家庭教育誌「ないおん」は、教育・子育ちをテーマに毎月こころのお便りをお届けしています

ないおん園版9月号(2020年9月1日発行)は

「昭和20年(1945年)8月6日午前8時15分。目がくらむまぶしい光。耳にこびりつく大きな音。人間が人間の姿を失い、無残に焼け死んでいく。町を包む魚が腐ったような何とも言い難い悪臭。血に染まった無残な光景の広島を、原子爆弾はつくったのです」

今年、コロナ禍の中に開催された広島の第75回平和祈念式典で、子ども代表大森駿佑君と長倉菜摘さんが、自分たちで言葉を紡いだ「平和への誓い」を朗読しました。例年にない静けさが満ちる平和公園に、厳かな、力強い声が響きました。
長倉さんが私たちの園を卒園して6年になります。
私たちの学園では40年ほど前から「ピカドンたけやぶ」というオペレッタに取り組んでいます。「ピカドンたけやぶ」は、広島の原爆投下直後、焼け残った竹やぶに多くの負傷者が運び込まれたという実話をもとに、作家の故はらみちを先生が書かれた絵本です。劇作家の小田健也先生と作曲家の藤村記一郎先生にお願いして、この絵本に楽曲を付けていただきました。以来毎年、年長組になるとこの「ピカドンたけやぶ」を歌い継いできました。

ザワザワザワザワ 熱いよ
ジリジリヒリヒリ 苦しいよ

一発の原子爆弾が相生橋の上空で炸裂し、町は炎に包まれました。その熱さを表現するとき、特に教えるわけではないのに、子どもたちの顔には苦悶の表情が浮かびます。原爆のことも、戦争のことも、子どもたちにはまだよくわかりません。けれどその熱さの感覚は、小さな胸にも痛いほど伝わっていくのでしょう。
「人間のすることには、間違いがあるんだよ」あみださまの前で、わたしは、かつて教えてもらった通りの言葉を子どもたちに投げかけます。幼いかれらの素直な心に、核の非人道性がどのように刻み込まれていくのか。ヒロシマの記憶はどう受け継がれていくのか。これといった確証のないまま、私たちの試行錯誤は続きます。75年が過ぎたのに、この国の核廃絶への歩みは止まったままです。

大森君と長倉さんは静かな朗読の最後をこう締めくくりました。
「私たちの未来に、核兵器は必要ありません。私たちは、互いに認め合う優しい心を持ち続けます。私たちは、相手の思いに寄り添い、笑顔で暮らせる平和な未来を築きます。被爆地広島で育つ私たちは、当時の人々が諦めずつないでくださった希望を未来へとつないでいきます」
(武田修子)

幼稚園・保育園版

育心

太陽はそれでも私を照らしてくれる   京都女子大学准教授/黒田義道

黒田先生の『育心』を拝読し、インドの日の出、日の入りの画像をインターネットで検索してみました。
私はインドを訪れたことがありませんが、広大な土地の地平線に沈んでいく夕日に、手を合わせる人々の画像があるのを見て、実際に目に映る夕日は、あまりに荘厳で、手を合わさずにはいられない迫力なのだろうと想像がつきました。
その日の夕方、4歳児の担任のM先生が困った顔でやってきました。
「N君は全くお話が聞けません。聞かないとダメでしょうと言っても、なぜ聞かないのと聞いても全く耳に入らないのです。何とかならないでしょうか?」
そして、N君の日常のエピソードを聞くうち、N君は「お話が聞けない」のではなく「お話を聞かない」「耳に入らない」のではなく「耳に入れようとしない」のではないかと感じました。
私たちは、保育に没頭するあまり、しばしば目の前の子どもの姿のみにとらわれ、焦って、大切なことを見落としているのかもしれません。
N君が、聞きたいと思ってくれる話し方、環境、応えたいと思ってくれる問いかけ方について、私たちの保育を振り返ってみることになりました。
「短い時間」で安易に判断することなく、「長い時間の流れを感じつつ、自分と丁寧に向き合う」
子どもたちと向き合う姿勢も、このようにありたいと思いました。

子育ちフォーラム

くっつくこと   京都工芸繊維大学特定教授・臨床心理士/藤川洋子

藤川先生の子育ちフォーラム『くっつくこと』のお話は第二波が訪れたコロナ禍の中、まさに保育の現場で苦慮するところです。
三密を防ぎ、マスクを着用しながら、どのように愛着関係を育むか、どのように安心基地となれるのか……。
しかし、制限の多い中でも子どもたちの成長は止まっているわけではありませんし、季節もどんどん移り変わっていきます。
マスク越しではありますが、「あなたのことを思っているよ」「大丈夫よ」「見てるよ」の心はちゃんとここにある。
藤川先生が書かれている通り、「安心感をもたらす言葉かけ」を豊かに、そして少しでも安心感が獲られる環境づくりを工夫していきたいと思います。

私の雑記帖

あたたかい心と身体
縫uturoiスパ タイ政府認定講師(タイ古式マッサージ)/山田琴己

今月の『私の雑記帖』は、タイ古式マッサージ講師の山田琴己さんの、仏教伝来の伝統的な癒し療法についてのお話です。
「すべてのものは変化していくという感覚の中で、慈・悲・喜・捨の心を持ち、手から伝わる言葉のない対話を大切にする」という内容は、特に興味深く拝読させていただきました。
やはり、あたたかい心でふれることは、緊張感をほぐし、心が満たされ、癒しとなることを感じました。
貴重なお話をありがとうございました。

実演童話 こころに届けたいお話

◆サーダガの冒険◆ 『美しい国(1)』   文・鎌田 惠/絵・野村 玲

今月の『実演童話』で、サーダカが次に訪れた国は、一見きらびやかな美しい国に見えますが、何か秘密がありそうです。

日々刻々と感染拡大が報道されています。皆さま、どうぞお元気で。
(鎌田 惠)

令和2年8月17日 ないおん編集室(〜編集室だよりから抜粋〜)

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