出版物

 ホタルの本はたくさん出ています。ホタルの飼育などについては先代の研究者らによって明らかにされてきました。ところが100%確実にたくさんの幼虫を 飼育する方法は相変わらず模索状態です。それだけにホタルは難しく,生命そのものだと感じさせられます。
 一方写真集は華やかな時代となり,相次いで出版されるようになりました。派手さをきそう時代において,合成,改造が一部で普遍的に行われるようにもなり ました。写真とは何かが問われる時代に突入です。


一般書籍

 「ホタルのふ やし方・写し方」
  「ホタルをとばそうー自分で作るビオトープー
 「ホタルの飼い 方と観察」

 「タルマップ」
写真集

  「蛍」 
 「蛍の里」
 「蛍を見に行 く
 「蛍前線の旅」 
 
「ホタル」 


村上光正編 「ホタルのふ やし方・写し方」 パワー社、2007
 ホタル保護活動に携わっている人たちの事例を編集している。河川の増殖はどこがキーワードになるか、自治体との協力はどうすべきかなど、きわめて具体的 である。また都市の中の庭園でjホタルを増やす、人工魚道でホタルを飛ばすなどの事例も取り上げている。
 ホタルの写真の撮り方は、村上、江藤、山口の3人が実際に撮影することで組み上げた、極秘テクニックともいうべき技術を詳細に記載している。従来の撮影 技術で何が不足していたか明確である。今まで取り上げられることがなかったフィルムの相反則不軌特性とホタル撮影の関係解析は、撮影技術向上に欠かせない も のである。これらの撮影技術は特に難しいものではなく、素人がプロを凌ぐような写真が撮れることを明らかにしている。
 ホタル写真は合成が全盛であるが、それはイラストであり写真ではないと主張する。そして、真の写真を合成を凌ぐものとする技術がここにある。

村上光正・木下一成著  「ホタルをとばそうー自分で作るビオトープー」 パワー社、2006
 街中でビオトープを作ってホタルを飛ばすという研究テーマに取り組んできた成果をまとめたもので、ビオトープ庭園を提唱している。木下は会社を経営し、 ビオトープ造園、生態系調査を長年にわたって請け負ってきた。
 内容は誰でも作れるように具体的に書いてある。ホタルを室内で飼うことについても実践を踏まえて記述している。また河川でホタル保護活動を行うに際し、 重要な技術的知見が得られる。

大 場信儀 「ホタルの飼い 方と観察」ハート出版、H5
 彼はホタル研究で有名で出版物も多い。この本はホタルの種類なども書いていて総合的である。
 ホタル飼育の方法について幅広く記述している。ヘイケボタル、ゲンジボタルのみならずヒメボタルの飼育方法を述べていて、大変役立つ情報を提供してい る。どのような場所でホタルの幼虫は育っているか、彼は経験を踏まえて詳しく述べている。関東と関西の飼育環境の違いなど役立つ情報が満載されている。但 し書面の関係で記述に限りがあるので,概論と考えた方がよいのかもしれない。それぞれの飼育方法は,個々人がさらに磨きをかける必要があることはいうまで もない。
 最後はビオトープ作りの事例を集めている。

「ホ タルマップ」 NPO ホタルの会、2004
 日本中のホタルが飛翔するところを網羅しようとした試みである。400〜1000箇所を網羅しているのではないか。もちろんすべてを網羅しているわけで はなく、公開されていてかつ重要な場所が欠落している事例もある。また、公開しない場所がありそれは記載できなかったとあとがきにある。公開すると人たち が押しかけホタルが取られてしまうということが少なくない。これが無くなればもっとたくさんの記述が出来るだけに残念である。
 しかし,兵庫県では既に公にされていて,鑑賞会が呼びかけられている場所であって,自治体の補助を受けている場所も記載されていないほうが多い。このこ とからこの本であってもまだ網羅するにはほど遠いのか,それほどホタル飛翔地は多いのかと考えさせられる。


小原 玲著 「蛍」 ワニ ブックス、2002
 デジカメ写真を合成した本である。小原は、アマチュアがデジカメ写真 を合成する道を先導していることで有名である。彼によれば,露出時間15秒で撮影した写真をパソ コン上で合成するのである。合成であるから背景や蛍の色も自由自在である。車のライトが入ってもその写真を除去できる。
 非常に派手な作品に仕上がっている。合成の仕方はまさにプロの腕の見せ所のよう である。アマのwebサイトなど全く及ばない領域にある。

 しかし、成果物は既に写真の域を脱していて、イラスト集のような様相 である。風景写真集とこの本を並べて見る場合、世界が違うことがよくわかる。また背 景を昼間撮影したと考えられる作品もある。この場合は明らかに写真の範疇にない。むしろホタルを題材とした作品,芸術性をねらった作品と考えるべきであろ う。写真とすると問題が多すぎる。

西川祐介 「蛍の里」 東 方出版、2006
 フィルムカメラで撮影している。それを合成あるいは改造したものであ る。全体に小原氏よりも自然風になっており、目立つ作品も多い。ただし、撮影条件を 記載しているが、合成の場合、それが背景なのか貼り付ける蛍なのか明記されていないので戸惑う。またそれらの加工方法が一切記載されていないのが気になる ところである。
 作品の中には,波線を挿入し,説明 文「ほわっ−。ほわっ−と強く光るゲンジボタルと,チカチカと速いテンポで光るヘイケボタル。まるで源平合戦のような光景であった」としたのはいただけな い。それ以外の説明がなく写真としみてもらうことを期待しているようである。明らかに問題がある。読者をして虚構の世界に引き入れてしまうものである。
 その他,内表紙のホタルに月の写真も,月にコウノトリのようで問題あるものだ。月は小さいものであるが,ホタルをその中に入れるには遙か離れてホタルを 接写しなければならないはずである。それも,その先に月がなければならない。従って合成写真と明記すべきであった。
 どうしてもこのような作品を作りたい場合は,合成や改 造について、その趣旨と制作方法を明記してあればよかったと思う。

宮 嶋康彦 「蛍を見に行 く」 文芸春秋、2004
 合成とおもわれる作品は特別派手なホタル乱舞以外ほとんどない。地味 な作品が多い。読者に、あ まり美しくないといわれる。プロとはつらいものである。そうかといって合成に走るのも いかがとは思う。
 ホタルブクロの写真が複数載っているが,名前こそ似ているが,ホタルが好むわけではなく直接関係ない植物であるだけに,彼だけではないが,プロのカメラ マンが説明もなく挿入するのが不思議に思える。

宮 嶋康彦 「蛍前線の旅」 小学館、 2001
 これも合成とおもわれる作品はほとんどないが,全くないわけではない ようにに思えるがーー。地味な作品が多い。もう少したくさん飛翔しているところを写して もよいように思う。もっと華やかな撮影を目指してもらってもよいように思う。ーーこのように期待すると最後は合成や改造に走られることになりかねないの で,これまた困ったことになる。

栗 林 慧 「ホタル」  ask、2006
 ホタルの図鑑というようなものである。幼虫が蛹になるところなど、丁 寧な写真がある。このような特殊撮影は驚くべきものがある。さすがプロだとうならせる。この部類に入る作品を評価すべきであろう。
 飛翔作品は少なく、それらは合成や特殊撮影と考えられるが、写真集 ではないのでどうこういうべきものではない。
 DVDつきであるが、これは美しくはない。付録にしない方がよかったとも思う。

 なお、上記の「ホタルマップ」の写真は栗林が撮影している。 
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