SAKURA・DISTURBANCE(1)
Disturbance=騒動、不安を起こすもの。
7班の朝、いつも通り・・・。
某上忍は遅れる、と分かっていても、生徒達は早くから集合場所へ集まる。
「サクラちゃーん、おはよーってば!」
と、元気な声を出して、ナルトが走ってくる。
今日は珍しく、サスケよりもナルトの方が早かったらしい。
『ちょっぴり気になる女の子』、サクラと2人きり。
ナルトとしては嬉しいことで。
「あら、おはよう。珍しいわね、早いじゃない」
と、そっけない挨拶でも気にしない。
一方サクラの心情。
(内なるサクラ:ちっ、サスケ君との2人きりの時間が・・・。っしゃーんなろっっ)
・・・2人きりっつったって、実際は相手にされないのが現状ではあるが。
「へへ〜っvv」
サスケより早かったことが嬉しいのか、サクラと2人なのが嬉しいのか、はたまた両方か、目を細めて嬉しそうに笑うナルト。
その屈託の無い笑顔を見て、
(内なるサクラ:〜〜〜っ。可愛いじゃないっ、ナルト。あの上忍やサスケ君が熱くなるのも、悔しいけど分かるわ・・・)
と、思わず手を握り締めるサクラ。
そして、そんなことには気付かない、鈍感少年ナルトだった。
「・・・・・・・・・・・・」
普段めったに2人きりになることの無い2人は、話題がなくて静まっていた。
(なんか・・・話すことがないってばよ。サクラちゃん、何かしゃべってくんないかな〜っ)
(・・・何話せばいいのかわかんないわ・・・なんか話題なかったかしら。っしゃーんなろー!)
((・・・・・・あっ))
ぱっ、と話題を見つけたらしい2人。
「「そういえばさぁーっ」」
ごっ・・・
「@+☆〜?$Δ×〜〜っ!」
勢いよく同時に振り向いた2人は、お互いの頭を、すさまじい音を立ててぶつけた。
一瞬眩暈をおこさんばかりの痛みに、しばし額を抑えて無言で屈み込む。
「〜〜っ痛いじゃないっ、ナルトぉ!」
「わぁっ、ごめんサクラちゃ・・・」←弱いな、お前・・・(涙)。
「「・・・・・・あれ?」」
2人の表情が、凍った。
サクラの目の前には、いつも鏡で見ている自分の顔。
ナルトの目の前にも、やはり鏡でいつも見ている自分の顔。
「ナルト・・・あんた、ナルトよね・・・?」
「サクラちゃん・・・?何でサクラちゃんが、俺なんだってば・・・?」
2人はお互いを指差しながら、わけのわからないことを呟いた後、絶句。
それもそのはず。
『サクラ』であるはずの、ナルトの正面にいる人物は、何故か『ナルト』。
『ナルト』であるはずの、サクラの正面にいつ人物は、何故か『サクラ』。
「これってばもしかして・・・、『入れ替わっちゃった』ってやつ・・・?」
震える声で、とうとう恐ろしい事実を、ナルトは口にした。
「・・・ソレしかないわよね・・・これが夢じゃないなら・・・痛っ」
自分の頬をつねりながら、サクラが答える。
「「・・・・・・マジで?(驚愕)」」
しばらく我を失って無言の2人だったが、
「ど、どうしよってば・・・サクラちゃん〜っ(汗)」
と、ナルトの情けない声(笑)で、頭脳明晰のサクラも我に返った。
「あ・・・、慌ててもしょうがないわ・・・。とりあえず火影様にでも連絡して・・・元に戻る方法を教えてもらえば・・・」
「あ、あぁ・・・、そっか」
冷静なサクラの返答に少し落ち着いて、ナルトも腰をおろして、あぐらをかいた。
サクラがその格好を見て
「ちょっとナルト、今はあんた、私の体なんだから。みっともない格好しないでよ!」
と、注意を飛ばす。
「あっ、そ、そうか・・・。って、サクラちゃんも俺の身体で内股座りなんかやめてほしいってばよ・・・」
ナルトは慌てて足を閉じながらも、内股座りのサクラをじとっ、と睨む。
サクラも、あ、そうか、と足を楽に(?)開いた。
((なんか・・・不自然な感じ・・・))
馴れない格好に、2人の感想。
そう思いながら、はた、とサクラは思いついた。
(そっか、私は今“ナルト”なのよね・・・。って事は・・・)
その、新人下忍の中でもピカ一の頭脳と言われている頭脳を、すばやく回転させる。
(遊べるじゃない!!)
サクラはニヤリと笑った。
サクラの描いたシナリオはこう。
ナルトをなんだかんだと理由をつけて、とっとと家へ帰し、“ナルト”である自分は、外を歩き回り、やってきた男共をからかう。
そんなわけの分からない作戦を練ったのは、サクラが日ごろ
(サスケ君もカカシ先生もシノ、ネジ、キバ、砂の里の奴・・・(以下エンドレス)も、女の私を放ってナルトにおちやがって・・・)
という、不満を抱いているから。
つまるところ、ナルトと、そして男連中への『復讐』である。
はっきり言って、少なくともナルトに罪はない。
まぁ、そんなことはともかくとして、サクラはただいま思いついた『楽しい計画』を、実行することに決めた。
「ナルト、あんた家に帰んなさい」
びしっ、とナルト・・・サクラ?を、指差して言う。
見かけは、ナルトがサクラを指差してえらそうに何か指示している・・・、普段なら見られない光景。
「へ・・・なんで?」
「だって、あんた、私の格好で何かヘマやらかしそうだもの」
それでサスケ君にドジだと思われたらどーしてくれんのよ、と。
「う・・・」
否定できないところが、辛い。
普段、ナルトは失敗をやらかしてはサスケに馬鹿にされている毎日なのだから。
もっとも、それが愛情の裏返しにしか見えない、というのは第三者の話。
「で、でもさでもさ、任務はどうすんの・・・?」
否定できないながらも、任務をサボるのはまずい・・・、との、火影を目指す少年の意見。
しかし、サクラはあっさりと受け流した。
「それなら私がちゃんと言っとくわよ。いい?絶対に家から出るんじゃないわよ」
そこまで『サクラちゃん』にいわれて、太刀打ちはできないナルトだった。
怒らせると怖いのは、充分承知。
なにより、確かにこのサクラの身体で、いつものサクラのような『しっかり者』として振舞える自信はない。
火影に元に戻る方法を教えてもらう・・・という点は・・・。
きっとサクラが、ぬかりなくやってくれることだろう。
『しっかり者のサクラ』なのだから。
そう思って、ナルトはとりあえず家に帰ることにした。
帰りの家路を急ぎながら
(やっぱり他人の身体って、走りにくいんだなぁ・・・)
と、ナルトは思った。
妙に、落ち着いた思考が回る。
あまりに現実世界から逃避したような状況になると、頭も逆にさえてくるものなのだろうか。
だが、こんな非常時にそんなことを考えてる時点で、すでに思考回路は低下しているものと思われる。
と、ふと顔を上げるとそこには・・・サスケ。
「ああぁぁぁっ!」
できれば会いたくなかったのに!と、思わず悲鳴を上げてしまった、お馬鹿なナルト。
サスケも驚いた様子で、
「な、なんだよ・・・」
と、サクラの外見をしたナルトを凝視する。
「集合場所、向こうじゃねぇのか、サクラ?」
そう言って、サスケはナルトの走ってきた方を指差した。
(あぁっ、そうだ・・・俺は今サクラちゃん・・・)
「う、うん、そうなんだけど・・・あの、えーと、オ・・・レじゃなかった、私っ、ちょっと・・・あっ、そう、忘れ物してっ」
取りに帰るところなの、と、あたふたと説明するサクラ、もといナルト。
馴れない女言葉を使いながら、ナルトは
(げぇ〜っ、こんなのオレじゃねぇっ)(←当たり前だ)
と、自分に嫌悪を感じた。
「ふぅん・・・。じゃ」
ありがたいことに、サスケは興味なし、というふうに目的地・集合場所へ向かっていった。
なにやら言動のおかしかったサクラに対して、
(ヘンな奴・・・)
と思いながら。
(ふぅ〜。何とか怪しまれなかったってばよ)
と、冷や汗を手の甲でぬぐうナルト。
残念だが、ナルト、すでに『ヘンな奴』だとは思われてしまったらしい。
ともあれ、ナルトはさっさとそこを離れ、自宅へと向かった。
一方サスケ。
(サクラがいない・・・ということは!もっ、もしかしてナルトと2人きり・・・!?)
予測される未来に、期待ととまどいを覚える、うら若き少年の姿があった・・・。
いつもの集合場所。
期待・・・というか予測通り、担当の上忍の姿はなく、ナルトだけが座って待っていた。
実際はナルトの姿をしたサクラが。
(やったぜ、神様!礼を言おう・・・)
ぐっ、とこぶしを握り閉めるサスケ。
しかしそんな心情には気付かれないように、冷静を装いながら。
「よぉ、ドベ・・・」
と、何気なく声をかける。
このような憎まれ口を叩くだけで、彼がどれだけ心身に疲労を費やしていることか。
未だ心未発達のうちは一族の少年、某上忍のように(軽く)は振舞えない。
それでも、ナルトはそれに反応してくれるから。
それだけで嬉しいのである。
後はあの上忍が邪魔してきさえしなければ・・・、と、恋する少年最近の悩み、もとい愚痴。
しかし今日は・・・。
「・・・・・・・・・・」
反応は返ってこない。
「?」
ちょっとした不満と同時に、不安になるサスケ。
もしかして、今日こそ本気で怒らせたとか・・・?
などという心配が、経過する時間とともに心に押し寄せてくる。
「・・・何黙りこくってんだよ、ウスラトンカチが」
口を突いて出てきたのは、やはり憎まれ口で。
(あぁっ、そうじゃないっ。もっと他に言い方が・・・)
心の中で、“内なるサスケ”が暴れ出すが、時すでに遅し。
いまさら「うそだ」などと、馬鹿らしいことを言う精神力は、残念ながらこのサスケ、備えていない。
なんか言え、なんか言え・・・あっ、でも言うな・・・。
サスケの心の葛藤が続く中、とうとうナルトが口を開いた。
「いっつもいっつも五月蝿ぇんだってばよ!口開く度に“ウスラトンカチ”って呼びやがって!
俺にはちゃんとナルトと言う名前があんだってばよ!大体なんで朝っぱらからテメーと2人なんだってば、気分悪い!」
「・・・っ!?」
いつも通り・・・といえばいつも通りの反応だが、なんだか今日は違う。
「あーウザイ!カカシセンセーんとこ、行こーっと」
「なっ・・・」
ふいっ、と立ち上がって、その上忍の家の方向目指して、駆けて行くナルト。
ナルトのあまりの剣幕と、『ウザイ』と言われたこと、そしてカカシ先生の所へ行く、との問題発言。
さまざまなショックで、サスケはナルトを追うどころではなかった。
・・・・・・頑張れ、サスケ少年。
さて、腹の底から込み上がってくる笑いを殺しながら、走るサクラ。
不自然ではない程度のナルトの口癖のマネにも、我ながら満足。
(ごめんね、サスケ君・・・)
大好きな男の子の恋路を、思いっきり邪魔したことにちょっとした罪悪感がなくもない。
(でも・・・・・・)
くくっ・・・、と喉を鳴らして、笑って。
(ものすっごく楽しかったわ・・・!!)
ナルト狙いの男を苛めることに、味を占めてしまった頭のよいサクラ。
お次の被害者は、さて誰なのか。
とりあえず、『第一回被害者・うちはサスケ』。
そして・・・もちろんナルト自身も、被害者なのに違いない・・・・・・・・・。