く方式 その91〜その100

その91
 

(140)「〜はいますか?」「はい、います」(「〜はいますか?」「いいえ、いません」)に進もう

 絵カード3枚から4枚、5枚とふやして「・・・はありますか?」「はい、あります(いいえ、ありません)」の練習ができたら、今度は家族などの顔写真を並べて「お母さんはいますか?」とやってみましょう。たとえば、お母さん、妹、弟の3枚の写真を並べ、絵カードのときと同じ要領で「お母さんはいますか?」とたずねます。「はい、います」と答えてくれたら問題ないのですが、絵カードの時のパターンで「はい、あります」と答える可能性もあります。そのときは「はい、います」とお母さんが言って復唱させてください。「○○くん(弟)はいますか?」、そして並べた写真の中にない人の名前を使って「××ちゃんはいますか?」などの質問をしてうまく出来ればOKですし、うまくいかなければ絵カードと同じ手順でやってください。この過程で「物のときは{あります(ありません)}」「人のときは{います(いません)}」というように区別するようになっていくので、また新たに脳のネットワークが広がることになるのです。このあたりまできたら、そろそろカードや写真を用いての机上学習だけでなく、ふだんの生活の中でこの質問をしていきます。家族がそろっている時、「○○君(弟)はいますか?」とたずねたり、兄弟が不在のときにその子の名前を使って「○○君はいますか?」とたずねたりするのです。テーブルの上にコップが置いてある時に「コップはありますか?」また、コップがない時に「コップはありますか?」などいろいろたずねてください。沢山の人がいる教室の中で「○○君はいますか?」と先生にたずねられて「いいえ。いません」と答えられるようになれば、この学習は完成です。このレベルの課題ができるようになると「全校集会で他学年の列に並んで平然としている」ようなことはなくなります。
 

(141)「今日は何をしましたか?」にチャレンジしよう

 障害児にとって「今日一日」という長い時間の中で特筆すべき出来事をピックアップして答えるのは至難の業です。いままでのトレーニングで「今、何をしたか」「今から何をするか」などで記憶したことをすぐに引き出す力をつけてきていれば比較的スムーズにできますが、それでもなかなか我々がこの種の質問で期待する答えとは違っている場合が多いものです。一番困るのが最初にパターンとして覚えた文たとえば「勉強しました」とか「給食を食べました」とか決まったことしか言わない場合です。これは「今日は何をしましたか?」→「・・・しました」が1対1対応しているだけですから、この段階にいる子に「自分で考えなさい」と言っても無理です。こういう場合はばかばかしいと思わないで、@「勉強しました」A「給食をたべました」B「ランニングをしました」など、3つの行動の中からお母さんや先生が1つ選んで言い、復唱させます。ある日が@だったら次の日はAその翌日はBと言うように毎日変えてください。しばらくすると、お母さんや先生が何も言わなくても自分から3つのうちのどれかを言うようになります。(もちろん、その日実際にあったことでなければダメです。)このあと、お母さんや先生の方で数回に1回の割りで「公園にいきました」とか、実際にやったことの中でバリエーションを増やしていきます。続きは次回に・・・

 

●ポイント

 「今日は・・・をしました」は3つの行動のパターニングから始めましょう。




その92

 「今日は何をしましたか?」の質問に曲がりなりにも何かの答えを「・・・しました」の形で返してくれるようになったら、次は「大きな出来事(印象に残るべき行動)から答える」練習をしていきます。家族みんなで1日かけて動物園に行ったのに「今日は歯磨きしました」と答えているようではダメだということです。特に自閉傾向の子供は概念形成が苦手なので「歯磨きをした」「動物園に行った」という2つの行動の軽重の区別がつきません。動物園と言う場所に特別なこだわりがあれば別ですが、そうではなくて、ただボーッと連れ歩かれているだけだとまったく記憶に残らず、パターン行動化している「歯磨き」の方を答えてしまうことになったりします。「動物園にいきました」と答えてくれるようにするためには、「今から何をしますか?」、「動物園に行きます」、「ここはどこですか?」―「動物園です」、等の質問をして意識を向けさせ、帰り道で「今日は動物園に行きましたね」と言い聞かせてから「今日は何をしましたか?」とたずねて「動物園に行きました」という答えを引き出す作業をする必要があります。このようにしてお母さんのほうで導いてあげると、だんだん自分で「大切な事柄」を答えるようになっていきます。こういうことが出来てくると、子ども自身が1日1日の生活を経験として蓄積できるようになるのです。
 

(142)くり上がりのたし算の手順を教えよう

 計算の手順を覚えることも大切なトレーニングですからこのあたりで繰り上がりのたし算をやりましょう。筆算の形が覚えやすいです。

@ 5       +       8     =     13
  ○○○○○    ○○○○○○○○

A13の十の位の1を@にして15の1の下に書く、ただし、8に並べて書くと 15+18 に見えてしまうので1段下にずらすようにしてください。 

B 1     +     @     =     2

 これが2けた+1けたのくり上がりたし算の手順です。この例題をお母さんの手本に従って何度もやらせてみてあげてください。

 



その93
 

 前回にくり上がりのたし算のやり方を説明しました、2桁+2桁でも同じようにできます。

 4       +       8     =     12
○○○○        ○○○○○○○○

*12の十の位の1を@にして28の2の下に書く

7       +       2       +       @     =     10
○○○○○○○  ○○              ○
 

(143)くり下がりのひき算の手順を教えよう

5     −     8 ひけない←この「ひけない」を実際にマルけしで理解することが大切です。
 ・・・

8     −     5     =     3     ひけないときには逆に引き算します。

10   −     3     =     7    Aの答を10からひき、それを解答の一の位に書きます。

*35の十の位の3を1減らしてAにします。

A     −     1     =     1   解答の十の位に1を書きます。

 たし算に比べると手順が複雑になりますが、「理解してその通りに行う」トレーニングが、日常の行動に生きてくるのです。ただし、あくまでも手順を身につけるだけで「くり上がり」「くり下がり」の概念があるわけではありませんから、生活場面の中でこれらの計算が使えるところまではまだまだ到達できません。「脳のトレーニングの1つ」と考えて取り組んでください。
 次回は「健常児だけでなく、障害児にとっても難しい時期」と言われている「思春期」の療育について考えてみましょう。

 

●ポイント

 計算の手順を理解してその通りに行うことが「人の言うことを聞く」「脳を働かせる」トレーニングになります。




その94
 

(144)思春期は「脳の中で工事が行われている」時期

 思春期に脳の中はどうなっているのでしょう?思春期に前頭葉は活発に成長し、「皮質刈り込み」という作業が一気に進展します。この「皮質刈り込み」は不必要な神経と神経のつながりを削除し、重要な神経間のつながりを強化する作業です。たとえて言えば、運河の支流が細かく分かれていて本流が弱くなっている状態から支流を主流から堤防で切り離して主流の流れを豊かにすることに似ています。また、細かい路地が入り組んでいるのを太い一本の道路を整備して交通をスムーズにすることに似ています。これによって人は情緒が安定し、情報の受け入れ、思考の伝達などがスムーズにいくようになるのです。順調に成人した人の脳はこのような状態なのですが、そこに到達するプロセスは平坦ではありません。道路を整備する為には周辺の建築物を撤去しなければなりませんし、立ち退き問題でもめることもあるでしょう。また、工事中は通行止めなどで交通渋滞をひきおこします。中学生から高校生、いわゆる「思春期」と言われる時期は川の流れや道路を整備する工事に真っ最中でさまざまなトラブルが起き、感情が不安定になり、思考の伝達が、無秩序的に、非効率的になりやすい時期と言えます。制服を着崩し、車座になって地べたにも電車内にも座り込んでいた高校生達が数年後にスーツに身を固めて言葉づかいも礼儀もわきまえた社会人になっているのは「皮質刈り込みが終了した」からと考えることができます。多くの大人が十代のころを思い返すと「自分でも不可解な苛立ち、無気力、衝動」などに思い当たるのはこのためです。ただ、今のこの時代は戦前や、高度成長時代や立身出世が尊ばれた時代と違って「価値を何に置くか」がはっきりとしませんから、皮質刈り込みによる脳の整理に時間がかかっていると考えられます。いずれにしても、大人が「これくらいのことはわかるだろう」と思うことを若者がわからないのは、脳の中のこういった事情が原因、と知れば対応もかわってくるのではないでしょうか。
 

(145)障害児にとっても思春期は大変な時期

 知的障害児にも「皮質刈り込み」の時期は同じように訪れますが、障害(脳の損傷)をもともと持っているためにこの皮質刈り込みが散漫になり、秩序にない刈り込みになり、結果として問題行動が増加しその程度も激しくなります。自閉傾向の人はこだわりが強くなり、パニック(発作)が激しさを増し発達障害の人も頑固さ、対人関係の取りにくさが顕著になり、きびしい状況を招きがちです。統合失調症(精神分裂病)もこの「皮質刈り込み」の時期に発病します。しかし、この難しい時期はやがて終わりますから、あきらめずに療育することが大切です。4〜5年で終り、その後は落ち着きます。落ち着いた時にどれだけ豊かな人生が送れるかは思春期にどれだけ療育したかにかかっているのです。また、学童期から地道に療育していれば予想される困難な状況が「案外ましだった」ということになりますから、現象面でふりまわされずに1日1日着実に過ごしていくことが大切なのです。

 

●ポイント

思春期は「脳の工事真っ最中」と考えましょう。




その95
 今回は「書くこと」についてお話しましょう。
 

(146)単語の書字は声を聞いて書けるようにしていこう

 形の模写からひらがなの模写、絵を見ての単語書字まで進んでいれば、次の段階に移りましょう。絵を見て字を書くという学習を長期間続けている人をよく見かけますが、これは「絵カード」と「字の形」がマッチングしているのですから使っているのは視覚だけです。ある程度(10枚程度)できるようになったら、絵を見せるときに声をのせ(「みかん」の絵カードを見せるときに「みかん」と言葉を聞かせる)視覚だけでなく耳も使えるようにしていかなければなりません。そして段階的にレベルをあげていきます。絵を見てスムーズに書ける5枚について、しっかり言葉とともに書かせた後、今度は何も見せずに言葉を聞かせるだけで字を書かせるようにします。絵を見てならスムーズに書ける単語が、絵なしでは全く書けない、という場合はまだ聴覚を使えていないということです。根気よくその5枚について「言葉だけ聞いて書く」学習を繰り返しましょう。それと並行して、その5枚以外は「絵を見て書ける」枚数を少しずつ増やしてもけっこうです。ただし、常に「声をきかせながら」書かせるようにしましょう。それからもうひとつ大切なことは「み、か、ん」のように1字ずつ強調するようなことはしてはいけないと言う点です。言葉はリズムが大切ですから自然な発声をしてください。

 

(147)質問の答えを書けるようにしていこう

 絵を見ず、言葉を聞くだけで単語が書けるようになってきたら次は質問の答えを書く学習です。「耳を使ってしっかり聞き、それを文字に書く」ことは意識レベルを保っていることが必要で、大切な学習ですが、それもやはり「音と文字の1対1対応」ですから、それだけをやっていては脳を十分に使えるようになりません。判断学習にすすみましょう。口頭で答えた後、それを書かせるようにしましょう。口頭での学習と同じように@名詞に対して「はい」「いいえ」A動作文に対して「はい」「いいえ」B「今、何をしましたか」C「ここは・・・(場所)ですか」D「今から何をしますか?」Eスケジュール表をみて「次は何をしますか?」という順にやっていきます。ただし、あせってはいけません。@の「はい〜です」「いいえ、〜です」という短い答えをじっくり繰り返して、文を書くことに慣れさせてください。口頭で答えられるからと言ってすぐに動作文にすすむと長い答えを書いている途中で意識レベルが下がって「質問されたことに自体忘れてしまい」結局お母さんに言われるとおり1字ずつ「聞いては書く」1対1対応の書字になってしまいがちです。@の名詞の問答で短い答えをしっかり自分で書けるようになってから次に進むようにしましょう。

 

●ポイント

 絵を見ての単語書字(視覚)→言葉を聞いての単語書字(聴覚)→質問に対する答えを書く(判断)の順でステップアップしよう。




その96
 今回は「読むこと」についてお話しましょう。
 

(148)単語をひとつのかたまりとして読めるようにしよう

 絵カードと単語カードのマッチング、単語カードの聞き取り、ひらがなカードの聞き取り、ひらがなカードを選んでのことばづくり、そして書字など言葉のトレーニングを積み重ねてきたわけですがこのあたりで「読む」ということもしっかり身につけなければなりません。ひらがなカード「あ」を見せられて「これは何ですか?」という問いに「あ」と発声するためにはその前に自分の心(頭)の中で「あ」という音が聞こえていなければなりません。そしてその自分の内側で聞こえた音を再生したときに「あ」という声がはじめてでるのです。書字、聞き取りまで完ぺきに出来ていても、「発語はオウム返しか独り言」になってしまう子供は「内側の声」という部分が欠落しているのです。お母さんが「あ」といったあとに「あ」と発音できることや「あをください」といわれて「あ」のカードをわたせることと、「これはなんですか?」−「あ」です」と答えられることは別のことだと理解してください。そして、うまくいかない場合でも「今までそういう脳の使い方をしてこなかった」だけですから、あきらめずに続けると「内側の音」が聞けるようになり、ひらがなを読めるようになります。読めるようになるにはききとりと聞き書きを並行して行い、出来るだけ耳を使わせてください。
 ひらがなカードが10個ほど読めるようになったら(たとえば「あ」行と「か」行が読めるようになったら)1文字ずつ読めるひらがなをふやしていくかたわら、「あき」や「あか」、「いか」など読める範囲内で2文字や3文字の単語カードを提示し、読ませます。はじめはお母さんが「あか」の「あ」を指さし「あ」と読ませ、次は「か」を指さして「か」と読ませます。このとき子供は「あか」と読んだのではなく「あ」と「か」を読んだのにすぎないのですが、はじめはこれでよいのです。そしてだんだんと文字をさす指をカードから離し、子供の視界から消してゆきます。最後には「あか」という文字の横をすっと上から下まで指をおろす動きだけで、子供が「あか」と続けて読めるようになれば成功です。これが一つの単語でできれば、後は知っているひらがなの組み合わせなら、すっと読んでくれるようになります。前回の「書く」学習と同じで1字1字指さしたものを読むだけだと「1対1対応」ですから発展していきません。単語を指さしなしで読めるようにしていきましょう。もう一つ注意することは、ヒントのつもりで絵カードを見せたりしないようにすることです。文字を見てその文字から「内側の声」が聞こえてくること大切ですから他の刺激はとりのぞきましょう。

 

●ポイント

 読むこと、自在に会話することのためには「内側の音(声)」が聞こえることが必要です。




その97
 脳を活性化するためにリズムよく生活することが基本的に大切です。子供は8時間、大人は6時間ぐらいぐっすり眠るべきですが、「疲れた→眠い」と気持ちよく眠りに入る為には「脳を使う」ことが必要です。自閉傾向で多動の子供が日中のべつ幕無しに動き回っているのに夜なかなか寝つかないという話はよく聞きます。また、統合失調症(精神分裂病)の人が「抗精神病薬の副作用で体の動きが止められなくなり、病棟の廊下や階段を何百回も往復し、座っても足踏みしつづけ、それでも夜は1〜2時間しか眠れないというのもよくあることです。大脳皮質を働かせなければ睡眠が充分とれず、次の日も意識の曇った状態で発作を起こしやすくなったり、正しく判断して行動できなくなったりします。まず「脳がはたらける」状態をつくることに努力しましょう。
 

(149)「脳をはたらかせる」ために「起きてすぐ」のトレーニングをしよう

@朝はお母さんが起こしましょう。

 無意識行動で自然に自分で起きだすより、お母さんの声かけで起きた(起された)方が覚醒します。起こす時間に5分ほどの幅を持たせ、パターン化しないように配慮しましょう。

Aトイレ、歯磨き、着替えの順番をたまには変えましょう。

 パターン通りに動いていると、脳が活性化しません、「今日はトイレに行ってから歯磨き、明日はその逆」というように工夫してみてください。朝起きたらトイレにいくと決まっていた子供が先に歯磨きを指示されるとそれだけで覚醒水準が高くなります。着がえも「自分で出来るから」とすべてまかせずに、「はい、これ」と渡して着がえさせ、その順番も変えてあげましょう。

B冷水で顔を洗わせよう。

 脳は血液中の酸素とブドウ糖だけを栄養としますので、脳への血流が少ないと働けません。冷水でバシャバシャ、ゴシゴシとやることで一瞬、血管が収縮し、収縮したぶん、次の瞬間には拡張して結果的に脳への血流が増えます。我々でも冷水で顔を洗うとスッキリとしたように感じるのはこのためです。障害児はなおさら、脳への血流を増やしてあげる必要があります。朝に限らず、区切り区切りで冷水の洗顔をさせてあげましょう。「冬だからお湯で」という配慮は不必要です。

C髪の毛をとかし、ヘアスタイルを整えよう。

 障害児はあまり格好をかまいませんので髪をとかしたりしない子が多いのですが、お母さんの手で髪の毛をゴシゴシと「くしけずって」あげましょう。頭皮の血行をよくすることで脳がスッキリとよい状態になります。われわれでもくしやブラシで髪を整えた後なんとなくスッキリとするのはこのためです。

 @〜Cで拒絶が強かったり、パニックになりやすそうな場合はすべてやろうとするのでなく少しずつ増やしていきましょう。
 後は軽く運動するとよいのですが、これは次回お話しましょう。

 

●ポイント

起床、トイレ、歯磨き、着替えのしかたで、その日の生活が変わってくる。




その98
 

(150)軽い体操で脳をクリアーにしよう

 お母さんが起す、トイレ、着替え、歯磨きなどに介入する。冷水で顔を洗わせる。くしやブラシで髪型を整える。などの他、「軽い体操」で脳の状態をよくすることができます。どんな体操をするのがよいか、ということですが「腕をしっかり伸展させる」「背筋を伸ばさせる」「上体を後ろや前にしっかり曲げさせる」動きならなんでもよいのです。発作をもつ子はとくに上体に力が入りやすく、いつも屈曲気味で、腕を曲げていることが多いのですが、それとは逆の方向に体を動かすことで意識レベルをあげ、よい状態を保ちやすくなります。例をあげておきますので、子供の状態に応じてできるものからやりましょう。

○ 両手を組んで背伸びの運動・・・・つま先立ちになるくらい背伸びをさせます。組んだ手は手のひらを上に、そしてひじが伸びるように注意します。

○ 大きく腕を回す(外から内、内から外)・・・ひじから先をクルクル回す子が多いのですが、これは力が抜けていないからそうなるのです。腕を伸ばして大きく回させましょう。

○ 両手を前に出し、指先をしっかり上に向けて円をかく・・・指先と地面が垂直になるようにします。これはたえず指が動いたり手たたきの多い子、つねる癖の強い子には難しい運動です。

○ その場足踏み・・・・手を振れているか、に注意しましょう。体に力を入れていると手を振らずに足踏みだけになります。

○ 手を腰に当てて後ろに大きくそらす・・・いつも前への屈曲方向に力が入る子にとっては非常に難しい運動で上体をまっすぐにしたまま顔だけ上に向けることになりがちです。上体を後ろへ反らせようと力を加えると反発反射でよけいに上体が立ちますから、「ここを見ようね」と指だけで視線を指で後ろに誘導するようにしましょう。

○ あぐらをかいた姿勢で背筋を伸ばす・・・・手を膝に置かせ、お母さんが側面から子供の腰を支え背筋をまっすぐにし、しばらくの間そのまま維持します。

○ あぐらをかいた姿勢で両手を上にあげさせ、その手を引っぱり挙げてやる・・・子供の背中にお母さんの膝の外側が当たるようにし、背筋をまっすぐにします。ただ、この場合子供が呼吸を止めてしまっていると余計に力が入ってしまいますので鼻呼吸が出来ているかチェックしてください。

○ この他、以前からお話している「オットセイ」や「うで立て静止」なども大変有効です。

 

●ポイント

 腕をしっかり伸展させる運動を重点にしよう。




その99
 

(151)カタカナを覚えよう

 ひらがなカードのききとり、単語作りができたら、次はカタカナの学習を始めましょう。
 ひらがなと同じ音を表せる文字がもう一種類あると言うことを知り「あ」をカタカナで書くと「ア」だと言う約束事を理解することはとても大切なことです。「ソフトクリーム」という言葉は「そふとくりーむ」とは書かないものなのだ、とわかること、つまり「この言葉はひらがなよりもカタカナで書く」と判断することは脳のトレーニングになるのです。そのためにもまず、カタカナを覚えましょう。まず「ひらがなカードとのマッチング」からやり始めます。「あ」〜「お」のひらがなカードを並べ、その下にお母さんが音を聞かせながら「ア」〜「オ」のカタカナカードを置いていきます。そして5組のカードが並んだらその中の「ア」を渡してお母さんの「ア」と言う発音を聞かせながら「あ」の下に置くように促します。「い」〜「お」も同様にします。そのあと「ア」と「ウ」の2枚をお母さんがとり「ア」の音を聞かせながら「ア」のカードを子供に渡します。そのカードを子供が正しい位置(「あ」の下)に置いたら「ウ」を置いてもらいます。次はまず、「ウ」を渡し置けたら「ア」です。それができたら「ア」と「イ」、「ア」と「エ」、「ア」と「オ」、「イ」と「エ」というようにひらがなとマッチングしていきます。「ア」〜「オ」の5枚をマッチング出来るようになったら「カ」行に進みます。そして「カ」〜「コ」はマッチング、「ア」〜「オ」は聞き取りを行います。「ア」行と「カ」行が聞き取りまでいけば、その中で単語作り(「アキ」、「イカ」)もしてみましょう。50音すべてを覚え、単語作りまでいくには長い期間が必要ですが、ひらがなに取り組んだ時よりはスムーズに早くできるはずですし、ひらがなが一通りわかっていればそれでコミュニケーション可能ですから、カタカナは脳をよく使う為のプラスアルファの勉強ととらえて気楽に取り組みましょう。
 

(152)「覚える」という努力が脳を発達させる

 道を間違えることなく目的地まで運転できることで有名なロンドンのタクシー運転手さんたちの脳は「海馬」という部分が一般人よりも肥大しているということが明らかになっています。海馬と言うのは記憶を残しておく働きをするところなのですが、運転手さんの間でも、ベテランの運転手さんほど海馬が膨らんでいるのです。運転歴30年の人ではその部分において20%も脳神経細胞が多いというデータもあります。「道を覚えて、その知識を使って目的地までの道を探す」ことによる刺激が脳に変化をもたらしたと考えられます。障害を持つ子供も「ひとつ覚えた(できるようになった)ら、神経細胞がひとつふえる」と考えて、気長に少しでも多くのことを教えてあげましょう。

 

●ポイント

 何かを覚えたら、そのぶんだけ脳が発達する。




その100

 周囲の人の動きをよく見て、自分が今いる状況を理解し、声かけに応じて行動するとき、脳は活性化します。くれよん方式では学習、体を動かしたり止めたりするトレーニングをこの目的のために行っていますが、「遊び」も重要な療育です。以前に「かるた取り」、「ぼうずめくり」などの遊びを紹介しましたが、今回は「体を動かす遊び」についてお話しましょう。もちろん、「ルールのある遊び」です。
 

(153)数の勉強を兼ねてボウリングをしよう

 もっとも手軽で効果的なのはボウリングです。ただし、本当にボウリング場へ行ってするわけではありません。玩具のボウリングセットがあればもっともよいのですが、なければペットボトルを立ててピンの代わりにしてもかまいません。最初は1メートルの距離から始めましょう。まずお母さんがボールを転がしてピンを倒します。倒れた本数を声に出して(手に取りながら)数え、その本数を紙に数字で記入します。その後ピンを並べなおし、子供にボールを渡します。ボールを転がすように促しますが、もし子供が理解しないようなら「あのピンを倒すよ」とピンのほうを注視するように仕向けながら手を添えてボールを転がしてやります。ボールを転がしたら、子供がボールの行方を注視するように指差しや声かけをして下さい。そして倒れた本数を子供と一緒に数え、数字を記入します。子供が数字を書けるようになっていたら、子供が記入したほうがよいでしょう。なぜボウリングがよいのか、ですが、「ボールを転がした結果の数を意識する」、つまり、「行動から結果までの一連の出来事を意識し続ける」ことができるからです。学習の進んでいる子供なら、お母さんとどちらが多く倒したかを比べられますし、さらに進んでいれば何回かの合計をしてどちらが多いかを比べることもできます。同じような効果を期待できる遊びは「輪投げ」ですが、これはボウリングが1回の投球で結果が出るのに対し、数個の輪を投げて結果を出すので時間がかかり、途中で集中が途切れてしまいがちなのが難点です。輪投げも最初は1回だけの試技にし、そのときひっかかったところの数字だけを比べるとよいでしょう。次に、気をつけるべきことですが、ボウリングでも輪投げでも失敗させないことが一番大切です。お母さんの手本でピンが倒れ、本数を数えたのに、自分がやって1本も倒れなかったらお母さんのやったことと自分のやることが違うので混乱してしまいます。(1本倒れたから「1」、これはわかるのですが、「1本も倒れなかったからゼロ」、これは難しいのです)最低でも1本は倒れる距離(輪投げならどこかにはひっかかる距離)で行って下さい。また、ボウリングの場合は、よほど慣れるまで「2回投げて1フレームの得点」という正規のルールではやらないようにしましょう。「転がした→倒れた→数えた」の流れが定着しないうちにそれをやると、あやつり人形のように1つ1つ言われないと動かず、倒した本数にも関心をもたなくなってしまう可能性があります。「ルールにのっとって遊ぶ」ことは障害児療育にとって大変重要ですから、慎重に取り組みましょう。次回は「ルールのある遊び」がなぜ大切かについてお話しましょう。

 

●ポイント

 体を動かす遊び(ルールのある)はボウリングから始めてみよう。


 

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