マーラー作曲 交響曲第1番ニ長調 「巨人」

青春の情熱と哀愁、燃え立つロマンの感情とやりきれない苦悩をそのまま表現した音楽。28歳の青年マーラーが、自分の心情をストレートに告白したもので、ゲーテの若きウェルテルの悩みになぞらえて、マーラーのウェルテルと呼ばれる作品。
悩み多き青春真っただ中の人、恋に敗れた人、やり場の無い気持ちを持ってる人、青春時代を懐かしく想う人、ぜひ一度聴いてみてください!
そしてさらに興味のある方は、“さすらう若人の歌”という歌曲集を聞いてみてください。このシンフォニーの前年の作品で、その中のメロディーをこの曲にも使ってます。
シューベルトが、<鱒>という歌曲をピアノ五重奏曲や弦楽四重奏曲に使ったように。

青春の情熱と哀愁、燃え立つロマンの感情とやりきれない苦悩をそのまま表現した音楽。28歳の青年マーラーが、自分の心情をストレートに告白したもので、ゲーテの若きウェルテルの悩みになぞらえて、マーラーのウェルテルと呼ばれる作品。

悩み多き青春真っただ中の人、恋に敗れた人、やり場の無い気持ちを持ってる人、青春時代を懐かしく想う人、ぜひ一度聴いてみてください!

そしてさらに興味のある方は、“さすらう若人の歌”という歌曲集を聞いてみてください。このシンフォニーの前年の作品で、その中のメロディーをこの曲にも使ってます。

作曲年代

1888年 マーラー28歳のとき。5年の歳月をかけて完成。

構成

4楽章から成るが、完成したときは交響曲とは言わず、二部(5章)構成の交響詩「巨人」と呼ばれた。これは、ジャン・パウルの小説から取られた名前で、さらにそれぞれに次のような副題が付けられていた。

一部 青春、美徳、結実、悩みの日々より

 T終わりのない春<1楽章> U花の章 V順風に帆を上げて<2楽章>

二部 人間喜劇

 W座礁。カロ風の葬送行進曲<3楽章> X地獄より天国へ<4楽章>

のちにこれらの表題をすべて削除し、Uの花の章も削除して、4つの楽章から成る交響曲として1899年に今の形として発表。(<>の中は最終的な交響曲としての楽章)

標題にとらわれることなく、純音楽の作品に仕上げたかったものと思われる。

特徴

作曲者28歳のときの作品ということもあり、若々しい情熱と、特有の暗さ、苦悩を描いた作品。
内容的な大きな特徴として、自作の歌曲集“さすらう若人のうた”の引用がある。
作曲家としては、オーケストラ伴奏つきの歌曲でそのスタートを切ったマーラーの、初めての交響曲形式の作品であり、彼のその後の10曲のシンフォニーの出発点。

出だしの意表をつくような高音の持続音、3楽章の葬送行進曲をコントラバスのソロで始めるなど、それまでの常識を覆すような斬新な試みが、新鮮な響きを作り出した。
4度下降の音型が全曲を際立たせていることも大きな特徴。

大編成のオーケストラの音ばかりに目が行きがちだが、随所に歌うようなメロディーが出てくる曲でもあり、“歌”心が満ち溢れた曲です。

この曲にまつわる話

マーラーの弟子、指揮者のブルーノ・ワルターのことば

「マーラーは、やせて青ざめ、やや長い顔の小柄なからだつき、濃い黒髪でふちどられた切れ上がった額、眼鏡の奥にかがやく特色のあるまなざし、人と語る場合にいちぢるしい表情の変化をみせる顔に表れた懐かしさとユーモア・・・・マーラーは、その容貌や態度からいって、天才であるとともに鬼神のように見えた。私の生活は、彼に会った瞬間から急にロマンチックになった。実際、もし若い音楽家の生活の中にマーラーが入ると、しばらくの間に、その音楽家の人生観がまったく変化してしまう。その抵抗しがたい力こそ、マーラーの個性の根本的な影響を最もよく認識させるものである。」

マーラーが、ワルターに贈った手紙(交響曲第1番の演奏について)

「僕は、この若々しいスケッチをまったく満足に思った。僕はこれを指揮するときはいつでも不思議なほど感動させられるのです。ここには燃え立つ、また苦しみに満ちた感情が結晶しています。この音が反映している世界はどうだろう。葬送行進曲のような楽章、またそれに続く嵐のとどろきは、私に造物主の強烈な告発を思わせる・・・」

マーラーの独白

「私は三重の意味で安住の地を持っていない。まずオーストリアにおけるボヘミア人であること、次にドイツ人としてはオーストリア人であること、第3に世界人としてみた場合ユダヤ人であること。どこへ行っても歓迎されない人間というわけです。」

第1楽章 
Langsam,schleppend(ゆるやかに おもおもしく)

序奏部を持ったソナタ形式

序奏部

独創的な開始である。弦が高音の長い持続音を弱いピアニッシモで奏でる中、オーボエとファゴットが4度下降の動機をのんびり演奏して始まる。春ののどかな風景、格好などの鳥の鳴き声をイメージするよう。

この4度下降の音型は、この楽章だけでなく、全曲のいろんなテーマを形作っている。

提示部 

主部に入ると、チェロに第1主題が出てくるが、これが歌曲集“さすらう若人のうた”の第2曲(朝の野辺を歩けば)からの引用。そしてこれも4度下降の音型で始まる。

第2主題は木管楽器で細かい動きをする。

展開部は、提示部に出てきたいろんなテーマを展開し、また新しい活気にあふれたテーマを加えながら、ピアニッシモからフォルテシモに駆け上る。

第1主題がもどって再現部に入る。

再現部は比較的短く、簡単に主題を再現して最後のコーダ(終結部)に向かい、アッチェレランド(だんだん速度を増す)してこの楽章を閉じる。

再現部が簡潔になってるのは、最後第4楽章の締めくくりにこの楽章の主題が出てくるので、くどくならないように考えられたと思われる。
広々とした田園風景、さえずる鳥たち、そんなのどかな春のように、青年の心も飛び跳ねるような躍動感あふれる。青春の息吹である。

楽章 
Kraftig bewegt, doch nicht zu schnell(力強く動いて、けれども あまりはやくならないように)

三部形式のスケルツォ。モラビア地方の農民舞曲で、中間部はワルツ。

エネルギーがあふれ、体が勝手に動き出す・・・・そんな若者を表現してるような音楽。

低音の弦楽器で力強いオスティナート(同じ高さの音が何度も出てくる)が奏されてはじまるが、この音型も4度下降。

そして木管楽器に主題が出てくる。歯切れのいい旋律。

中間部のトリオは、うってかわってやさしく甘い旋律のワルツ風の音楽。

ワルツが終わるともう一度最初の部分に戻る。

ここは第1部の単純な再現ではなくて、簡潔に終わる。その終わり方も、速度を速めながら管楽器が長いトリルで盛り上げて力強い和音で終える。

やや唐突な終わり方だが、次の楽章との対比を際立たせるという意味で効果満点。

第3楽章 Feierlich und gemessen, ohne zu schlippen(儀式のような荘重さと威厳をもって、決して引きづるように緩慢にならぬように) 

最初、<カロ風の葬送行進曲>と名づけた音楽。

カロというのはフランスの銅版画家で、猟師の死体を獣たちが担いで、踊りながら墓地に進むという画からヒントを得たらしいが、標題は取り消された。

しかしこの葬送行進曲という呼び方は、この楽章のイメージとしてぴったりのものであることは間違いない。

三部形式

ティンパニーが4度下降の音型をピアニッシモで2小節打ったところで、コントラバスのソロが、この楽器としては高音域で主題を奏する。足を引きずるような、哀愁極まりないテーマの異様な登場の仕方である。

カノン風にいろんな楽器に引き継がれた後、オーボエが悲しげなそれでいてユーモラスなテーマを吹く。

中間部は<ひじょうに飾気なく、素朴に民謡風に>という指定のある、柔和で明るい気分の音楽で、その主題は、“さすらう若人のうた”の第4曲からとられたもの。甘いそのメロディーは、ロマンチスト・マーラーの恋心かも知れない。

そして最初のテーマに戻って、静かに消えるようにこの楽章を終え、息つく間もなくそのまま第4楽章に流れ込んでいく。

第4楽章 Stünmisch bewegt(嵐のように激しく揺れ動いて)

ソナタ形式または三部形式。ソナタ形式にとらわれず、大きく3つの部分から成る楽章とも 考えられる。

絶望、苦悩という前の楽章の暗いイメージを、意志の力で克服しようとするかのように、フォルティシモで始まる。

シンバルの強烈な一撃で始まり、全楽器が情熱的な音楽を展開する。この序奏部分がしばらく続き、トランペット・トロンボーンが第1主題の初めの部分を力強く出してきて盛り上がってくる。その頂点で「Energisch:精力的に」と書かれた部分に入り、木管楽器と低音弦による第1主題がその全貌を現す。

そして「Mit grosser Waldheit:おおいに粗暴に」と指定された部分に入り、強烈な金管の響きと、木管・弦楽器の荒々しい旋律の交錯。

この激しい部分が終わると、穏やかな部分に移り、第1主題と対照的な息の長い優雅なテーマが現れる。これが第2主題。

展開部

第1主題を中心に展開されるが、いろんなテーマの断片がいろんな楽器を使って多彩に変化していく。第2主題も出てくるが、これを変形させた音型も加わって行進曲風に展開していく。

再現部

第2主題とその変形された音型が展開されるが、同時に、第1楽章のいろんなモチーフが思い出したかのように現れてくる。全曲の統一感を出す上で大変効果的でもある。

再現部の後に、この曲のクライマックスであるコーダ(結尾部)がやってくる。

Höchste Kraft(最高の力を以って)と表示された部分が100小節あまり続く。

若者の嵐のような苦悩と葛藤の激しさを通り過ぎた後、決然とした前進の意志を示すかのように堂々とした足取りの音楽。そのテーマは例の4度下降の音型で、第1楽章からとったもの。まったく違うように聞こえるから不思議です。

※(第1楽章の序奏部のテーマ)

コーダの部分、力強い音楽で金管楽器もその威力を発揮するのはもちろんだが、中でもホルン奏者(7人!)が一斉に立ち上がっての演奏は圧巻。これは指揮者の演出ではなくて、マーラー自身が指定している。

 マーラーはこの曲の後に9曲のシンフォニーを作るがいずれも長大なもので、独唱・合唱・大編成のオーケストラを必要とするものが多く、時にはしつこすぎるようなところもあるが、この第1番は比較的短くて(といっても50分以上だが・・・)、まとまりのある曲であり、独創的な響き・若いエネルギーに満ち溢れている曲です。