家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

季刊ないおん秋特別号(2020年10月1日発行)は

「新型コロナウイルス感染症の影響で、不安な日々が続いています。私たちの苦悩は、ますます深まっています。
お釈迦さまは、私たちが生きているこの境界を「娑婆」と説かれました。「娑婆」とは、悲しみや苦しみに満ちた苦悩の世界、まさに自分の思い通りにならない世界のことです。この思い通りにならない世の中を、思い通りにしようとする煩悩を抱えている限り、私の苦悩は決して無くなることはないのでしょう。私は悲しみや苦しみを背負ってしか、生きることのできない存在なのかもしれません。
けれどお釈迦さまは、この世が苦しみであることをお告げになるために、私の煩悩を責めるためにお出ましになったわけではありません。この娑婆の境界で、悲しみや苦しみを背負ってしか生きることのできない私がいたからこそ、「必ず救う」とおっしゃる阿弥陀さまのお慈悲を説いてくださいました。たとえ、どのような生き様や死に様のなかにあろうとも、私を抱きとって離さない、「南無(まかせよ)阿弥陀仏(われに)」の仏さまのましますことをお告げになる為に、この世にお出ましくださったのです。

如来の作願をたづぬれば
苦悩の有情をすてずして
回向を首としたまひて
大悲心をば成就せり

と親鸞聖人は『正像末和讃』のなかに詠われました。阿弥陀さまは法蔵という菩薩のすがたであられた時、苦悩の底にうち沈む私の姿をすでに見抜かれ、「あなたを必ず救うことのできる親となる」と誓ってくださいました。それから想像を絶するようなご思案とご苦労の果てに、その誓いを成就され、「南無阿弥陀仏」という、まことの親の名告りをあげてくださったのです。
浄土真宗の教えは苦しみや悲しみを無くす教えではありません。ましてや私のわがままや欲望を満たすための道具でもありません。決して無くすことのできない苦悩を乗り越えていく道、自分一人ではどうすることもできない、この人生を支えてくださる教えが浄土真宗です。
いまここに、私の苦悩の人生をともに歩んでくださるお方がいらっしゃいます。「南無阿弥陀仏」の仏さまがご一緒であればこそ、苦悩の人生が支えられ、空しく終わることのない、人生の確かな意味を見出すことができるのです。
今年もまた報恩講の時節を迎えます。世相は一向に予断を許さない状況ですが、今いただいている環境のなかで、私の人生の支えとなる、浄土真宗の教えをお説きくださった親鸞聖人のご恩を、大切に偲ばせていただきたいと思います。(赤井 智顕)

寺院版

巻頭エッセイ

親鸞聖人のお心   教恩寺住職 シンガーソングライター/やなせ なな

巻頭エッセイは「親鸞聖人のお心」。教恩寺住職であり、シンガーソングライターでもある、やなせななさんにご寄稿いただきました。
報恩講とは「阿弥陀さまの喚び声に気づきなさい、と、身を粉にしてお伝えくださった親鸞聖人のお心」に触れさせていただくこととやなせさんは述べられます。
コロナ禍のなかで、法座が中止になったり縮小されたりする傾向にありますが、そんなときだからこそ、報恩講にお参りさせていただくことのありがたさを、よりいっそう思わせていただきます。
挿し絵は『絵とき 親鸞聖人(探究社刊)』より、掲載させていただきました。画題は「師主知識の恩読」。羽溪了先生(龍谷大学短期大学部教授)の作品です。

声に聞く

恩は返すものではない?   龍谷大学非常勤講師/小池秀章

『声に聞く』は、「恩は返すものではない?」と題して、小池秀章先生が「報恩講」のご縁について、深く、そしてわかりやすくお示しくださいました。
私も、小池先生が仰るように『恩徳讃』の「身を粉にする」や「骨を砕く」という表現が過激だと思ったことがあります。
小池先生は、『恩徳讃』を「返しても返しきれない、いや、返そうとしても返すことの出来ないご恩をいただいた親鸞聖人が、自らに対して述べた厳しいお言葉」と味わわれます。
お聴聞をさせていただくことは、自分自身のありようや生き方を厳しく問うていくことなのだと、あらためて思わせていただきました。

ビハーラのこころ

第三回   藍野大学短期大学部学長/佐々木恵雲

『ビハーラのこころ』も第3回となりました。
佐々木先生は、日本人にとって死を受容することは、「じっくりと時間を掛けて故人と対話を繰り返し、故人と折り合いをつけ、故人と新しい関係を築くこと」と、「関係性の死」という定義に基づいて、説明をしてくださいました。
「関係性の死」については、佐々木先生の著書『臨床現場の死生学―関係性にみる生と死―』(法蔵館)に詳しく述べられています。

てらんち

「味覚の秋 収穫の秋」   食文化・食育料理研究家/坂本佳奈

『てらんち・秋』は、坂本佳奈さんが「木の実と玄米の飴がけ」を紹介してくださいました。
坂本さんのレシピは、旬のものに身近な食材を組み合わせながら、おいしく楽しくいただくものが多く、春や秋のレシピも、読者の方から「作ってみたけれど、おいしくできた」という声をたくさんいただきました。
「木の実と玄米の飴がけ」も、皆さんからの感想をお待ちしています。

仏教絵童話

報恩講   文・なかがわあきら/絵・みよこみよこ

秋号の『仏教絵童話』は、報恩講のご縁を、なかがわあきらさんのやさしく語りかけるお話と、みよこみよこさんの温かな雰囲気の挿し絵で伝えてくださいました。
「ことしも、報恩講さんに会えてうれしいことじゃ」という、利作じいのつぶやき。「報恩講さんに会える」ことを、なによりも大切にされてきた先人のおかげで、私も今年報恩講さんに会わせていただけます。

秋号は「報恩講特集」としてお届けしました。 これまでどんなことがあっても絶えることなくお勤めされてきた「報恩講」。その大切さや有り難さを、コロナ禍の今だからこそ、もう一度考えてみる。「ないおん」秋特別号もそのひとつのご縁になればと思います。(森 千鶴)

令和2年9月3日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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