ベートーヴェン作曲 ヴァイオリン協奏曲二長調作品61

作曲年代:1806年 初演:1806年12月23日
アン・デア・ウィーン劇場
(Vn)フランツ・クレメント


36歳のベートーヴェンといえば中期の名作が次々と生み出されていた時期で、第5交響曲の作曲中であり、≪ラズモフスキー≫弦楽四重奏曲(7-9番)が作られた年でもある。
生涯に10曲のヴァイオリン・ソナタを書いたベートーヴェンはこの年までに9曲書き上げており、ヴァイオリン独奏とオーケストラのための≪ロマンス≫2曲も既に書いたあと。
結果的にこの協奏曲がヴァイオリン独奏のための音楽の集大成になった。
私生活の面で、テレーゼ・フォン・ブルンスウィックと婚約もしており、生涯で一番楽しく充実していた時期かもしれない。
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲などに比べると非常に長大で、演奏時間は45分位。




第1楽章

ソナタ形式(アレグロ・マ・ノン・トロッポ)
ティンパニーが4つ小さく刻むという、かつてなかったような開始。
この単純なリズムは、第5シンフォニーの運命の動機を思い起こさせるし、この曲全体のリズムを決めるような重要な動機です。
つづいて木管楽器が非常に優雅な第一主題を悠々と歌う。

長い経過部を経て、再び木管群が第二主題を奏する。
この主題は単純な音の運びだけど凄く愛らしくて、あのベートーヴェンがこんな優しいメロディーを書いたことに驚くくらいです。ヴァイオリンという楽器がこんな優しい音を生み出したのかもしれません。

このテーマが終わるといよいよ独奏ヴァイオリンの登場となるのですがその直前にまた非常に優雅な旋律が短く出てきて、オーケストラの提示部分が終わります。

独奏ヴァイオリンが即興風なカデンツァで入ってきて、この二つの主題をのびのびと演奏します。
型どおりに主題の提示が終わると展開部。
オーケストラの力強いテーマで始まり、独奏ヴァイオリン・木管楽器・弦楽合奏が次々と展開されていきます。
オーケストラの全合奏で第一主題が戻ってきて再現部。
このあとに独奏ヴァイオリンのカデンツァがあり、ベートーヴェン自身は書いてませんが、名ヴァイオリニストのヨアヒムやクライスラーなどのものが有名ですし、クレーメルやベルなどのように自作のものを弾くヴァイオリニストも多いようです。
そして最後の部分で第二主題が甘くピアニシモで消え入るように歌い(ここが最高!)、最後は力強く締めくくる。

第2楽章 変奏曲形式(ラルゲット)
美しい主題が弦楽器の合奏でピアニッシモで提示される。

この短くて優しい感じの主題が次々と展開されてゆく。
クラリネットやファゴットがこのテーマを吹き、独奏ヴァイオリンが華々しく装飾していく。
新しい旋律も出てくるがあくまでも優美である。
そして突然弦楽器群がフォルテになり、独奏ヴァイオリンがカデンツァ風に目覚めたように奏すると音楽はそのまま切れ目なく次の楽章に入っていく。

第3楽章 ロンド(アレグロ)
音楽は一気にテンポアップ、いきなり独奏ヴァイオリンが躍動的な主題をピアノで奏する。続いて独奏ヴァイオリンが同じ主題を2オクターブ上で繰り返す。
さらにオーケストラがフォルティッシモでこれをもう一度繰り返す。

サブテーマを挟んで再びこの主要主題が繰り返される。
もう一つのサブテーマが出され、その後またまたあのテーマが帰るというぐあいに、主要主題がこの楽章を支配する。
そして最後に独奏ヴァイオリンのカデンツァで盛り上がり、長いこの曲を輝かしく終わる。