闇色忌憚(前編)
作:MUTUMI

3000キリの古田さんからのリクエストです。
キリリク題材は『インターネット』と『冬』でした。



宵闇が落ちる。
闇は眷属が族の象徴。彼らの標(しるべ)。
ほらそこにも彼らの族がいる。闇に住まう忌わしきモノの残存がある。


くす。くすくす。
甘く蕩ける様に微笑む声がする。
「ねえ、あなた。どちらの色がお好きかしら? 赤と、ピンク」
くすくす。
「ねえ、どちらがお好き? あなた?」
美しい女は艶やかな笑みを浮かべ、男にしだれかかる。細い白魚のような指が男の頤(おとがい)をそっと甘く撫でていく。
くす、くすくす。
「赤とピンク、どちらも素敵だわ。ねえ、そうは思わなくって? あなた」
しゃらしゃらと長い髪が揺れ、しだれかかった男の身体にまとわりついた。

ピチャン。ピチャン。
何かの水滴の漏れる音が、微かな波紋となり虚空に響く。
「素敵よ、あなた。とても綺麗だわ」
女は男の耳元で囁く。それは甘美なまでの、魅惑に満ちた声だった。
「綺麗な色」
男の首を女は、両手で抱えるようにして掬う。滴り落ちる深紅の血が、女の手を赤く染めていった。
くす、くすくす。
笑みを漏らし女は充足感に満ちた顔で、男の唇に自らの深紅の唇を寄せ、口付ける。錆びた鉄の、苦い血の味がする唇だった。
女はそれすらも愛おし気に、艶やかなまでの歓喜の表情を浮かべ、流れ落ちる男の血を啜った。

「素敵・・・。綺麗な色、綺麗な血・・・」
くす。
「ねえ、あなた。とっても美味しいわ」
バラバラの男の体を前に女は笑う。美しくも禍々しい淫婦の笑みを浮かべて・・・。
しゃらり。女の細く長い髪が、美しい肢体に添い流れた。
くす、くすくす。
甘い声が匂いたつ鮮血の中に響く。
「ねえ、あなた。深紅はお好き?」
黄金に輝く九つの尾が、女の背に見え隠れする。九つの尾は歓喜の喜びに、ふるふると打ち震えるのだった。


□□□□


インターネット上の掲示板。様々な人間が書き込みを行う、情報の共有板。
その書き込みはいつしかそこにあった。時が経ち、季節が巡ってもその書き込みが消える事はなかった。
消去もされずそれは残る。日々新たな情報がそこに書き込まれて、更新されていく。
それは一種の都市伝説。そして現実。

[尻尾の獣が人間を喰うらしい]
[S県で犠牲者が出たってさ]
[T県でも男が変死してるらしいよ]
[尻尾の獣は金色に輝いていて、物凄く綺麗なんだって]
[そいつを見た人間はあっという間に襲われて、喰われるらしいゾ]

獣の情報は途絶えない。
どこの誰かもわからない複数の人間の声は、記述していく。終わりなき書き込みがそこでは続いていた。


□□□□


T県S市。
ぽきぽきとポッキーを齧りながら、街灯の下を少年が二人歩いている。肩から大きなスポーツバックを斜にかけ、二人はとぼとぼと力なく歩く。
闇の中に漏れる弱々しい街灯の光が二人の影を、アスファルトの上に落としていた。長く伸びた影は一定のリズムで揺れている。
ポキポキポキ。
無言で二人はポッキーを齧る。美味しくて食べながら歩いているというよりは、どことなく手持ち無沙汰な為に、手と口が動いているという方がいいかもしれない。
実際あまり空腹は覚えていなかった。
買い食いをしながら帰宅するという年齢でもない。ただ単に後輩から貰った物を消費しているだけだったりする。
後輩。ついこの間までは自分より下で、同じ部活、野球部の補欠仲間だった奴等からの、ささやかな差し入れだったりする。引退する先輩に対する返礼とでもいうべきか。

高校3年生の少年達は、今日をもって華の部活動から引退したのだ。
長かった部活動に終止符は打たれた。一度もレギュラーをとることなく二人は引退する。
これから先、学生である二人に待っているのは、かの、恐らく誰もが一度は経験するであろう受験戦争だった。どんなに文句を言おうと、それはやってくる。逃げる事も出来ずに、訪れる。
何故か二人はそれを考えると、この先の苦労を偲ぶと、暗鬱とした気分になってしまう。
ささくれだった、心のどこか、何かに棘が刺さったかの様な気分になるのだ。
だから二人はお互い無言で、ポッキーを齧る。食べ切ってしまえば、何か話題が浮かぶかもしれないし、ほんの少しばかりこの鬱屈とした気持ちを、昇華出来るかも知れないと思って。
ポキポキ。
永遠に続くかと思われた音も、パッケージの中のお菓子がなくなると同時に止まった。

「ようやく食べ切ったな」
どこか安堵の感情を滲ませ、髪を短く刈り上げた少年は漏らす。
「ん? 何だもっと食べるか?」
「うげっ。勘弁しろよ〜。おれが辛党なの知ってるだろう?」
眉間に皺が寄る少年を、もう一人の少年がからかう。
「知ってる知ってる。大樹(たいき)は中学の時の、給食のフルーツポンチも嫌いだったしな〜」
普通あれは喜んで食べるだろう? と、甘党の少年に言い返され、大樹は内心で舌を出す。
うわ〜。いつまでもしょーもない事をよく覚えてるよな〜。
「浩輔(こうすけ)。それ以上無駄口叩いてみろ」
「何だよ」
「カラムーチョを食わすぞ」
「うぐっ」
か、から、ムーチョ! 特選チリパウダーのお菓子・・・。美味しいけど、美味しいけど、舌が麻痺する、あれか〜!?

「・・・・・・」
「・・・・・・・・・、あ。そうそう、千晶(ちあき)マネージャーから伝言があったのを忘れてた」
明らかに故意に話題をずらし、浩輔は独り言の様に呟く。
「大樹先輩、受験頑張って下さいね。 だってよ」
「・・・ハートマーク入りなわけ?」
「ばっちり入ってたよ。あれはどういうんだろうな? 大樹ラブってやつか?」
「ナイナイ。それは有り得ない。千晶はキャプテンが好きなんだから」
ひらひら手を振り、大樹はそう漏らす。
「ああ、やっぱりそうなのか」
心得てるよと浩輔は頷き返してきた。
「何だ。気がついていたのか?」
やや意外な感じがして、大樹は浩輔を見る。大樹と同じく野球馬鹿の浩輔に、そんな敏感なアンテナがあったとは驚きだった。
「どう見たってあつあつじゃないか、あの二人」
「あ〜あ。キャプテンが羨ましいよ。可愛い彼女がいて、一年からずっとレギュラーで、おまけにスポーツ推薦で体育大に行けそうだっていうしさ。おれらとは全然違うよな」
才能の差は大きいよと、大樹はどこか寂し気に呟いていた。浩輔も静かに同意する。

「言えてる、言えてる。結局さ、才能の差ってものは越せないんだよな。おれなんて、・・・とうとう一度もレギュラーとれなかったしな」
「お前だけじゃないさ。おれも同じだよ。・・・なあ、今さら大学受験っていってもさ。有名校受験なんて無理だし、おれらが必死に勉強しても、たかが知れてるって気がしないか?」
「それを言うなよ。余計落ち込むからさ」
「そうだな」
似たような成績、限りなく地を這う成績の二人は、乾いた笑みをお互いに浮かべる。
そんな二人がとぼとぼと歩く夜道は、この先を暗示するかの様に暗い。二人は無言で夜道を進んだ。
ぼんやりとした街灯が、ジジジジと音をたて、今にも切れそうな明滅を繰り返す。大きな茶色の蛾が電球に群がり、ひらひらと夜空を舞っていた。

「蛾じゃなくホタルなら綺麗なのにな〜」
「は?」
唐突な大樹の言葉に浩輔は暫し面喰らう。夏はとうに過ぎ、今はもう初秋だ。螢の季節ではない。
「時々大樹が何を考えているのか、おれは疑問に思うよ」
「え〜、何がだよ。ほら、蛾がいるから、うっとーしーなーって、思って。これがホタルなら綺麗じゃないか」
頭上の電灯を指差し、大樹はそう反論する。
「だからどこからホタルが出るんだよ。これは蛾なの。下手したらというか、嫌いな人にとってはただの害虫じゃないか!」
「ホタルだって広義に解釈すると、蛾と同じ昆虫類だろうが」
不服そうに大樹は反論する。が、しかし浩輔にあっさりといなされていた。
「全然違うよ。第一時期外れもいいところだぞ」
「や。そうだけどね・・・」
いいじゃんかよ〜。別におれが何を考えようとさ〜。

「まあどっちでもいいけどさ」
浩輔はそう言い、さっさと歩いていく。
「あ〜っ。こら。おれの言い分も聞けよ〜」
思わず大樹は、浩輔に絡む。
「んん? どうでもいいからさっさと帰ろうぜ」
どうでもいいって、・・・浩輔が最初に絡んだんじゃないかよ。いや、おれだってさっさと帰ってメシ食いたいけどさ。む〜。なんか微妙にはぐらかされてるような・・・。
「大樹置いていくぞ〜」
「あ、待てよ」
浩輔に促され、大樹は慌てて後を追う。
その先には、鬱蒼とした雑木林があった。人気が一気になくなり、街灯すら設置されていない暗い道が続いている。あまり普段通りたくない道なのだが、二人が家に帰るにはとっておきの近道だった。
夜遅くなるとついつい、時間の短縮にこの道を使ってしまう。女性と違い、痴漢に襲われる心配もないし、お化けを信じる年齢でもない。極々普通の現実的な若者二人は、お腹を空かせながら我が家へと帰っていく。
その道の選択が、岐路になるとも知らずに・・・。


□□□□


バサ、バサ。
黒い鴉(からす)が闇夜を飛行する。闇の帳が落ち一刻、鴉の他に鳥の姿は見えない。
闇夜に飛ぶ鳥はいない。幾ら都心部とはいえ、この時刻に鴉の飛ぶ姿は鳥類にしては異常ともいえた。
もっとも鴉には目的地がある。
鴉はとある古ぼけたビルの屋上を発見すると、一気に降下していく。目的地のビルの屋上には一人の人間が立っていた。長い髪がひらひらと風に煽られ夜空に舞っている。
月夜に見える横顔は愛らしい女性のもの。唇に引かれたピンクのルージュが、女性を実際の年齢よりも幾分か幼く見せていた。
だが街角に立てば、男達から存分に声をかけられるだろう魅力を持った女性だった。

バサリ。
鴉は静かな羽音をさせ、彼女の元へと降りていく。
「帰ってきたか」
呟き女性は右手を差し出す。鴉は女性の細い手の中へと落ちていった。
ヒラリ。
鴉の羽が翻り、淡い光に包まれた鴉は女性の手の上で転変する。ひらひらと白い紙型となって落ちてくる。
通称、式神。女性の操る『鴉』の紙型。通常はある種の通信や、術者の媒体となって知覚を補うのに用いられる。
今回の使用目的は、彼女の属する里への通信にあった。先の仕事の完了報告と、ささやかな懸案事項の報告。それから里に残してきた彼女の家族へ宛てた私信。
いつもはそれで終わりなのだが、この日はいささか違っていた。鴉の紙型の足の部分に細い紙縒り(こより)が巻かれていたからだ。

「・・・次の仕事だろうか?」
些か辟易しながら、女性は紙縒り(こより)を紐解き読み上げる。案の定というか、やっぱりそうかと言うべきか。ともかく、次の仕事内容がそこには印されていた。女性が今いるビルから差程遠くない住所の仕事だった。
「ふむ。少し休暇が欲しかったが、力が削がれたと言う程でもないし、・・・まあ、仕方ないか」
呟き女性は踵を返す。
本来里の習慣では一度仕事をした後は、短くても2、3日の休暇をとるのが常だった。特殊な力を行使する為、どうしても疲労が溜りやすくなるからだ。
なのに今回里は、女性に新たな仕事を押し付けてくる。女性はそこに火急の用件、あるいは他に適任者がいないという意味を汲み取っていた。
「全く、うちの里は人使いが荒いんだから」
少しぐらいの愚痴は勘弁してもらうとしよう。それぐらいの権利は自分にはある。
そんな事を思いながら女性は、紙縒りに記載されていた場所へ急行する。


闇夜。満月の明かりが地上を照らす時間・・・。
そこには、鬱蒼とした雑木林に囲まれた古い社には、闇の眷属の匂いがプンプンと立ち込めていた。
禍々しく毒々しい気配が社を中心に漂っている。
女はそこにいた。輝く夜の支配者、闇に紛れるもの。九尾のものはその古ぼけた社で、血に濡れたバラバラの男と共にいた。


ザワザワと枝が風に擦られ、なびく。風の吹き流れる感触と共に、枯れ枝のような木々が次々とうねる。
ザアー、ザアアーーー。
木々の擦れる音が消える事はない。
「神域のはずなのに・・・。凄いな、これ程の邪悪な気が漂っているとは・・・」
古びた神社を前に、薄いジャケットを羽織ったままの女性はそう呟く。
ちりちりと項(うなじ)が熱を持ち、疼き出す気配がする。抗魔の力がどうやら働いているらしい。
厳しい表情を浮かべながら、女性は半眼になると社をその目で居抜いた。
人外の、女性にとってはお馴染みの気配がゆらりゆらりと形を作る。今まで存在すら隠していた者がうつし世にいでて来る。

現世に現れたもの、それは燦然と輝く、高貴なまでの輝きを放つ異形のものだった。
薄い衣を纏った長い髪のたおやかな女。甘く誰をも魅了する肢体を持ち、見る者全てを虜にするこの世の者とはとうてい思えない程の、輝けるばかりの美貌。セクシーで妖艶な傾国の美女。
そこにいるのはまぎれもなく魔性の女だった。
薄い衣はレースやオーガンジーに似ており、幾重にも女の身体を覆っている。けれどそれ程、何十枚の衣に包まれてもなお、女の肢体の美しさは隠されていない。
形の良いふくよかな胸元、細く人形の様にくびれたウエスト、どこまでも華奢な体格と衣装から透けて見える肌理(きめ)の細かい雪のような白い肌。
間違いなくそれは、魔性の魅惑と美貌に満ちていた。妖艶な、艶やかな女は深紅にも似た唇を震わす。

「何者か? 妾に何用や?」
鈴を転がしたかのような、甘く耳に残る声。珠のような美声。その美しい声には心を虜にし、吐息すら奪う程の甘くまろやかな効果があった。
いつまでもこの声を聞き、その姿を愛でていたい。そんな感情が何故か、相対する女性の胸の内から強烈に湧きおこってくる。
だが・・・。そんな女の足下にはバラバラの男の死体があるのだ。食べ散らかされた残飯の様な死体が。その事実が女の凶悪さを物語っている。
何という力だ。同性である私にまでも、この女の魅了の力が届くというのか・・・!?
つーっと一雫、冷たい汗が女性の額を流れていく。
このあやかしは普通のものとは違う。決してその辺にいる小物ではない! これ程の力を持った奴にははじめて会った。こんな奴に私は勝てるのか? 倒せるのか?
圧倒的なまでの力の差を認識させられ、女性の胸に絶望にも似た負の感情が沸き起こる。
女性の目には、魔性の女と呼ぶに相応しい美貌は勿論なのだが、それ以上に目が離せない事実がうつっていた。一瞬たりとも目が離せない、理由があった。
黄金に輝く九尾の尻尾。
ふさふさとした毛に包まれ、淡く金色に輝いて見える九つの太い尾が、美貌の女の背に見え隠れしていたのだ。

九尾の狐・・・!?
驚愕の感情をかろうじて押さえ込み、女性は女と戦うために懐から宝珠を取り出す。
宝珠には複雑な紋様が描かれていた。朱にも似た色で描かれた紋様は、六亡星。その星を囲むように、呪い文字がびっしりと小さく書き込まれている。見たこともない系統の文字だった。
女性は宝珠を右手に持つと、素早く印をきり呪を唱える。一瞬後宝珠は光を発し諸刃(もろは)の刀へと変化していた。
鈍く銀色に光る刀をしっかりと握り直すと、女性は九尾の狐、この世のものとはとうてい思えない女へ向かって駆け出す。
「悪いが退治させてもらう。これ以上の犠牲者は出させない」
呟き、己を鼓舞すると、すらりとした刀を構え九尾の狐に襲いかかった。それはどう考えても、無茶な命知らずな行いに他ならなかった。


□□□□


きいん!
どこかで何かがぶつかる音がした。薄暗い雑木林の道中程で、浩輔と大樹はじっと顔を見合わせる。
「今何か音がしなかったか?」
「したした」

きん! きいん!

「そうそうこんな音」
「・・・」
ひくっと唇の端を持ち上げ、浩輔は大樹に問う。
「こに辺りって、野生の獣とかいたっけ?」
「・・・いないんじゃないか? 都会だし。ああ、極々たまにタヌキが出るぐらいかな」
ぼそっと大樹は言いおき、眉間にじっとりと皺を寄せる。
「タヌキって、きいんて音を出すんだっけ?」
「浩輔、絶対それはない」
間抜けな浩輔の問いをあっさり返し大樹は腕を組み、首を傾げる。
「だよな〜。じゃあさー」

きいん!

「これって何の音?」
「知るか。だけど何かが当たっている音みたいだ」
そんな大樹の感想に、浩輔は耳を澄まし音がする方向を確認する。
「あっちみたいだ。お社さんからだ」
二人は暗い闇に包まれた神社を窺う。神社に至る参道は真っ暗で街灯一つもない。そこには真の闇が広がっていた。まかり間違っても近付きたいとは思わない所だ。
否、普通の神経の持ち主ならば、回れ右をして一目散に逃げ出すだろう。そんな無気味さが今の神社にはあったのだ。
二人の聞いた無気味な音は、間違いなく神社の境内から聞こえてくる。二人は顔を見合わせ戸惑い、お互いの様子を窺った。

「どうする? 見に行くか?」
「なんでさ。おれ達には関係ないんだし、さっさと帰ろうぜ」
大樹はとんでもないと言い切り、さっさと歩くように浩輔を促す。
「だけどさもし誰かが襲われていたらどうするんだ? みてみぬ振りは後味悪すぎるぞ」
「・・・それはそうだけど」
何となく本能的にあそこはやばい、と大樹は感じる。
何かがいつもとは違う。それを感じる。

「一応見に行こうよ」
「浩輔、・・・止めようぜ。なんか・・・」
「珍しいな〜。怖いのか?」
大樹は浩輔にからかわれ、憮然とした表情になる。
「ば、ばっかやろ〜。なんでおれが怖がるんだよ! よし、いいぜ。ほら、さっさと行こうじゃないか!」
むんずと浩輔の胸のシャツを片手で掴み、大樹はどんどん暗闇へと歩いていく。
神社の参道へと二人は足を踏み出した。
ジジジジ。
微かに響いていた街灯の音も、いつしかしなくなる。ひっそりと微弱ながら空気が研ぎすまされ、澄んでいくのを二人はひしひしと実感した。
満月の明かりを頼りに、二人はおっかなびっくり歩いていく。あの何かに当たる様な音は、途絶える事なく続いていた。