家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん園版8月号(2021年8月1日発行)は

年中組のO君は、引越しを機に私たちの幼稚園にやってきました。共働きのご家庭で、4月1日から通い始めると同時に、朝7時から夕方6時まで、毎日預かり保育を利用して過ごすことになりました。
O君は好奇心旺盛で活動的。園内をくまなく探索して回り、広い園庭を走り抜け、いつも笑顔で楽しそうでした。文字をよく理解し、昔話のような難しい絵本もすらすらと読み切ってしまいます。反面、人との関係をつくるのが苦手で、すぐに手が出てしまい、譲ることができません。
一見、楽しんでいるように見えたO君が、実は環境の変化に戸惑っていたのかもしれないと気付いたのは、入園して1か月以上が経ってからです。O君の様子は、日を追うごとに深刻になっていきました。新学年が始まっても、クラスの活動にはなかなか馴染めず、部屋から出て行ってしまう。気持ちの切り替えが難しく、やりたいことを制止されるとパニックになる。友だちと遊びたいのに、うまく遊べない。午後になるとひどく疲れてしまい、保育者の膝の上から動けなくなる。明らかに、O君は困っていました。彼の持つ発達課題に加えて、新しい環境に慣れて居場所を見つけるのは、とてもしんどかったでしょう。私たちは療育支援の必要性をご両親にお話しすることにしました。
自由気ままに行動するO君の姿に、まじめなご両親はショックを受けられました。そして、ルールを守り、みんなと同じように行動してほしいという願いを、彼に直接伝えるようになりました。お母さんの願うようにしたいけれど、できない。笑顔の明るいO君に、いらいらした表情が増え、トラブルはさらに多くなりました。お家では「みんなとおなじようにできたよ」と嘘をつきました。その言葉を信じていたお母さまが、担任から本当のことを聞いてさらにショックを深める、という悪循環の毎日。
誰かとつながっていたい。一緒に、笑いあいたい。0歳児の行動にさえ、そんな思いが溢れています。他者とつながろうとする欲求は、根源的な、本能的なものである、という佐伯胖先生の話を思い出します。人類は、力の強さではなく、群れ、助け合うことで生き延びてきた生き物。お互いを拠り所としなければ、一日も生きられない弱い存在です。みんなと一緒にやりたい、でも、できない。そんなO君の寂しさに、どう寄り添えるだろうか。保育者たちの試行錯誤が続きます。
間もなく、O君のお母さまは長年続けていたお仕事を辞める決断をなさいました。
「この子には、私しかいませんから。それに、向き合うなら今しかないと思って」
笑顔でそうおっしゃるお母さまに、わたしは、一人の女性が、我が子との縁によって、母として育てられていくことの不思議を思い、言葉になりませんでした。我が子を授かったゆえに、我が子だからこそ、越えなければならない山に向き合う。胸に押し寄せてくる共感を、深々と吸い込みます。
O君にとって何が最も正しい手立てなのか、誰にもわかりません。きっと、お母さまにもわからないでしょう。わからないままに、今お育てにあっている。阿弥陀さまが、片時も離れずに願っておられることを、伝えていかなければと思いました。
(武田 修子)

幼稚園・保育園版

育心

人として   京都女子大学 教授/黒田義道

今月の『育心』は、黒田義道先生がご執筆くださいました。
先日、ある保育雑誌をめくっていると、気になる記事に出会いました。
〜 私はこう思う 『生きる力かるた』〜
○人と比べず、自分自身を肯定できる力
○みんなで 生き合う力
○いろいろな子がいることに気づく力
○自分を信じ他者を信じる力
など、「子ども達が未来を切り開いていくために必要な力は?」という保育者へのアンケートの中から21枚をかるたの札にされたものです。
どの札もなるほどと頷かされるものばかりです。
ただそれらの力は、もともと子ども達一人ひとりの内にある力で、私たち保育者が、外側から身につけてあげる力ではなく、むしろ宝物のように大切に、壊さぬように伸び伸びと、引き出していくものではないかと感じました。
黒田先生は『育心』で、「阿弥陀さまは、私たちを役に立つか立たないか、できる子かできない子かという基準ではご覧にならない。どんなことがあっても、ありのままで丸ごと抱きとめてくださる」と教えてくださいました。この安心を支えとして、お父さん、お母さん、保育者も、子どもと共に歩んでいきたいと思います。

子育ちフォーラム

巨人の肩に乗る〜GIGAスクールについての私見〜   
子どもと保育研究所ぷろほ理事長/山田眞理子

今月の山田眞理子先生の『子育ちフォーラム』を拝読しながら、日頃から心がモヤモヤっとしていたコロナウイルスの感染拡大防止による小中高校生の自宅学習等で、一気に加速したGIGAスクール化について、心がスッキリと整理されたような気がしました。
業務の省力化という意味では、 ICTは近年保育の現場で大きな効力を発揮しています。それだけではなく、今後その活用は、様々な分野で大きな期待が持てるのかもしれません。
しかし、本当にそれで全て良いのか? 山田先生は、インターネットという膨大なデータの中で学ぶ現在の状況を、「巨人の肩に乗る」と表現されて、その巨人の肩に乗ればどういうことが起こりうるのか、そして、巨人の肩に乗る前(幼児期)に何が大切なのかを、分かり易く示してくださいました。
保護者の皆さんと共に、その一つ一つに、真摯に向き合っていきたいと思います。

私の雑記帖

「おもちゃ」って何?   心を育てるおもちゃ屋 木の童具村/高田朱美

『私の雑記帖』は、木の童具村代表の高田朱美さんのお話です。
子どもたちの、心豊かな感性は、五感を通して育まれていきます。そしてそれは、子どもたちを取り巻く様々な物や事象から得られます。その育みにかかせない、おもちゃとの出会いを支えてくださる高田さんの、熱い思いを感じることが出来ました。
大好きなおもちゃを手に取って、笑顔で遊ぶ子どもたちの姿が目に浮かんできます。貴重な原稿ありがとうございました。

実演童話 こころに届けたいお話

◆サーダカの冒険◆ 『緑の国(3)』   文・鎌田 惠/絵・野村 玲

今月の『実演童話』、サーダカは、緑の国を救うことができるのでしょうか。

暑い夏を、エネルギッシュに遊びましょう!
(鎌田 惠)

令和3年7月8日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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