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「漂泊」研究会関連研究報告→2008年6月29日(中国文芸研究会例会)


 


 田漢「白蛇伝」の諸問題
 松浦恆雄


 

 本発表は、T白蛇伝の現代化とUピグマリオン・コンプレックスに大きく分かれる。

 Tでは、話本、崑曲など田漢本(京劇)に至るまでの白蛇伝の経緯を説明した後、三種類の田漢本について考察した。 

 ポイントは、許仙の白蛇に対する態度である。改編が進むにつれて、許仙は白蛇との関係をより深く内面化するようになり、その分明確に自己を確立し、最終的には白蛇(女性)に対する忠誠心を誓うことになる。では、田漢は、なぜこのように許仙(男性)像を改変する必要があったのか。建国後に二度改編されていることからみて、単純に婚姻の自由云々の政治宣伝だけには解消されないように思える。

 そこで、Uでは、民国以降、建国前夜までの時期における、男性による女性創造の有り様を検討した。魯迅「傷逝」、茅盾「創造」、丁玲「一九三〇年春上海」、郁茹「遙遠的愛」、映画「遙遠的愛」などを材料にして、男性の女性創造がことごとく失敗し、最終的には、女性による啓蒙を男性が受け入れねばならなくなる、つまり男女の立場がひっくり返ることを確認した。この女性によって表象されているものが、田漢をして繰り返し許仙像を改変させた理由ではないか、というのが、とりあえずの結論。

 当日は、色々と考えさせられるご意見をいただき、ありがとうございました。単なる思いつきのような発表を暖かくお聞きいただき、本当にほっとしています。その後、別の論文の都合で、建国前の越劇「白娘子」がかなり政治性が強いのに気づきました。ご意見の反芻とともに、こんなのも挟めば少しは説得力が増すかもと思っているところです。



                                        (『中国文芸研究会会報』321号 2008.7.27)
 

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