SAKURA・DISTURBANCE(3)
「あーもうっ、キバの奴、今日という今日こそは思い知らせてやる・・・っ」
早朝の寒々とした気温が少しずつ高くなり始めた頃、紅上忍の怒号が空に鳴り響いた。
「・・・・・・・・・遅いな」
シノも呟く。
今まで、確かに1番集合の遅い人物だったとはいえ、本当に遅刻してくることなどなかったのに。
犬塚キバ。
彼とその相棒赤丸が、今どんな状況下にいるかなど、彼らには知る由もない。
「で、でも今までキバ君が遅刻したことなんかなかったし・・・、もしかしたら動けない状況にあるとか・・・」
そう言ったヒナタの言葉は、半分あたりと言うところだ。
そこで怒りに震えていた紅も、はた、と気付く。
「ん・・・?そうね・・・、でもキバだって下忍の端くれ・・・そんなにヤワでは・・・」
「それに、誰が何のためにキバを狙うと?」
う〜ん・・・、と考え込む8班3人。
そこで考え込むくらいなら動けばいいのに、と思うが、それではこの話が都合よく進んでくれないので。
さておき、ここにも悩める1人の下忍がいた。
「どうようかしら、これから・・・?」
春野サクラである。
もっとも今の外見は、360°どこから見ても、うずまきナルト。
外見と合わせて聞けば先ほどの言葉は、少々受け入れがたい響きを持つかもしれない。
それはともかく、彼女がいったい何を悩んでいるというのか。
「次は誰をイビろうかしら・・・?」
そうなのだ。
このあたりでイビリ甲斐のある奴、といえばもうイビリ尽くしてしまったのである。
「イルカ先生は・・・あの温厚な先生いといじめたって、しょうがないわね。それになんかあの人いじめるのはしのびないし・・・。
油女シノ・・・は、なんかあの人ってよくわかんないのよねぇー。無口でちょっと怖いし。
日向ネジ・・・は、だめだわ。見透かされそう・・・バレたらどうなることか」
などと、およそばかばかしいことを真剣に考えながら前に進んでいくサクラ。
その足は意図無くも、8班集合場所へと向かっていた。
あれから3分、未だ考え張り巡らし中の8班。
そろそろ行動を起こせばいいものだが、全員そろって
『まぁ、万が一にもそんな大したことは起こっていないだろう』
と言うのが、とりあえず根底にある思いなわけで。
確かに大したことは起こっていないが、朝っぱらから道端で倒れている下忍、というのもなかなか危険なものである。
そんなところ、ふと顔を上げたヒナタが、向こうからやってくる黄色い頭に目をつけた。
「あ・・・ナ、ナルト君・・・」
反射反応のように顔を上げる、残りの2人。
キバについての思考回路は、完全に切断された。
3人の頭の中を占めることは、現在ただ1つ。
『朝からナルト(君)に会えてラッキー!』
ソレが表情に出るのかどうかは、個人差の出るところであるが。
「ナルトく〜〜ん、おはよう」
一番表情に出る(否、ある意味一番はヒナタだが)紅上忍が、満面笑顔でナルトを呼び止めた。
もちろん、ナルトの姿をしたサクラを。
呼ばれてサクラは、はっと立ちどまった。
手招きをしているのは、8班の担当上忍、紅先生。
「あっ、おはようございますー」
ぺこり、と頭を下げて、いつも通りのサクラで挨拶をして、はっと気付く。
(しまった!あたしは今“ナルト”だったんだわ・・・)
「・・・?ナルト君?なんだかいつもと違うわね・・・?」
「えっ、あ、いやその・・・」
サクラが答えられないでいると、
「ま、いいわ。ねぇナルト君、うちの班のキバ知らない?集合時間になってるのに、来ないのよ。
いつもは遅れない子なのに・・・」
と、紅が話をすすめた。
(この人たちを騙してたって、つまらないだけだわ・・・)
サクラ、そう、判断。
あなたの判断基準は、そんなものなのか。
「あの、私サクラです・・・春野サクラ」
「・・・・・・え?」
目の前の3人の表情が、固まる。
「え・・・ソレは・・・変化の術なの?」
だとしたら大した腕前だ、と3人は思った。
今のサクラは外見はもちろん、チャクラや気配の雰囲気までナルトそっくりである。
しかし、先ほどの行動を見ていると、嘘をついているような気もしない。
「違うんです、あの・・・入れ替わっちゃったってやつですか?実はかくかくしかじかで・・・」
“かくかくしかじか”、便利な言葉。
「ふう〜ん・・・そんな漫画みたいなことってあるのねぇ・・・」
場に似合わず、感心したような口ぶりで紅上忍。
漫画みたいも何もない話だが、知らぬは本人達ばかり。
「で、でも・・・それはどうやったら治るのかしら・・・?」
「分からないわ、だから今から直す方法を火影様に聞きに行こうと思ってるんです」
今の今まで遊んでいたが。
そろそろ聞きにいってもいい頃かな、とも思う。
「そうね、そのほうがいいわ。さて、と、私達はキバでも探しに行きましょうか」
紅上忍、すくっ、と立ち上がってそう言った。
そこでサクラが、はた、と思い出す。
「あ・・・・・・(汗)」
「?どうしたの、サクラちゃん・・・?」
急に青くなったサクラをに、ヒナタが心配そうに声をかけた。
「あ・・・いえね、その・・・」
犬塚キバ・・・。
さっき自分が遊びで与えたダメージがよほど大きかったとすれば、彼は今ごろまだあの場所で倒れているだろう。
「サクラさん、キバの居場所知ってるの?」
何やら様子がおかしい、と思いながらも問う紅。
「・・・・・じ、実は・・・」
これ以上隠しても仕方が無い、寧ろこのまま放っておくのはあんまりというものだろう。
サクラ、正直に告白、いや自白。
「・・・・・・と、いう訳なんですけど・・・どうしましょう?」
さすがにやばかったか・・・?などと、今さら思っても後の祭りだが。
「「「・・・・・・・・・・・」」」
黙りこくる3人。
(やっばーい、どうしよう・・・怒られるかしら・・・?)
「でかしたわっ、サクラさん!」
次の瞬間、狂喜に満ち溢れた紅の顔があった。
「は・・・?」
「ということはカカシの奴今ごろ、家で沈没しているのね?ザマーミロだわね!」
そう言った紅上忍の表情は、今までで一番嬉しそうな気がする・・・。
他も黙っている2人も、
(キバとうちはサスケと・・・上忍はたけカカシ、か)
と、シノは内心ほくそえみ、一方ヒナタは
(そうね・・・あの人たちはナルト君にちょっと馴れ馴れしかったし・・・いい気味だわ)
と、内なる“ブラックヒナタ”を発動させていた。
女はタフじゃないと生き残れない・・・(byサクラ)。
(何がなんだか・・・とりあえず危機は免れたらしいわ・・・)
サクラはほっと一息ついた。
さて、そろそろ火影のところへ向かわなくてはならない。
声高らかに笑う紅上忍と、色々と考えるところのあるらしいヒナタ・シノを残して、サクラは火影邸に向かった。
「・・・・・・という訳なんですけど、火影様。どうすればよいでしょう?」
ところかわって火影邸。
普段なら見られるはずの無い、礼儀正しいナルトの姿を見て、中身はサクラだと分かっていても違和感を感じてしまう。
『理想といえば理想だが、鳥肌が立つほど怖かった』
とは後に、ちょうどそこに居合わせたイルカ先生の言葉。
「なるほどな・・・、そんなことがあったとはのぅ・・・」
顎を掻きながら、しげしげとサクラを見目る火影。
30秒以上じっとしているナルトを見るのは初めてだ(笑)。
「確か数年前に、同じような前例があったはずじゃ。書庫から文献を探してこよう・・・」
なんとも都合のいい話だが、この話の本編と関係ない(!?)ので、よしとする。
火影はやれやれ、と腰をあげ
「イルカよ、それにナル・・・じゃなくて今はサクラか、もちょいと手伝ってくれ」
と、2人に手伝いを促した。
里の数百年の歴史の詰まった、火影邸の書庫の内容量は膨大なもので。
そこからたった1つの文献を探し当てるのには、実に3時間以上かかった。
数十冊の重そうな本を両腕に抱えて、イルカが発した言葉は
「ところでサクラ、カカシ先生とサスケはどうしたんだ?」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「うー・・・暇だってばよ。サクラちゃん遅いなぁ・・・もしかして俺のことなんてほっといて、任務しちゃってんのかな?」
時計が指す時間は、午後5時を過ぎていて。
サクラと分かれてから、かれこれ7時間。
そろそろ不安にもなってくる。
そのうえ、普段から任務だの修行だのと、毎日動いているナルトにとって、このように無駄な時間があるのは耐えがたい苦痛。
「もう夕方だし・・・そろそろ外に出ても大丈夫かなぁ・・・?」
でもサクラちゃんがいつ帰ってくるしかわかんねーし・・・、と、延々一人自問自答(?)。
そろそろ我慢の限界だ、というときに、玄関から人の声が聞こえた。
「ナルトぉーー?居るー?」
と、待ちわびたサクラちゃんの声。
というか、自分の声。
玄関から自分の声が聞こえてくることに、不可解さを感じながら
「はいはーい、今開けるってばよ」
と、玄関のドアを開けに行く。
サクラは、入れ替わりをとくために色々と必要らしい道具やら何やらを持った火影と一緒に、玄関前に立っていた。
「はぁ〜、疲れた。任務の方がよっぽど楽だわ・・・。
私と火影様とイルカ先生で3時間もかけて見つけたのよ、この文献!」
サクラはナルトの目の前に、厚さ8cmはあろうかと思われる分厚い本をずずいと出した。
「あ、ありがとう・・・ゴザイマス・・・(汗)」
本当に疲れたのだろう。
心底機嫌の悪い様子のサクラに恨むようににらまれて、思わず敬語でお礼するナルト。
「っていうか、イルカ先生もいるんだってば?」
ちょっと期待した目で、きょろきょろと2人の周りを探すナルト。
「あ、いや、そのね・・・ナルト。イルカ先生は今・・・・・・」
少々慌てたように、サクラが口ごもった。
「いま?」
「倒れた人間の救出へ向かっておる」
火影が代わりに答えた。
呆れ交じりの溜息をつきながら。
「誰か倒れたんだ・・・?」
「・・・・・・まぁな」
「へ〜え、きっと大変な任務だったんだってばよ〜」
むぅ、と神妙な顔をして、感心とも労りともつかないような言葉を発する。
俺も早く、そんな任務を任されるようになりたい、とは心の雄志。
ナルトとサクラは、難しい解呪術(?)により数十分後、無事もとの姿に戻った。
「やっぱり自分の身体の方が落ち着くってばよ〜」
「はぁ、良かったわ。やっぱこっちが1番ね」
2人は、こんな体験でもない限りは2度と体験しないだろう、不思議な感覚を味わっていた。
入れ替わりも解けて、ほっと一息ついた頃。
「あ、ところでナルト、明日から私達はしばらく任務休みよ」
とサクラが言った。
「ほえ?何で?」
「お前には関係のないことじゃ」
「む〜」
関係ないこと、と言われてちょっとむくれるナルト。
関係ないと言えばないが、あるといえば大いにある。
「しばらくっていつまでだってばよ?」
(・・・・・・サスケ(君)とカカシ(先生)が立ち直るまで・・・・・・)
火影とサクラは、心の中でひっそりと同じ言葉で答えたのだった。
その後7班(&8班)が無事任務を再開できたのは、5日後だったとか。
〜END〜