委員会攻防戦2
作:MUTUMI DATA:2007.2.26


 ピ、ピ。ーーピピ、ピ。
 一定のリズムで電子音が病室に響く。薄暗い病室に、長身の男が佇んでいた。沈痛な表情をして、ベットに横たわる少年を見ている。
 少年は青白い顔をして目を閉じていた。その秀麗な顔には、生気がない。
「……一矢」
 無骨な指をのばし、男は少年の頬を撫でる。
「目を覚ませ……」
 祈るような声でボブは囁く。一向に目覚めようとしない一矢に、どうしたら良いのかわからないようだ。一矢の身体には、左半身を中心に真新しい包帯が巻かれていた。腕にも幾つものチューブが通されている。
 どこからどう見ても重傷なのだが、治療ポッドに入っていないところをみると、生命に関わる程酷い状態ではなさそうだ。恐らくショック状態で意識を失っているだけなのだろう。
 ソロソロとボブは頬を撫でていた指を、一矢の髪へと絡ませる。青黒色の髪をボブはゆっくりと撫でた。サラサラの細い髪が指の間を流れる。
 暫く無言で撫でていると、病室のドアが音もなく開いた。廊下側からもたらされた眩しい電光に、ボブは目を細める。
「具合どうですか?」
 トコトコとリックが入って来た。
「まだ起きない」
「そうですか……」
 リックは呟き、ふと、一矢の髪にボブが指を絡めている事に気付く。
「あれれ、指」
 どこか面白そうに、茶化して笑う。
「【02】てば、桜花の髪撫でるの好きですよね」
「いや、そうでもないが……」
 言葉を濁しつつ、手を髪から離す。
「【02】が桜花を甘やかす時って、結構髪を撫でてますよ」
「……そうか?」
「ええ」
 あっさりとリックは頷く。新たな事実、それも自覚がなかった事実の発覚に、ボブは憮然とした表情を浮かべた。どうやら無意識に妹にしていた対応を、一矢にもしていたらしい。
「それはさておき、事態の収集なんですけど」
「ああ。状況は?」
 リックの言葉にボブの表情が一変する。その眼差しが一層きつくなった。
「済みません、狙撃手は取り逃がしました」
「そうか」
「状況もあまり良くありません。式典会場こそ無事でしたが、観客がパニックに陥ったので、負傷者が続出です。生命に関わるものは幸いありませんが……、議員の中には倒れたり、腰を抜かした者もいるようです」
「軟弱な」
 チッと舌打ちし、ボブは議員連中の腑甲斐無さを嘆いた。リックは腹黒い笑みを浮かべて続ける。
「総代やアシャー議員はピンピンしてましたけどね」
「あれらは例外だ。胆の太さが違う」
 あの二人と比べられては、他の議員があまりにも哀れだ。そう思ってそれだけはボブも弁護する。
「あはは、そうですね。今回のテロはビジュアル的にも派手でしたし、天空から連続で襲われたら、そりゃあ恐いですよねー」
 どこか呑気にそう言いつつ、思い出した様に付け加える。
「被害総額、物凄く天文学的な値が出てますよ」
「……そうか」
「ええ。【02】にとっても桜花にとっても頭の痛い問題でしょうけど、ディアーナ星系政府にとっても痛恨みたいです。何しろ宇宙空間の防衛網全滅ですから」
 チラリと視線を一矢に走らせ、リックは肩を竦める。
「弁償しろとか、言って来そうです」
「言うのか? 自分達のミスを棚に上げて?」
「言いそうな空気になって来てます。喉元過ぎればって奴ですよ。立場的に不味い事になる可能性もあります」
「……」
 ボブは無言のまま腕を組んだ。
「人的損害は出ませんでしたけど、物的損害がカバー出来ない程出てしまいました。ヤバイです」
「……蠢いたか?」
「多分」
 リックは答えつつ、ぎゅっと拳を握る。
「口実を与えてしまったみたいです。……委員会が動きます」


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