本の虫

◆第57回『マルタの鷹』/ダシール・ハメット◆

 これまたハードボイルドの金字塔。チャンドラーよりいくぶん時代が古く、ハードボイルドの先駆者、古典中の古典、といったところなのだけど。

 なぜか今まで読んだことがなかった。小学校の図書室のミステリーの棚にもちゃんと並んでいたのに。タイトルも、ハメットの名もちゃんと知っていたのに。でも小学校の時に読まなくてよかったのかもしれない。たぶん、小学生にはスペードの魅力はわからなかったろう。わかったらちょっとやばい(笑)。

 主人公である私立探偵のサム・スペードは、本当にタフで非情で、彼に比べればマーロウなんておセンチすぎて、とてもハードボイルドとは言えないぐらいだ。特に美男子という書かれ方もしてないし(っていうか、顔中Vの字であふれている、鼻もとがって眉もとがって、かなり怖そうな顔みたい)、女に優しいわけでもないし、「正義なんてくそくらえだ!」みたいなとこがあって、そこがかっこいいんだけど、実際に周りにいたら鼻つまみ者というか、あまり関わり合いにならない方がいいかも、ってタイプだ。

 実際、物語の最後で、スペードはその非情なやり口ゆえに事務所の女の子から非難される。「あなたのやったことは正しい、でも今はあたしに触らないで」と。気の毒なスペード。せっかく事件解決したのにね。私生活の愛人問題は全然解決してないとこで終わるし(笑)。

 面白くて一気に読んでしまった。謎解きが面白いというよりは、やっぱりスペードの魅力。その行動を追っかけるのが面白い。一癖も二癖もある敵方のおじさんとの丁々発止なやり取りも面白いし。あまり面白かったので、ハメットの他の作品も買ってしまったんだけど。

 入手可能なものが少ない! この『マルタの鷹』は梅田の紀伊国屋で平積みになってたけど、当然近所の本屋にあるわけないし、ネットで調べてみても今在庫があるのは『血の収穫』と『コンチネンタル・オプの事件簿』ぐらい。(両方買ったけどまだ読めずにいる) 他のいくつかの作品を読もうと思えば、図書館で探すか中古で探すしかないようだ。マーロウ物はけっこう色々積んであるのになぁ。非情すぎてウケが悪いのかな。『ガラスの鍵』という作品は「二十世紀の犯罪小説が達し得る頂点」と評されたこともあるらしいのに。うーむ、読んでみたいぞ。

『マルタの鷹』

以上 ハヤカワ・ミステリ文庫 ダシール・ハメット作 小鷹信光訳


『本の虫』インデックスに戻る