今回の報告は三年ぶりで、新しい知見の披露といえるものではなく、三年前から現在までの自分の方針の変遷について報告したのち、この後の見通しについてきわめて不明瞭な展望を述べたにとどまった。
三年前からの関心である「女学生叙事」とは、(女)学校という前代未聞のモラトリアム地帯が主に女性の書き手に何をもたらしたのかということを考えようとするものであったが、「同性のおしゃべり」、「均質性、及びそこからうまれる排他性」、「学校から遠く離れてからの回顧の身振り」、「恋愛と友情との衝突」など、いくつか浮上してきたキーワードについて解説させていただいた。
次に、そこから生まれた展望―「越境、あるいは漂泊する女たち」というまとまりのないアイデアについて述べた。
生まれた国や街からの望まざる移動というコロニアルなシーンから出発して、見た目やしゃべり方から他人の生まれを、国籍を、教養を、財産を推し量ろうとする視線の暴力について考え、その暴力にさらされていることの居心地悪さと、翻ってそうした視線をうまく利用することによって乱世を渡ろうとするヒロインのしたたかさ(つまり性別という要素)について梅娘、張愛玲、朱天心から組み立ててみようとしたものである。
まだまだ思いつきから脱していない段階の報告であったにも関わらず、多数の参加者から貴重な質問、意見をいただいたことに感謝したい。一年か二年後には、またここで成果を報告させていただきたいと思う。
(『中国文芸研究会会報』320号 2008.6.29)