に揺られて「キラキラ キラキラ」と輝いていたのです。それをじーっと見つめるNちゃんの顔は、先ほどとは打って変わって、明るく好奇心に満ち溢れていました。
黒田先生のお話の最後に、「子どもに学びながら、日常の中にある、いま、このときの豊かさを、心で味わっていきたいと思います」とありました。
私も、子どもたちのキラキラした目線の先の豊かさを、ともに心で味わっていきたいと思いました。

子育ちフォーラム

保育理念を活かして    子どもと保育研究所ぷろほ/山田眞理子

2ページ目は山田眞理子先生の『子育ちフォーラム』です。
園の保育理念や保育方針を、一人一人の保育者がしっかりと理解し、日常の保育に活かしていくということは、本当に理想的なことです。今回の山田先生のご提案は、それを理想で終わらせない手立てだと感じました。
保育を実践する中では、子どもの姿や子どもの思いを置き去りにして、ついつい自分本位の保育になってしまうことがあります。自分の考えが全てではなく、自分は不完全な存在であることを、しっかり自覚しなければならないと、様々な研修で学ぶ機会がありました。
園の保育理念をアセスメントシートにして、毎日自分の保育を振り返り、子どもを真ん中にした保育を目指していきたいと思います。

私の雑記帖

心に寄り添い、ともに垣根を越えていく   
着付講師・着付師範 NPO法人きもの文化普及ネットワーク都舞手 理事
(株)クロス・カンパニー PRプランナー/田中彩美

今月の『私の雑記帖』は、きもの着付講師・着付師範の田中彩美さんの、きものを通した活動のお話です。
田中さんが取り組んでおられる、ユニバーサルデザインの着物の普及活動や、障がい者福祉事業「クロスチーム」において大切にされている「心に寄り添い、ともに垣根を越えていく」という考え方は、今後も様々な人と人をつなげ、さらに新たな活動へと、期待が広がります。
貴重な原稿をありがとうございました。

お話の時間 つきみとほし18

駄菓子屋さん   文・絵/三浦明利

今月の『お話の時間』は、駄菓子を売るおばさんも、それを買うつきみちゃんとほし君も、おかげさまの、ほんわか温かい駄菓子屋さんのお話です。

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緑の美しい爽やかな季節、子どもたちのキラキラ笑顔がたくさん見られそうです。
(鎌田 惠)

令和5年4月17日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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