My Little Library
 

岩井志麻子さんの本の書評

 

岩井志麻子 (いわい しまこ)

 
(プロフィール)
1964年岡山県生まれ。
ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞、第13回山本周五郎賞を受賞。
 
ぼっけえ、きょうてえ  岡山女  楽園 ラック・ヴィエン  瞽女の啼く家  死後結婚(サーフキョロン)  十七歳
 
  
著者から検索  書名から検索  ジャンルから検索  トップページ 
 
ぼっけえ、きょうてえ

ぼっけえ、きょうてえ

おススメ度:(5点満点)

本体価格:457円
発行所  :角川ホラー文庫
発行日  :2002年7月10日
形態   :文庫・307ページ

ジャンル:ホラー小説

目次
ぼっけえ、きょうてえ
密告函
あまぞわい
依って件の如し
 内容
 第6回日本ホラー小説大賞、第13回山本周五郎賞受賞作品。
 戦前の岡山を舞台としたホラー小説の短篇集。題名の「ぼっけえ、きょうてえ」は岡山弁で「すごく、怖い」の意味。
ぼっけえ、きょうてえ
岡山の遊女が客に聞かせて語る自らの恐ろしい境遇とその体に刻まれた秘密。
密告函
岡山で発生したコレラの早期発見のために設置された密告箱によって引き起こされる悲劇。
あまぞわい
岡山の漁村に古くから伝えられている恐ろしい伝承が現在によみがえる。
依って件の如し
岡山の農村で起こった殺人事件の背景にある恐ろしい人間模様。

 感想
 全篇を通じて岡山弁で語られている。はじめは読みにくかったが、読み進むうちに独特の雰囲気が味わえる。 特に「ぼっけえ、きょうてえ」は物語がすべて遊女の語り言葉(しかも岡山弁丸出しの)で形成されており、他の小説にはない独特の雰囲気がある。 恐ろしい妖怪や怪物、殺人鬼や呪いといったホラーの定番は登場しないが、本当に恐ろしいのは生身の人間の内面ということがよく伝わってくる。
 後書きで京極氏が述べているが、怖さを競い合うホラー小説大賞に「とても、怖い」という意味の挑戦的な題名でエントリーし、しかも大賞まで取っている。 これだけでも一読の価値があると思う。
(書評作成:2004年10月11日)
トップ > 書名別検索(は行)
トップ > 作者別検索
トップ > ジャンル別検索(ホラー小説)
トップ > 文学賞(日本ホラー小説大賞) > 日本ホラー小説大賞
トップ > 文学賞(山本周五郎賞) > 山本周五郎賞
 
  
著者から検索  書名から検索  ジャンルから検索  トップページ 
 
岡山女

岡山女

おススメ度:(5点満点)

本体価格:1,300円+税
発行所  :角川文庫
発行日  :2000年11月30日
形態   :単行本・237ページ

ジャンル:ホラー小説

目次
岡山バチルス
岡山清涼珈琲液
岡山美人絵端書
岡山ステン所
岡山ハイカラ勧商場
岡山ハレー彗星奇譚
 内容
 明治から大正にかけての岡山。 妾のタミエは事業の失敗から狂気に走った旦那・宮一によって切り付けられ、左目を失う。 その変わりとして今まで見えなかったものが左目に映し出されるという不思議な力を得る。 タミエ一家はこの力を生活の手段とし霊媒師となる。 タミエの能力は両親の力添えもあり、徐々に有名となり、彼女の元には様々な霊的な悩みを抱えた依頼者が続々と押しかける。

 感想
 一応、幽霊などが出てくるのでホラーに分類しているが、あまり怖さはない。幽霊が出てくることには出てくるが、悪さをするでもない。 ただこの作品で著者が本当に描きたかったのは、本文にも書かれているように「死霊より怖いのは生霊。 それをも凌ぐのは生きた人間」であろう。 そういう意味ではこの作品は生きている人間の怖さがより際立たせるように書かれており、幽霊が怖く書かれていないのはそのための演出であったのであろう。
 本作品は、タミエの元を訪れる依頼者の依頼ごとにまとめられた5篇の短篇集である。 最終話を読むまでは、それぞれが独立した話でそのまま終わるのかと思われたが、最終話で未来に向かって生きようとするタミエの成長が語られ、うまくまとめられている。 全体的にはタミエの不幸や生きた人間の陰湿な部分が繰り返し出てくるので、どんよりとした気分にさせられるが、最後でかすかな希望らしきものが描かれほっとした気分にさせられた。 良書であると思う。
(書評作成:2006年12月2日)
トップ > 書名別検索(あ行)
トップ > 作者別検索
トップ > ジャンル別検索(ホラー小説)  
 
 
著者から検索  書名から検索  ジャンルから検索  トップページ 
 
楽園

楽園 ラック・ヴィエン

おススメ度:(5点満点)

本体価格:419円
発行所  :角川ホラー文庫
発行日  :2003年1月10日
形態   :文庫・141ページ

ジャンル:ホラー小説
 内容
 日本での日常に飽きた女が訪れた灼熱の国ベトナムのホーチミン。 そこで彼女は怪しい魅力を持つ青年に出逢い、お互いの名前も知らないまま、享楽的なセックスに溺れる。

 感想
 「ぼっけえ、きょうてえ」の出来からして、非常に期待して読み始めたのであるが。 ホラーの要素はほとんどなく、ただただ官能的な表現だけ。 文書がうまく、ベトナムの情景がよく想像できるのであるが、残念ながら本題からずれた記述が多く、なにを伝えたいのかがいまいち不明瞭である。 官能ホラーという新しいジャンルにチャレンジした心意気はかえるが、私にはその良さが理解できなかった。 他の作品に期待したい。
(書評作成:2004年12月5日)
トップ > 書名別検索(ら行)
トップ > 作者別検索
トップ > ジャンル別検索(ホラー小説)
 
 
著者から検索  書名から検索  ジャンルから検索  トップページ 
 
瞽女の啼く家

瞽女の啼く家

おススメ度:(5点満点)

本体価格:1,400円+税
発行所  :集英社
発行日  :2005年10月30日
形態   :単行本・147ページ

ジャンル:ホラー小説
 内容
 明治時代の岡山県の村落に、盲目の女たちが暮らす瞽女(ごぜ)屋敷があった。 彼女たちは三味線や按摩、祈祷で生計を立てていた。 美しい女主人すわ子、行く先々に福をもたらすイク、物の怪や死者の気配を感じ取るお芳の周りで起こる不可思議な現象を描く。

 感想
 岩井氏得意の一昔前の岡山を舞台とした怪しげな物語である。 すわ子、イク、お芳のそれぞれの視点から話が展開していく。 はじめは物語の設定がいまいちよく分からなかったが、途中からおのおのの登場人物の関係が明らかになってくると急に話がスピーディーに展開していき、そのまま一気にエンディングまで突っ走ると言う感じであり面白かった。
 ただ心理的な怖さと言う点では、「ぼっけえきょうてえ」や「岡山女」には及ばなかったのは残念である。 これらの作品は生きている人間の怖さを描こうとし、それらが読み手にも伝わってきたが、この作品からはそのようなものは伝わってこなかった(話自体は面白いのであるが)。
 ネタバレになるので詳しくは書かないが、物語の設定は坂東真砂子氏の「狗神」に非常によく似ていた。 「狗神」は高知県、この作品は岡山県が舞台と言うことで場所的にも近いと言うことが関係しているのであろうか?
(書評作成:2007年2月5日)
トップ > 書名別検索(か行)
トップ > 作者別検索
トップ > ジャンル別検索(ホラー小説)
 
 
著者から検索  書名から検索  ジャンルから検索  トップページ 
 
死後結婚

死後結婚(サーフキョロン)

おススメ度:(5点満点)

本体価格:1,600円+税
発行所  :徳間書店
発行日  :2005年12月31日
形態   :単行本・292ページ

ジャンル:ホラー小説
 内容
 慶彦との結婚を間近に控えた京雨子は、慶彦の知人である沙羅の店で働くことになった。 徐々に沙羅に惹かれていく京雨子であったが、そんな折沙羅の内縁の夫が自殺を図る。 沙羅は夫を成仏させるため、彼女の故郷である韓国の慶州に古くから伝わる「死後結婚」を行うと京雨子に打ち明け、京雨子に同伴を求める。 そんな中、京雨子は次々と霊的な現象に見舞われる。

 感想
 ホラーに分類しているが、特に怖い現象が記述されているわけではない。 ただ京雨子の周りの人間関係のどろどろさが強調されており、心理的な面での怖さは充分に伝わってくる。 「岡山女」と同様に、この本でも著者が書きたかったのは、怖いのは死者よりもむしろ生きている人間であり、それは十分に伝わってきた。
 本書では随所に官能的な描写が出てくるが、「楽園 ラックヴィエン」とは異なり、ものがたりの進行をうまく助ける位置づけで使用されている。 「楽園 ラックヴィエン」では官能的な表現の多さに少し嫌気が差したが、本作品ではそんなことはなかった。 「楽園 ラックヴィエン」で著者が挑戦した官能ホラーのジャンルが進化したといえるであろう。
 エンディングでの京雨子の処遇があいまいであったのが残念である。 幸せになるか不幸になるかはっきりとした結末にしてほしかったと思う。
(書評作成:2006年12月24日)
トップ > 書名別検索(さ行)
トップ > 作者別検索
トップ > ジャンル別検索(ホラー小説)
 
 
著者から検索  書名から検索  ジャンルから検索  トップページ 
 
十七歳

十七歳

おススメ度:(5点満点)

本体価格:1,800円+税
発行所  :徳間書店
発行日  :2007年9月30日
形態   :単行本・329ページ

ジャンル:ホラー小説
 内容
 歌舞伎町に住む人気エッセイストである林あや美には、過去、歌舞伎町で同級生が失踪するという暗い過去があった。 彼女はこれまでの自分の知人や数奇な体験のことをエッセーにすることで人気を博する。 そんな彼女の前に、”怖い人たち”が次々と現れる。

 感想
 話の中盤までは、この話の独特の世界観を描くためにページが割かれており、少々読むのに退屈した。 しかし、途中からは話が急展開し、最後のエンディングまでノンストップで読み進めてしまった。 途中からの展開は秀逸であると思う。
 心理的に怖いというホラー小説であると思う。 いちばん怖いのはやはり人間の心理と狂気ということを改めて認識させられると思う。
(書評作成:2010年7月31日)
トップ > 書名別検索(さ行)
トップ > 作者別検索
トップ > ジャンル別検索(ホラー小説)
 
 

Copyright(c) 2015 My Little Library. All Rights Reserved.