ピ、ピ。ーーピピ、ピ。 一定のリズムで電子音が病室に響く。薄暗い病室に、長身の男が佇んでいた。沈痛な表情をして、ベットに横たわる少年を見ている。 少年は青白い顔をして目を閉じていた。その秀麗な顔には、生気がない。 「……一矢」 無骨な指をのばし、男は少年の頬を撫でる。 「目を覚ませ……」 祈るような声でボブは囁く。一向に目覚めようとしない一矢に、どうしたら良いのかわからないようだ。一矢の身体には、左半身を中心に真新しい包帯が巻かれていた。腕にも幾つものチューブが通されている。 どこからどう見ても重傷なのだが、治療ポッドに入っていないところをみると、生命に関わる程酷い状態ではなさそうだ。恐らくショック状態で意識を失っているだけなのだろう。 ソロソロとボブは頬を撫でていた指を、一矢の髪へと絡ませる。青黒色の髪をボブはゆっくりと撫でた。サラサラの細い髪が指の間を流れる。 暫く無言で撫でていると、病室のドアが音もなく開いた。廊下側からもたらされた眩しい電光に、ボブは目を細める。 「具合どうですか?」 トコトコとリックが入って来た。 「まだ起きない」 「そうですか……」 リックは呟き、ふと、一矢の髪にボブが指を絡めている事に気付く。 「あれれ、指」 どこか面白そうに、茶化して笑う。 「【02】てば、桜花の髪撫でるの好きですよね」 「いや、そうでもないが……」 言葉を濁しつつ、手を髪から離す。 「【02】が桜花を甘やかす時って、結構髪を撫でてますよ」 「……そうか?」 「ええ」 あっさりとリックは頷く。新たな事実、それも自覚がなかった事実の発覚に、ボブは憮然とした表情を浮かべた。どうやら無意識に妹にしていた対応を、一矢にもしていたらしい。 「それはさておき、事態の収集なんですけど」 「ああ。状況は?」 リックの言葉にボブの表情が一変する。その眼差しが一層きつくなった。 「済みません、狙撃手は取り逃がしました」 「そうか」 「状況もあまり良くありません。式典会場こそ無事でしたが、観客がパニックに陥ったので、負傷者が続出です。生命に関わるものは幸いありませんが……、議員の中には倒れたり、腰を抜かした者もいるようです」 「軟弱な」 チッと舌打ちし、ボブは議員連中の腑甲斐無さを嘆いた。リックは腹黒い笑みを浮かべて続ける。 「総代やアシャー議員はピンピンしてましたけどね」 「あれらは例外だ。胆の太さが違う」 あの二人と比べられては、他の議員があまりにも哀れだ。そう思ってそれだけはボブも弁護する。 「あはは、そうですね。今回のテロはビジュアル的にも派手でしたし、天空から連続で襲われたら、そりゃあ恐いですよねー」 どこか呑気にそう言いつつ、思い出した様に付け加える。 「被害総額、物凄く天文学的な値が出てますよ」 「……そうか」 「ええ。【02】にとっても桜花にとっても頭の痛い問題でしょうけど、ディアーナ星系政府にとっても痛恨みたいです。何しろ宇宙空間の防衛網全滅ですから」 チラリと視線を一矢に走らせ、リックは肩を竦める。 「弁償しろとか、言って来そうです」 「言うのか? 自分達のミスを棚に上げて?」 「言いそうな空気になって来てます。喉元過ぎればって奴ですよ。立場的に不味い事になる可能性もあります」 「……」 ボブは無言のまま腕を組んだ。 「人的損害は出ませんでしたけど、物的損害がカバー出来ない程出てしまいました。ヤバイです」 「……蠢いたか?」 「多分」 リックは答えつつ、ぎゅっと拳を握る。 「口実を与えてしまったみたいです。……委員会が動きます」 |