俵 万智 「サラダ記念日」 (昭62・5)より

思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ

「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君

ハンバーガーショップの席を立ち上がるように男を捨ててしまおう

男というボトルをキープすることの期限が切れて今日は快晴

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

サ行音ふるわすように降る雨の中遠ざかりゆく君の傘


私個人として、特に好きなの。「ハンバーガーショップの・・・」が、なんかクールな、さっぱりとした女をイメージして、非常にここちいいと感じます。すごく現代的な文体だな〜と思います^^それから「嫁さんに・・・」っていうのはほのぼのしますね。「いいの」なんて言いながらも、やっぱり嬉しいんだろうな〜とか想像して。あと、「サ行音・・・」は、情景が想像されて、さらに「サ行音をふるわすように降る雨」というのが音として、キレイに感じます。



*俵万智さんについて*

昭和37年12月、大阪府に生まれる。早稲田大学卒業。
大学3年の時、佐佐木幸綱の講義を聞き、昭和58年秋、「心の花」に入会する。59年に角川短歌賞の候補となり、つづく60年の「野球ゲーム」で次席、61年の「八月の朝」で第三十一回角川短歌賞を受賞。昭和62年、第一歌集「サラダ記念日」を出版するや、たちまちのうちにベストセラーとなり三百万部という、歌集としては未曾有の販売数を記録。同年「日本新語・流行語大賞」を相次ぎ受賞。平成三年、<国語審議会委員>に選ばれる。






河野 裕子 「森のやうに獣のやうに」(昭47・5) より

逆立ちしておまへがおれを眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと

青林檎与へしことを唯一の積極として別れ来にけり


たとへば君 ガサツと落葉すくふやうに私をさらっていってはくれぬか

夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと

過ぎしかばなべては光を照り返し緑金の野に忘れし帽子



どれも好きですね。特に、「青林檎・・・」と「たとへば君」。「たとへば・・・」は、私も思いますから。がさっとね(笑)
「夕闇の・・・」はなんだか色んなことを想像してしまいます(爆)
この人のうたは、<女>を非常に意識していると思われます。


 *河野裕子さんについて*

昭和21年7月、熊本県に生まれる。京都女子大学卒業。
昭和39年、高校三年生の折病気で一年間休学し、この間に「コスモス」に入り短歌を作り始める。
44年、「桜の記憶」50首によって第十五回角川短歌賞を受賞する。47年、第一歌集「森のやうに獣のやうに」を上梓する。その後、歌人の永田和宏と結婚し一男一女の母となる。現在は「塔」に所属する。




高野 公彦 「汽水の光」(昭51・3) より

空にあるひとすぢの道たましひの往くごとく秋の鳥がゆきたり

あきかぜの中のきりんを見て立てばああ我といふ暗きかたまり

白き霧ながるる夜の草の園に自転車はほそきつばさ濡れたり

はくれんはひかりそらに花みちてありふる一日ひとひのひびき


男の人のうたってまた女の人のとは違う良さがありますね。「あきかぜの・・・」が特に好きです。人間臭さというのでしょうか、この暗さがいいですね。「はくれんは・・・」もかなりいいです^^
この「汽水の光」はふるさと・過去・家庭が根底にあります。



 *高野公彦さんについて*

昭和16年12月、愛媛県に生まれる。東京教育大学卒業。
昭和39年、宮柊二を訪ね、「コスモス」短歌会に入会する。大学を卒業すると河出書房に入社し、主として日本文学関係を中心とする編集にたずさわる。47年、奥村晃作、杜沢光一郎らと同人誌「群青」を創刊。51年、第一歌集「汽水の光」を上梓し、その年「コスモス賞」を受賞する。現在、青山学院短大教授。