家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん園版11月号(2021年11月1日発行)は

からりと晴れた秋らしい日が続いています。裏山の「ぼうけんの森」では、木々がうっすらと色づき始めました。子どもたちがどんぐり探しに夢中になるこの時期、わたしたちの園ではいよいよ本格的な森遊びのシーズンを迎えます。松、杉、竹、椎、橡、朴、アラカシ、ソヨゴ……多種多様な木々に守られている森の空間は、不思議な安らぎに満ちています。子どもたちは目を輝かせて森へ入っていき、斜面登りやおままごとに夢中になります。
「こんな活動どうかな」「これを使ったら楽しいかな」と、保育室ではあれこれ想像して準備する保育者たちも、森の中では子どもと一緒になって楽しみ、発見したり遊んだりしています。木漏れ陽にシダの葉のギザギザが揺れ、見事なクモの巣の造形を見上げて、松ぼっくり、ヤシャブシ、マテバシイ、両手いっぱいのお土産を抱えて帰ってきます。多動気味で少し気になる子たちも、少しも気になりません。くつろいだ森での時間は、あっという間に過ぎていきます。
幼児期には、自分の全存在が温かく守られているという感覚を味わってほしい。嬉しい時には笑顔で分かち合い、病気の時には「大丈夫だよ」とそばに寄り添ってあげてほしい。お母さん、お父さん、みんなに大切にされているのだと感じながら成長してほしい。
この頃、子どもたちの姿を見つめながら、そうしたごく基本的なことを願う場面が増えました。保育という仕事の根幹は、親子の愛着関係を前提として成り立っているところがあります。だから、その前提条件が少しずつ失われているような寂しさ、息苦しさに、はっとすることが増えて、そんなことを願うのかもしれません。あるいは、先日の苛烈な虐待事件のニュースが胸にこびりついているのでしょうか。
子どもがいきいきと生きている姿は、それだけで希望です。けれど、子育て中の親には、必ずしもそう思えない瞬間がたくさんあります。ひとときも気の抜けない子育ては、一番しんどい仕事。それなのに、「わたしもみんなに迷惑をかけて育ててもらったよ」「大丈夫、大丈夫」と、首を突っ込んでかまってくれるような周囲の人々の関わりが、劇的に減っています。本当にしんどい時、楽しいはずの子育ては、誰にも助けを求められないまま永遠に続く労苦に変わるのです。

森での保育を積極的に行うようになってから気付いたことがあります。それは、森には人間が持ち込むもの以外、ゴミがないということ。町の生活ではゴミとなる枯草も、虫の死骸も、森のいのちの循環の中に、役割を持って参加しています。要るものと要らないものに分け、要らないものを排除することで無理やり成立させている現代社会とは、ずいぶんな違いです。いつか自分も排除されるのではないかという不安の中に、子どもたちもまた、生きている。
いそいそと森へ出かけるかれらの後ろ姿を見送りながら、阿弥陀さまの願われる世界は森のようだろうかと、想像してみるのです。存在をそのまま丸ごと受けとめて、大丈夫だよ、あなたが宝物よ、と言ってくださるような世界。そんな世界に、子どもたちが遊ぶ姿を思い描いてみるのです。
(武田修子)

幼稚園・保育園版

育心

子どもたちの世界   京都女子大学非常勤講師・善教寺副住職/赤井智顕

今月の『育心』は、赤井智顕先生がご執筆くださいました。
先日園の玄関に水槽がやってきました。地域の川や湖で暮らす生き物に親しみを持てるようにと、近くの水族館さんのご協力で、魚たちをお預かりすることになったのです。
またたく間に、この小さな水族館は、園の人気スポットになりました。少し距離をとって水槽を眺めていると、まるで映画の画面を見ているような美しさです。
しかし、子ども達の見方は私とは違いました。大きな水槽にピッタリとくっついて、一様に上の方を見ています。どんなふうに見えるのか、体勢を低くして、私も一緒に加わってみました。
私たち保育者は保育の現場でよく「子どもの目線に合わせる」という言葉を使います。しかし赤井先生の「子どもの速度にあわせ、視点に学びながら、子ども達が受け止めている世界を、少しでも一緒に感じる」という姿勢こそが、さらに最も大切であると感じました。
ゆったりとした時間の中で、子ども達とともに水槽を見上げたその世界は、揺れる水の動きの中に、浮かんでは消える泡と戯れて遊ぶ魚たちの世界。まるで自分もそんな世界の中にいるようでした。

もっと絵本を楽しもう!!

たまには「静かな時間」を   絵本あれこれ研究家/加藤啓子

今月の2ページ目は、加藤啓子先生の『もっと絵本を楽しもう』です。
毎回楽しい絵本の楽しみ方をご紹介いただいていますが、今回は「静か」を味わう「ささやき読み」をおすすめくださいました。
保育の現場では、ついつい声色に変化をつけながら、声が通るように絵本を読み聞かせがちですが、子ども達にとって、「静かな時間」が時には大切であることを学びました。
子ども達自身と読み手が作り出した穏やかで静かな時間の中では、届けてもらった大切な言葉が、すーっと体の中にしみわたるのですね。
日暮れが早くなった晩秋の夜には、おやすみの前のひと時に、絵本を手に取って「ささやき読み」がぴったりです。
園では、お昼寝前にゆったりと、子ども達とともに「静かな時間」を楽しんでみたいと思います。

私の雑記帖

人生を「我がごと」に   児童養護施設 光明童園 施設長/堀 浄信

『私の雑記帖』は、児童養護施設の施設長、堀浄信さんのお話です。
思い通りにならない人生の中で、つまずいて転んでも、自ら起き上がって前に進んで行こうとする力を体得できるように見守るということは、保育や子育てにおいても大切なことです。
しかし、ついつい先回りして、口を出したり手を出したりしてしまいます。
禅宗の教え(ヒナの話)を通して、子ども達の自ら前に進もうとする力を信じ、見守り寄り添うことの大切さを、学ばせていただきありがとうございました。

お話の時間 つきみとほしA

イチョウの葉っぱ   文・絵/三浦明利

今月の『お話の時間』は、イチョウの葉を通しておじいちゃんが、つきみちゃんとほしくんとともに、仏さまのおこころを頂いていかれる、ほんわかと心温まるお話です。

色とりどりの落ち葉や、木の実拾いが楽しい季節になってきました。
(鎌田 惠)

令和3年10月15日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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