63.期中の経費削減要求は社員の思考停止を招く?

決算対策としての期中の経費削減
決算に向け業績達成が厳しくなると、期の途中で経費削減が実施されることがよくある。家計でも同じだから、収入が予定通りでなければ支出を抑えることはある程度当然であり、これを否定するつもりはない。しかしその考え方や実施方法には問題が多い。
  • 全社にその指示を出す部署は、経費削減の見通しを早く立てたいものだから、能のないことだが経費の「一律○○%削減」などと要求したりする。
  • そのため、「○月○日までに経費削減策を提出しろ」といったような指示を出し、それを受けた部署は仕方なしに無理やりその実施策を作成提出する。
  • 指示を出す側の部署は、ともかくトップに報告できる数字を早くまとめることに専心しがち。
  • 指示を受ける部署もいやおうなく言われるものだから、多少の抵抗はしても、ゼロ回答はできないと思いがちで、何らかの回答を迫られる。
そもそも年間の収入予算達成に黄信号が灯ったため経費削減を行うということは一種の緊急避難的措置である。それが上記のようなことがたびたび重なるとどういうことが起きるか?

弊害の数々
1.顧客サービスや現場作業環境などのサービス経費削減。
  • たとえば店人件費や清掃費といった費用が削減対象になることもしばしばだ。これは費用削減が現場にどのような影響があるかをろくに検討する暇もないまま結論を急がされるため、こういうことがおきがちである。
2.取引先泣かせ
  • 経費削減目標達成のために、もうひとつの手段として取引先に急激なコストダウンを迫る。取引先は渋々受け入れるが、余波はある?
3.経理の不正手続き
  • 当然発生月に支払わなければならない経費を請求を遅らせてもらったり、逆に一方的に支払いを遅らせたりなどの操作が行われるようになる。これが巨額になると大きな問題が発生する。
4.つまるところ、予算への不信、思考停止
  • 期中の経費削減要求が年々度重なると、「いったい元の予算は真剣に検討されたのか?」といった会社全体のマネジメントへの不信につながるとともに、「とりあえず言われたままにやるしかない」といった思考停止に近い社員が増え、活力低下につながっていく。
私はかって一時的経費削減を求められたとき、自分の担当している事業の特性と今後の見通しを説明し、部分的経費削減案とともに、調子のよい事業のために経費削減ではなく、半期で収入予算5000万円アップの約束と経費予算1000万円アップを要求し認めてもらったことがある。もちろん収入予算は達成できた。私が強気でいられた背景事情も幸いしたが、こんなことはいつもできることではない。

3つの提言
1.年間予算策定の厳密化と収益未達成リスク対策の事前検討。
2.最悪実施する場合でも、一律経費削減などの措置は行わない。
3.経費削減は他方で抜本対策プロジェクトなどで実現を図る。


1.予算策定手順に問題はないか? また思わぬ事態で予算達成が困難になったときどういう対策を講じるかの事前検討を行うべき。

2.最悪経費削減を行う場合でも、原則や考え方を明示すること。間違っても顧客に大きく影響の及ぼしそうなことや、伸びている事業、商品の経費まで縮小しかねないことのないようにすること。

3.もともと経費削減すべき“大物”は別のところにあり、時間及び多少のコストと引き換えに行うものが多い。これは別の取り組みとして平行して行うべきものである。これを手付かずにして既存科目経費削減だけを言うのは不信感を増長させかねない。


ポイント: 収益目標達成が困難になったときに力量が問われるのは、経営企画部門のような部署である。この部署に本当の力がないと、一時的経費削減の“成果”と引き換えに、他方で会社の荒廃が徐々に進んでいく。