SAKURADISTURBANCE(2)


 

キバと赤丸の朝は、おそらくスリーマンセル8班の中で一番遅い。
時間には間に合っているので、文句は言われたことはないものの、彼が誰かを待ったという経験は今までない。
密やかに、シノ、ヒナタ、そして紅までもが制裁を企てているとかないとか。
しかし、7班の現況を見れば、彼らはいかに自分が望まれた環境にいるか分かるはず。
そんなことはさておき、キバと赤丸はいつも通り、集合場所へと足を進ませていた。
そこへ、前から走ってくる金髪。
「わんっ」
ハリのいい声で、一声鳴いて。
今まで大人しかった赤丸の尻尾は、急に激しい動きで存在をアピール。
「おっ、ナルトじゃん。(朝からラッキー)」
この犬にしてこの飼い主有り。
朝っぱらから元気な少年、ナルトに反応を示す2匹・・・もとい、1人と1匹。
 
ところで、キバ&赤丸の見つけたナルトというのは、もちろんサクラのことで。
されど、密かな想い人とあえた事に幸せをかみ締める1人と1匹がソレに気付くはずもなく。
変装でも幻覚でもなく、ナルトの身体にサクラが入り、サクラの身体にナルトが入っている状態、なのだから。
サクラは、目の前に突如として現れた“次の餌食”にガッツポーズ。
(カカシ先生が2番目の餌食かと思ってたけど・・・いいわっ。相手に不足なし!っしゃーんなろっ!)
内なるサクラの瞳が、このとき過去最大の輝きをたたえていたなどと、いったい誰が知ろうか?
「よっ、ナルトじゃねーか。朝から元気だねぇ、お子様は。そんなに走って、どこか行くんかよ?」
思惑通り話し掛けてきた餌食。
このときのサクラの心境、使い古した言葉で表すのなら、「しめしめ」。
しかし『アカデミーきっての秀才・サクラちゃん』、そんな感情、表に出さず。
目を細めて、にっこりと効果音の聞こえてきそうな表情で笑う。
(このまぶしい笑顔に、みんなヤられてるのよ)
くらり、とキテいるらしいキバを見つつ
「おはよってば、キバと赤丸」
と、演技派サクラちゃん。
そして、笑顔を保ちつつ、キバに痛恨の一撃。
「カカシセンセーんとこに、パジャマ取りに行くんだってばよ」
「・・・・・・は?」
聞き捨てならない言葉に、一瞬時が止まるキバ。
「昨日、先生のところお泊りしたんだけどさ、俺ってば先生ん家にパジャマ忘れてきちゃったから」
「っつーかお前、あのへ・・・、いや、カカシ上忍の家に泊まったのかっ!!?
キバは、思わず『変態上忍』と言いかけたのを、抑えた。
慌てるのも無理はない。
まさかあの上忍の家に泊まれば・・・かなり曲がった思考回路だが、ナルトの貞操が無事で済むはずがない。
しかし、キバのそんな自分勝手な心配をよそに、ナルト、更に爆弾発言。
「何いってるんだってば、キバ。俺、先生と付き合ってんだからお泊りするの当たり前だろ?」
さわやかに笑顔でそう返すサクラ。
もちろん事実無根。
ソレが本当であるならば。
カカシ上忍がその日のうちに、(狂喜乱舞しつつ)里中にお知らせ&釘さししているはずです。
が、パニック状態のキバにそんなことが想像できようか?
答えは―――否。
見事に崩れ落ちた砦・キバの横を、サクラはご機嫌で通り過ぎた。
日本語の分からない赤丸は、突然倒れたまま動かないご主人様の周りを、ただただうろうろ。
幸せ者・・・といえば幸せ者だ。
「くぅ〜ん・・・?」
 
第二の敵をものの見事に倒したサクラ、ご機嫌にスキップ。
向かうはおそらく最強の敵、上忍はたけカカシの根城・・・改め家。
普段自分達を待たせてばかりの、あのだらしのない上忍には、他よりも大きなダメージを与えておかなくてはいけない。
そうは思うも、あのカカシを、どうやったら没せるだろうか?
考えに考えをめぐらせながら、サクラは敵の元へと向かった。
そのときの彼女の頭脳は、例の第一次試験のときよりも回転数を極めたとか。
 
ところ変わってはたけカカシ宅。
もちろん断っておくが、ナルトのパジャマが忘れられている、などということはない。
こざっぱりとした部屋のベッドの上で、上忍はたけカカシは未だ夢の中である。
しかし、さすがに上忍、近づいてくる気配を無視して眠り・・・ということはなかった。
うっすらと目をあけて、気配を窺う・・・。
と、聞こえてきたのは愛しい我が生徒の大声であった。
 
「カカシセンセー―っ!!!!
半径10kmには聞こえそうな元気な声。
もちろん普段のサクラが出すはずがないが、ナルトの行動を考えての演技。
芸が細かいサクラさん。
まもなくカカシが顔を出した。
「あのね、朝からそんな大声出して迷惑でしょ」
というが、カカシの家の周りには、見渡す限りは家が立っていない。
なかなか孤立無援な家で暮らしているようだ。
もっとも、この男に近所づきあいなどという、高等テクニックがあるとも思えないので、このほうが何かと都合がよかろう。
「で、何しに来たの?もしかして俺に会いに来てくれたのかなー?」
自分を抱き上げようとする腕を、パシッと振り払って、
「違うってばっ」
と、冷たく一言。
「な、ナルト・・・?」
今までうっとおしがられてはいても、このように邪険に扱われたことはなかったカカシは、突然のナルトの変貌にうろたえる。
サクラはというと、カカシの反応を見て上機嫌。
惜しむらくはここで腹を抱えて笑うことができないことか。
今すぐにでも、涙流して笑い出しそうな自分をこらえて、更に追い討ちをかける。
「イルカ先生が言ってたってば、時間を守れない人間は“最低”だって。
俺達“最低”な人間なんかに教わることなんか、何もないってば。
サクラちゃんと俺とサスケと、全員の意見一致で、カカシ先生に教わるのはもうよすってことになったから!」
あまりのことに、目を丸くして言葉を返せない上忍に、更にもう一言。
「今度からハヤテ先生が俺達のことを見てくれるんだってば。
 ハヤテ先生は優しいし、カカシ先生みたいに遅刻しないし、俺ハヤテセンセー大好きだから嬉しいなーっ」
笑顔を振り撒いて、駈けて行くナルト。
はたけカカシ、ここに沈む―――。
 
 
丁度その頃、ナルト宅では鏡の前に座り込み、ぶつぶつと何か言っている少女の姿があった。
その少女、サクラの正体はもちろんナルト。
「うぅ〜、・・・お、俺が服を脱いだら、さっサクラちゃんの・・・」
何百回も繰り返される、自問自答。
ナルトだって、健康な男の子。
服を脱げば、“ちょっと気になる女の子”の裸がある、などと思えば、落ち着きだってなくなるだろう。
しかし。
「で、でも、そんなことするのは男らしくないってばよ。男はやっぱ正々堂々と・・・っ」
正々堂々となんだ。
『裸見せてください』と言う、とでもいうのか。
「それに、そんなことするのは失礼だってば。サクラちゃんは女の子なんだから、傷つくってば・・・」
意外なところで紳士なナルト。
ナルトも、サクラには結構傷つけられた歴史がある気もするが。
とりあえずこの場では、そんなことは別問題だという、ナルトの考えは正しい。
しかしながら心配することはない、ナルト。
それぐらいの事をしても、失礼には値しないかもしれない。
サクラだって十分すぎるほど楽しんでいるのだから。
そうは言っても、きっとこのナルトにサクラの裸を拝むほどの勇気があるとも思えないが。
どうせ、後にばれて、サクラの鉄建でボコボコにやられるのが、目に見えている。
青い春を行く、このうら若き少年の不毛な自問自答は、この後しばらく続いたとか。
里で起きつつある、ちょっとした騒動を尻目に。
 
とりあえず今回の被害者。
犬塚キバ、ついでに赤丸、そしてはたけカカシ。
最後に。
引き続き被害者であろうと思われる、うずまきナルト。
 
 

続く→