●始めに●
まず始めに、なぜ「わたつみ」なのか。ということを説明しますね。
私の学科では、
「わたつみについて調べてるねん」
「あっ、そうなんやぁー。なんかわかった?」
「まあ、それなりに。新しい論はうちたてられへんけどなー」
というような、多分関係のない人にはさっぱりわからない会話が日常繰り広げられます。
繰り広げられるっていうか、普通に。日常会話に出てくるんですよ。
それで、この説明なしにいきなり「わたつみについて」で始めたら、ネットの友達に「何故わたつみなんて急に調べたの?」と聞かれまして。
目からうろこ。普通にアップしてただけになー(笑)。
「わたつみ」なんて、今時使わないから、意味わからないよね、確かに。
数年前、「きけ、わだつみの声」ってドラマ(映画?)あったの、ご存知ですか?
あの「わだつみ」なんですけど。
「わだつみ」は、もとは「わたつみ」という発音だったんです。それが変化していって、「わだつみ」(「わたづみ」とか他にも言い方があるらしいが)になったわけです。
今回、私は古典語学演習という授業で、「水に関するコトバについて調べる」という課題を与えられたわけです。
水に関するコトバ一覧表(これは他の授業で生徒に作らせたものらしい。上古から存在する水に関係のあるコトバが抜き出してある)を見て、あの「きけ、わだつみの声」のことを思い出しました。
「わだつみ」ってなんのことやろう・・・?
あの時、私はなんとなくのイメージは抱いたものの、その意味はわからず、ほったらかしにしていました。
よっしゃ、じゃあ今回はこの「わたつみ」について調べてやろうじゃないか!!
こういうわけで、「わたつみ」を調べることになったのです。
で、折角調べたから、ここにのせたろ〜ってなことでアップすることになったわけでございます。
おわかりいただけたでしょうか?
友達が意味不明だったように、多分日本語学関係以外の人には、それこそ意味不明な文章かもしれません。
しかし、まあ「こんなことしてるんだ〜」ってかんじでさらっと見てやってください。
こっち関係の人がいれば、何かのお役にたてればやれ幸い。
古典語学演習F 「わたつみ」について
まず始めに、辞書による意味を見ていく。
「時代別国語大辞典 上代編」
【海神・海若】 一、海の神。ワタは海、ミは神霊の意。
二、海。
「日本国語大辞典」
【わた-つ-み】 一、(海神)海の神。その地方の海・雨・水をつかさどるといわれる。
海神。わたつみのかみ。海(わた)の神。
二、(海の神がいる所の意から転じて)海。海原。
「岩波古語辞典」
【わた-つ-み】(海)「海(わた)つ霊(み)」の意。ツは連体助詞
一、海神。それぞれの海ごとに居り、その地方の海・雨・雲・水をつかさどった。
二、海神のいるところ。海。
「角川古語大辞典」
【海神・海】 中世以降は「ワダズミ」「ワタズミ」とも読まれた。
【海(神)】 「ワタツミ」<名義抄>「広海ワタヅミ」<書言字考>
一、海の神。海を支配する神。豊玉彦と称するという。
「つみ」が神を意味する語ともいわれるが、「つ」は連体助詞、
「み」は霊格を意味する語であろう。
二、転じて、海を言う。
「日本古語大辞典 刀江書院」
【ワタツミ(海)】 ウミは大水の義で湖沼をいふにも用いられるから、
えと区別するために海洋をワタツミ(ワタツウミ)と捉へたのであろう。
【ワタツミ(綿津海)】 ヤマツミ(山住)に対して海住民をワタツミと捉へたもののやうである。
豊玉彦の如き用例を見ても、ワタツミを海と解することは困難で、
海住の意から出たと認められるのである。
というわけで、辞書による意味を見たところ、「わたつみ」の意味は
一、海を支配している神のこと。
二、海洋
の、二つがあると思われる。
最後の辞書では、ちょっと違うことを言ってますが。
これは、用例を見ればわかるのだが、「海に住んでいる人」という意味で使われているものは私が見る限り(少なくとも「万葉集」の中には)一例もない。
よって、これは間違いであると考える。
ところで現代の「わたつみ」はというと、辞書を調べると、海の神という意味と、海そのものを指す場合とあるようで、結局古代から意味としては変わりがないようだ。
用例をみてみなくちゃいけないけどね。
しかし、辞書をわざわざ調べたことでもわかるように、その意味はいまいちわかっていなかった。
現代では「わたつみ」なんて言葉、普通は使いませんよね。
では、次に万葉集と古事記の中から用例を出し、分析していく。
言葉には、そのものを示す働きだけでなく、イメージを持ち、それにより様々な印象を与える働きもある。
古代人は「わたつみ」という言葉にどんなイメージを持っていたのだろうか。
検証していこう。