2.商工(貿易)課長時代1950.

 
ことしの課題
(2)1951.1
 

  まがりなりにも安定の姿をとりかけた日本経済が、最近の世界的な戦争気構えに、再びゆり動されようとしている。万事、経済変動のひびきのおそい京都のことではあるが、下半期の近づくにつれて、忙しくもなり、むつかしい問題が累積してこよう。
 京都市のふるい諸産業は、終戦後の新しい経済事情になお円滑な適応をとげていない。これは、土地柄からくる出足の重さや、またある意味からみて救われ難いような要因からきているものと思われるのであるが、それが未だしっかりした見通しのないままに新しい変動に直面しているわけである。成程、安定化政策でしめ上げられた産業界にとって
,最近の情勢の影響は複雑ではある。しかし目先の売行の好転にあまやかされて、長期的な適応性への方向づけを怠つてはならない。
 ところで、ささやまながら、一応の布石をおき、やっと動きはじめたばかりの市の商工行政は、当初から多方面すぎる仕事に手を拡げた感がないではない。各方面よりの所謂シワ寄せから郷土の産業をまもりもりたてて行くために、生産面、販売面、金融面において、個々の企業の経営強化を通じまた組合への組織活動を通じ、考え得られる手はかなりある筈である。市の政策も、最も要求の多い金融面と従来の慣行ともいうべき販売面とについては、その企図が多少とも明確化してやや恰好らしいものが出来かけてきたが、生産面については個別的な技術指導は別として、統一的な指導性の稀薄さがないではなかった。限られた人員と予算がうみ出す効果にはおのづから限界のあることを覚悟せねばなるまいが生生面への重点の移行こそが、市民全体の生活を将来にかけた根本的志向でなければならない。大方の理解と協力とのもとに、市の生産都市化への計画が進められることが望ましい。市民に生生産的能力があるか否かが今後の激動期を生き向抜くためのカギとなることを、銘記したい。

(「巻頭言」2 1951.01.30)

 

 

企業組合と税(6)1951.8

 

 企業組合に関する課税問題もどうやら大詰にきた感がある。過去一年に近いあいだ税務署の処置に最大の関心を払いながら続けられた努力の成果は,一応結実したものもあれば,結実があやぶまれ或は絶望視されるものもある。
戦後の国民生活において
,税の要素が如何に大きいかは,あらゆる機会に経験させられるところであるが,この傾向は当分弱くはなるまい。従って国の基本的な政策からとり残され勝ちな零細業者のための助成指導にむけられるささやかな諸施策も,他のもっと大きい圧力によって,その効果のあらわれが減殺される事情も起りうるわけである。業者各位は,身にふりかかるいろいろな影響を,広い視野のもとに検討され,これにたえ,これを払いのける力をやしなっていただきたい。 いうまでもなく企業組合は,この変転きわまりない現経済社会において,零細な業者が生き抜くために考案された一つの手段と解される。それは,条件のピッタリ合つた適度の数の業者が資本と労働力とを投入して、組合という比較的にはいり込みやすい性格を保持しながら,より大きい単一の企業体としての実をつくり上げてゆこう,というのが狙いである。しっくりした同志的なまとまりが必要とされる。
 労働者のつくる労働組合と異って
,勤労者であっても独立の経営者の場合では、団結は一般にむつかしいものである。にもかかわらず、普通の事業協同組合の数に比して、それよりも高次の組織体と目される企業組合が夥しく結成されたのは,何故でれろうか。もちろん税に起因している。税金問題で結集した業者が、税金問題を乗り切って本来の企業組合としての実体を備えてゆこうとする努力をもり上げたい。税法上の法人としての認定も、この努力の方向に充分ウェートを置いた判断が望ましい。また,業者各位は.企業組合は目下生成の過程にあり,税金の問題はこの生成の過程にぶつかった一大試練とうけとられ、単なる目先の手段的な組合,あるいは税務署とかけ合ってくれる指導者のみを頼りとした組織にとどまることなく,真の企業組合精神に徹した,業者自身のしっかりした結合体に発展させて戴きたい。
 これについてのあらゆる協力を
,わたくしたちは準備したい。
                                                          (26・7・15)
                                         経済局商工貿易課長 上田 作之助
                                               「巻頭言」
6 1951.08.30

 

 

 

   経営と生活(10)1952.9
 

   経営と生活

 わたくしたちは、半年ほど前から「経営合理化研究会」、「税務・経営研究会」の二つの研究会をもつているが、共に非常な盛会で,業界のかたがたと固い結びつきの出来たことを心から喜んでいる。二つの研究会のうち、前者は、従来から行われている経営診断対象の組織化を意図したものであって、経営上のいろいろの問題を出し合つて研究する会合であり、後者は、経理指導のいわば機動化と税問題の合理的解決を推進しようとする会合である。
 ところで
,この二つの会合を通じて、いつも考えさせられることは、とりわけ中小企業の場合、合理的な経営の出発点は合理的な生活だということである。税問題の解決や経営の合理化をはかるにさいしては、さし当り経理が基礎
となるわけであるが、経理と家計とが未分化な経営の場合には
,生活面の不合理な計数が、そっくり経理にもちこまれ、それがまた、そのまゝ経営態度にも反映する場合が多いために、経営者個人の生活を切り離しては経営診断の働く余地が非常にせばめられるようである。こゝにおいて、生活の合理化を通じての経営と家計との分離が、税・経営等あらゆる問題を解決に導く重要なカギとなって来る。
 さて、しからば合理的とは何か、これはとてもむつかしい題目である。わたくしたちの生活のなかには惰性と長い間の慣習とが根をはっており、現実の社会にはいろいろな所得の階層があり、消費の構造も「合理的」には出来ていない。従つて、現在わたくしたちの当面している生活の合理化とは、単なる抽象的な効用配分の面から見た合理化に止らず、自立達成のためのもろもろの意識を背景とした合理化であらねばならない。経営の合理化をとり上げるときには、そういつた意味の合理的な生活再建の問題が、業界の皆様からもち出されることを期待している。
 また
,わたくしたちは、京都市において立派な企業が大いに成長し発展することを望んでいる。そのことが同時に市の雇傭力を増し、所得の源泉をつちかうからである。現在のむつかしい経済社会を乗り切るためには、合理的精榊と共に、発展への意欲が不可欠の要件となっている。だが京都市では,生活のすべてをかけた企業家が比較的少いことをよく聞かされる。企業家であるよりも金持ち乃至物持ちたらんとする傾向が強いといわれている。この点において、京都は、先にかゝげた場合とは逆なかたちの経営と生活との未分化な意織が、濃い土地柄ともいえなくはないわけである。もしこれがほんとうだとすれば、企業体の健全な発展のだめにも、経営者としての生活の合理的なあり方について、一考の余地がないであろうか。
                                                  産業観光局商工課長 上 田 作 之 助

 

 

 

 マーケット・リサーチ(12)1953.1      

 

 マーケット・リサーチ

 

 アブノーマルな需要に日本経済の進路をあわせ、諸般の態勢をそのようにもってゆ こうとする傾向のさなかにあって、海外貿易と国内市場の自主的な改拓・再編への真摯な要望は、日本経済の実態に即したものの考え方として注目される。
 とりわけ、わが京都市の場合はそうである。
 ところで近頃、マーケット・リサーチという、中味は新しくないが名前のハイカラな題目が、経営診断のバック・グラウンドとして登場しかけている。
 「商品市場」は国の経済構造とむすびついた言葉であり、従つて国の政策内容と本質的な関係をもっている。しかし、経営者の主体的な活動の面から眺めると、市場の問題については、なおせまくない努力の分野が残されているようである。
 わたくしたぢの仕事のなかでの商品市場の開拓は、見本市等の慣例的な催し物の形をとったり、情報提供・取引斡旋など商工相談の窓ロの一つを形成してきたが、いづれも組織的な研究調査に充分な基礎をおいていないうらみがないではなく、成果の点に多少の問題があった。また、業界において、戦後日本経済の構造変動に伴う所得・消費・貯蓄の新しい構造や、それらの地域的・階層的分布について、何らかの組織的な検討の行われた例も余り聞かされない。 
 それぞれの業界が、それぞれの特定商品の市場について、また、所与の市場に適合するような商品の創造、販売・宣伝面の新しい工夫による潜在需要の覚醒喚起について、マーケット・リサーチの名称のもとに系統的な努力が累積され、まとまりのよいバック・グラウンドが堤供されるならば、これに越したことはない。短期的な変動に惑わされて長期的な見通しを失わないためにも必要であろう。
 尤も、それには、どこかの焼直しのような方法の機械的な適用では、良好な成果をあげ得る筈はなく、広い視野にたちながら具体的な知識とすぐれたテクニックの綜合されたリサーチでなければならないのは勿論である。
 わたくしたちは、本年は、その方向に一歩でも前進したいものである。
                                      産業観光局商工課長 上 田 作 之 助 
                                                 巻頭言 12 53.01.28

 

 

 

 組合組織の前進のために(15)1953.9

 

組合組織の前進のために

 昨年十一月末現在の京都府調によると、中小企業等協同組合法による組織の数は、協同組合の四〇二.企業組合の二八八、計六九〇となつている。うち、京都市は八八%を占めており、各業種を通じての組織率も市内では四三・五という可成の水準を示している。
 組合組織が急速にのびたのは何といっても昭和二十四年七月の組合法施行直後であり
,二十四、五の両年だけで前記の数の殆どが設立されている。尤も、統制時代の惰性的残存とみられる商工協同組合法による組織や任意図体が、新法によって改組されたものも相当数あり、この数字がそのまま組織化進捗状況の指標たり得ないのは勿論であり、その後も最近に至るまで設立数はある程度の手がたい噌加を示してはいる。がしかし、設立の数に比例して解散の数も増減している点を思いあわせてみて、戦後組織化の進展状況はひとまづ一段階を画したような印象を受ける。
 ところで
,数量的には不満をいだくわけにゆかぬこれらの組合も、それぞれの内容にたち至つて検討してみると、「一応の水準に達するもの」「ともかく経済事業を行っているもの」「親睦会程度のもの」「休眠状態のもの」の四つのグループに分けられ、各グループが大体においてその数を等しくしているのは、注目さるべきことがらである。
 世界各国の協同組合の歴史は、資本主義の歴史と共に、必ずしも新しいとはいえない。
また、協同組合のになってきた役割は、きわめて多様であった。
 協同組合か資本主義のメカニズムを前提とし、これに対抗しながら適応するために生れたものとすれば、協同組合そのものに中小企業救済のすべての期待をかけることは無理であろう。だがいまのところ、中小企業者の自主的な救済・発展の道は組合方式による団結以外にないことはハッキリした事実である。この団結方式が効果を発揮するか杏かは、業種業態によってその程度を異にしているし、また運営の巧拙が決定的な要素となる。運営の巧拙は、民主的な感覚をそなえられた組合員各位の熱意と努力にかゝっていることはいうまでもない。
 内外の情勢は、新しい意識のもとに中小企業者のもり上る結合を要求している。十九世紀的な組合理論から脱皮すると共に、目先の利害のみにとらわれることなく、大きな視野にたった組織活動こそが、京都業界の組織化に次の飛躍をもたらす所以ではなかろうか。
                                      産業観光局商工課長 上 田 作 之 助
                                                  巻頭言
15 53.09.17

 

目次へ