アマ小説家の作品

◆パペット◆第2回 by日向 霄 page 3/3
「そうなの、部屋をね、消毒したのよ。夕べネズミが出たものだから、それで、気持ち悪くて」
「ほう、ネズミ………。あやつらはたくましいからの。レベルの境界などあっさり突き破ってどこにでも出没する。消毒なんぞしたところで無駄じゃよ。ところでネズミと言えば見たかい、今度の賞金首。えらく可愛らしい顔の。10万リールなんて大口は久しぶりだよ。わしも一つ狙ってみようかね」
 気づかれるのではないかとひやひやしながら、マリエラはどうしたらこのおしゃべりな婆さんをうまく追い払えるかと忙しく頭を働かせた。
「そんな大金がかかってるんじゃ、みんな目の色を変えてるわね。物騒だわ。巻き込まれないように気をつけなくちゃ。お砂糖、明日にでも買いに行きますから」
 扉を閉めてしまってから、頭がガンガンしてきた。
 変に思われなかったかしら? あんなドアの閉め方をして、追い出したと思われたんじゃ? 買いに行くなんて言って、また明日も来てしまうじゃない―――。
「レベル6に近所付き合いがあるとは知らなかった」
 殺気を解いて平然としているジュリアンの顔を見ると、マリエラは急にむらむらと腹が立ってきた。
 どうしてこんなテロリストのためにあたしがひやひやしなきゃならないんだろう? あたしの部屋で倒れたからって、どうしてあたしに面倒を見る責任があるの? あたしが怪我をさせたわけでもないのに。
「どうして言わなかったんだ? 賞金を婆さんに横取りされると思ったのか?」
「馬鹿言わないで。あたしはお金なんか、そりゃ、欲しくないことはないけど、人を売ってまでそんな」
「どうして? 俺は善人じゃない。歴とした犯罪者だ。俺のこの手は大勢の人間の血で真っ赤に染まってる。俺を売ったからってあんたが気に病むことは一つもない」
「あたしもそう思うわ。でもなぜだか気に病んでしまうの」
「変な女だ」
「運が良かったのよ、あなたは。もしお隣に逃げ込んでたら今頃」
「今頃あの婆さんは生きちゃいまい」
「エネルギー切れの銃しか持ってないくせに」
「人を殺す方法なんか、いくらもあるさ」
 笑ってジュリアンは肩をすくめた。少し哀しげに。
「殺し屋とは思えないわ、あなた」
「あんたも、レベル6の人間とは思えないね」
「レベル6は、上が思ってるほどひどい所じゃないわ」
 マリエラはジュリアンの隣に腰を下ろした。
「ここは不思議な所よ。何しろ御近所付き合いがあるくらいだもの。今どき地上でも隣のことなんか気にしないのに。確かにごろつきや賞金稼ぎはいるけど、でも少なくともあたしは強盗に入られたこともないし、市場で財布をすられたこともないわ。あたしがどうやって生計を立ててると思う?」
「売春だろ」
 ジュリアンの頬にマリエラの平手打ちが飛んだ。
「ホントに密告するわよ!」
 マリエラは立ち上がって出て行こうとした。
 だがジュリアンは謝りもしなければ引き止めもしない。
 振り返ると、ジュリアンはマリエラにぶたれてベッドに倒れ込んだまま、起き上がってもいなかった。
「いいかげんにしてよ、ちょっとぶったぐらいで死んだふりなんか―――。ジュリアン?」


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