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研究の目的→

 学術的な特色と意義


 

 日本においても中国においても、これまでの現代(近代)文学研究では、1940年代という対象の持つ多面的特徴を損なうことなしに説明しえているとは言いがたい。

 その理由としては、主として方法論に対する積極的な認識が欠けていたためであると考えられる。一例を挙げれば、従来のオーソドックスな作家・作品研究では、もっぱら作者を中心とする書き手(主体)に目が向けられ、「誰が」「どこで」「何を」書いたかに関心が集中する。本研究では、作品が「どのように」描かれているかという文体そのものに対する意識的アプローチや、誰がどこでどのように「読む」のかという受容の問題、また作品の物質的側面やメディアに対するアプローチ、あるいは作家のネットワークを作品の芸術的価値を生み出す言説の影響圏として把握するような「文学空間」へのアプローチ、などが中心となる。

 とりわけ、近代化・都市化の進んだ地域における40年代の文学状況を論ずるためには、本研究のように、文化芸術の商品化やそれに伴う内容や表現の大衆化の問題を積極的に扱うことはきわめて有効な手段であり、これまで40年代文学研究に抜け落ちていた作り手と受け手を双方向的にとらえなおす画期的な視野を提供しうるであろう。

本研究は、1940年代文学の複数性を意識的な対象とし、新しいアプローチで迫ることによって、二〇世紀前半の中華圏の文化的蓄積を従来の固定的な見地からではなく、豊かな解釈のもとに評価し、開拓することを可能にする。その結果、二一世紀のアジアの文化状況を理解する上に欠かせない新しい認識の枠組みを世界に提供しようとするものである.。

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