番外編 俺の天使1
作:MUTUMI DATA:2002.11.24

番外編第3弾! いや、だって息抜き書きたいんだもん。


夢を見ているんじゃないかと思った。
なんで、この人がここにいるんだろう? どうして学生服なんかを着ているんだ?
自分の記憶の中の人物と、うり二つの容姿をした少年を前に俺は狼狽し、きょろきょろと周囲を見回した。
すると案の定。
「イサ。何をきょろきょろしている?」
低い男の声が背後から降ってくる。
「うわっ。ふ、副官?」
自分を覗き込むように、背後に大柄な男が立っていた。
い、いつのまに背後をとられたんだ?
自分だってそれなりの訓練はつんでいる。なのにこうもあっさりと背後に忍び寄られるなんて・・・。
うぐっ。凄く悔しい〜!

気をとり直し、俺は自分達の部隊の副官へ顔を向ける。
作戦行動中いつもは『02』とだけ呼ばれている副官は、何故か両手一杯の荷物を持っている。
近くのショップのものの様だ。
こ、これって・・・。
ちょっとばかり焦りながら、イサこと『45ー77』は学生服姿の少年を目で追った。
やっぱ、学生服着てるけど、どこからどうみても隊長だよな?
「『桜花』と『02』がどうしてここに?」
俺のような下部の構成員からみれば、部隊長である『桜花』は雲の上の人だ。俺達の部隊の指揮官とはいえ、直接言葉を交わした事なんてない。姿は良く見る。というか、任務中一緒に行動する事だってある。
だけど将校と下士官では、ほとんど日常の接点がないのも現状だった。だから日常の一こまに埋没している二人を見ると、なんだか尻の穴がむずがゆくなる。

二人でショッピングなのか? そうなのか〜?
俺は世にも奇妙なものを、とういか見てはいけないものを見てしまったのではないかと、心臓が縮み上がりそうだった。
「買い足す物が多くてな。通常の生活にも支障があるんだよ」
「は?」
意味不明の副官の嘆きに俺は首をかしげる。一体この大量の買い物袋の中身は何なのか? むくむくと疑問が浮かんでくる。
「何しろ休日だというのに、学生服しかないんだぞ」
「がく・・・制服?」
ますます不思議な思いに囚われ、隊長を見る。ほわんとほんのりピンク色にほっぺを染め、何かを恥じているようだ。

「だ、だってさ今まで必要なかったじゃないか。軍の支給品でたりてたんだよ」
「だからといって、私服が一枚もないというのも問題です」
額を押さえ男は吐息をつく。
「年頃の子供はファッションにも興味を持つんですから、学生を演じるんなら少しは気にしないと。まあ、一矢は何を着ても似合いますから、選びがいはありますけどね」
言いながら副官は肩を竦めた。

えっと、要するに、まとめると・・・。
全然私服をもっていない隊長を心配して、副官が街を連れ回したってことか?
うぬう。
副官、あなたはなんて世話好きなんだ〜。
あらゆる意味で、脱帽するイサだった。

「『45ー77』ん、めんどくさいな。イサでいいか。イサはこんな所で何をしているの?」
隊長にそう尋ねられ、俺はかなり驚く。
俺の名前を知っていた事が、かなり意外だったのだ。ひょっとすると、全構成員の名前と性格を把握しているという噂は、満更嘘じゃないのかも知れない。
「じ、自分でありますか? いえ、その・・・」
俺は曖昧に言葉を濁す。
言っていいのか?? う〜、隊長になら言ってもいいのか?
かなりの間俺は自問自答を繰り返す。ちらりと副官を見ると、素知らぬ顔をしてあらぬ方を見ている。
副官〜! 助け船はないんですか〜?

「イサ?」
「は、はい! えっと、その自分は・・・、『06』の指示で、その・・・極秘任務中でして」
「『06』? シズカの指示?」
訝し気に隊長は副官を見、にこ〜と笑う。
「ボ〜ブ。何を画策してるんだ〜?」
「はい? 何をですか、何を?」
とぼけた声で、空を見上げる。
「いい天気ですな」
・・・、副官それ全然ごまかせてません!
「ボブ・・・。とことん腹芸が下手だな、お前」
「そうですかね?」
副官はひょろひょろと人をくった笑みを浮かべる。隊長は溜め息を尽きながら、俺に背を向け歩き出す。
「聞かないことにするよ。深刻な事態ってこともなさそうだし」
「そうしといて下さい」
相変わらず飄々とした態度で副官は呟き、俺に向かってしっしっと手を振った。
さっさと消えろと、言いたいらしい。
俺は副官のその好意に甘え、一目散にとんずらする。このままここにいたのでは、いつ化けの皮が剥がされるか知れたものじゃないからな。

二人から遠ざかると、俺は安堵の息を吐き出し、周囲を伺った。
案の定、こそこそと隠れている彼女がいた。俺の上司『06』、シズカだ。
「シズカ・・・」
「イサ、何で見つかるかな〜」
俺を非難する眼差しで、シズカは上目使いに睨んでくる。
そんな事言ったって、見つかったものは仕方ないじゃないか。大体あの二人に秘密にしとくなんて、無茶だったんだよ〜。
「イサ、あの二人なんて言ってた?」
「え、いや〜、その。多分副官は俺とシズカが付き合ってるのは、知ってると思う。隊長は、う〜ん、どうかな? 微妙なとこだと思うよ」
「気付いてないかな?」
シズカは微かに首をかしげる。その仕種が可愛くて、俺は見とれてしまう。
「わ、わからん。隊長ってすごく奥が深いから・・・」
二人は雁首揃え、考え込む。
何しろ一を言えば百は理解してしまう隊長の事だ。薄々察知している事はありえる。それでなくても、洞察が鋭いのだ。限りなく黒に近い灰色と言えるかも知れない。
「と、とにかくデートの続きしようか」
「そ、そうだね。どこに行く?」
まだまだ狼狽気味の二人は、空転する頭で目的地を選択する。
「え、映画見ようか?」
「いいね。それにしよう」
かくしてこそこそと、二人は移動を開始するのだった。
デートが緊張に満ちたものだったのは、言うまでもない。



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