く方式 その71〜その80

その71
 

(107)絵札と数字のマッチングをしよう

 

 カードにはダイヤ、ハート、クラブ、スペードの4種類があることがわかったら、次は絵札と数字をマッチングしましょう。まずダイヤでAの札と1の数字カード、Jと11の数字カード、Qと12の数字カード、Kと13の数字カードをマッチングします。これは子供にとってまったくはじめての新しい約束事ですから、慎重にすすめてください。学習を始めた初期の「同じ絵カードのマッチング」と同じ要領でスモールステップで取り組みましょう。ダイヤが出来たらハート、ハートの次はクラブ、最後にスペードというように1種類ずつやっていってください。マッチングができたら2〜10まででやった「カード並べ」をA〜Kまでのすべてのカードでやります。これもダイヤだけ、ハートだけでまずやり、次はダイヤとハートでやります。そこまで出来ればクラブとスペードを同じようにおこないましょう。その次はようやくダイヤとクラブ、つまり赤いしるしの札と黒いしるしの札で並べてみましょう。
 

 

(108)「神経衰弱」をやってみよう

 

 トランプゲームでまず最初に取り組むべきなのは「神経衰弱」です。「同じ数字が出たら2枚とも自分のところへ持ってくる」というルールが理解できればそのあと「同じカードをもらったら2枚とも場に出す」という「ババぬき」も出来るようになります。まずはわかりやすい(人からもらうのでなく、場に並んだ札を相手にするので)「神経衰弱」をやってみましょう。最初のステップとしてはダイヤとハートだけの少ない枚数で、お母さんが手本を示しましょう。お母さんが2枚めくり、たとえば、「4」と「7」だったら「4と7は違うね、だからもとにもどすよ」としっかり示してもとにもどします。次にまた2枚めくり「6」と「K」だったら「6とKは違うね、だからもとにもどすよ」と言い聞かせてからもとにもどします。次の2枚が「4」と「4」だったら「わぁ〜」と少し大げさに驚いて見せ、それまでとの違いを強調してから「4と4は同じね。だからもらいます」と言って自分の前に置いてください。違って元に戻す作業を何回かしてから同じカードが出たほうがわかりやすいこと、2つの場合の状況の違いをお母さんの反応のちがいで見せるわけですから「違った時は淡々と」、「同じカードが出た時は大きく反応する」ということなどに気をつけてください。お母さんの手本の後は子供が1人で行います。1つ1つ「違うね、もとに戻すよ」あるいは「わぁ〜!同じだね。2枚ともそこに置きなさい」と丁寧に声を掛けてください。声かけに従ってきちんとできるようならお母さんと交互にめくる形式に進みましょう。次はクラブとスペードで同じように行います。カード並べの時と同じように、ここでまずダイヤとクラブ、つまり赤いしるしの札と黒いしるしの札で神経衰弱をやってみましょう。それが出来るようなら4種類すべての札を並べての本来の「神経衰弱」にチャレンジしてください。

 

●ポイント

 かるたとり、ぼうずめくり、神経衰弱が「ゲーム」の基本。「勝ち負け」ではなく「最後までやり続けること」を目標に取り組みましょう。




その72
 室内での遊び(かるたとり、ぼうずめくり、神経衰弱)についてお話してきましたが、次は少し体を動かす遊びをしてみましょう。

(109)室内ボウリングをやってみましょう

子供用のボウリングを準備してください。2〜3mの距離からボールを転がしてピンを倒し、倒したピンの数を「1,2,3・・・」と数え、その数をスコアに記入します。スペアやストライクなどでポイントを加算するという正式のルールでやるのは難しいので、1フレームごとの本数だけをスコアに書くようにします。第一段階は「1フレームごとの勝負」にします。まずはお母さんが転がし、倒れたピンを数えて、もし5本なら「お母さんは5点!」と言ってスコアに「5」を記入します。次に子供が転がすように促し倒れた本数を一緒に数えてください。もし3本なら「3点!」と言って記入し「5と3はどっちが多い?」とたずね、「5」と子供が答えたら「5はお母さんだからお母さんの勝ち!」と勝利を喜んでください。もし子供の本数のほうが多ければ子供をしっかりほめてあげてください。ゲームの目的は「ルール、順番を守り、最後までやり続ける」ことですから、はじめから10フレームを続けてやろうとせず、1フレームごとの勝負であっさり終り、だんだん長くしていきましょう。さて、ここからが学習の進み具合と関連してくるのですが、勝ち負けを意識する為にはまず、数の大小がわかっていなければなりません。「5点と3点なら5点の方が多い」ことさえわかれば、室内ボウリングだけではなく、グラウンドゴルフや輪投げなど、勝ち負けを競える種目がふえていきます。もちろん、数の大小がわかっていなくても「ルールを守って競技する」ことで脳をトレーニングできますから、どんどんやってみましょう。
 

(110)数の大小を多少といいかえましょう

 机上学習でマル書き足し算、マルけし引き算をしたり、マル数えなどもやっているわけですが、計算が出来るからといって数の大小がわかるとは限りません。計算は手順であり、数の大小は概念だからです。さてここで子供達にとってわかりやすいように「大小」を「多少」というように言い換えましょう。既に学習で「形の大きさ」をくらべていますから、視覚的に大きさの変わらない数字を「大きい」だの「小さい」だの言うと混乱してしまうからです。「多い」と「少ない」で徐々に概念に近づけていきましょう。まず、1の数字カードと2の数字カードを並べておき、「1と2では、2が多いよ」と何度も教え、2のカードを手にとって見せます。そして、「1と2で多いほうをください」と「多い」というところを強調して言ってからカードを取らせます。うまく2が取れたら1と2を反対に置き換えてまた「1と2で多いほうをください」と言ってカードを取らせます。ここでまた2がとれたらOKです。次の日に同じことをやって間違わなければ次の段階へ進みます。(1・2,2・1そしてまた1・2と並べそれぞれきちんと2が取れたら合格です。それ以上繰り返すと意識レベルが下がってしまうおそれがありますので次に進みます。)続きは次回に・・・

 

●ポイント

 1フレーム勝負でボウリングをしよう。

 数は「多い」か「少ない」かで教えよう。



その73
 

(111)数字カード1〜5で「多いほうを取る」を学習しよう

 「1と2で多いほうをください」で、どう置いても2をとれるようになったら「1と3」に進みます。「1と3で多いほうをください」で3が取れるようになれば合格です。(13、31、そしてまた13と並べてまちがわなくなればOKです。)次に「2と3」を行います。「2と3で多いほうをください」で3が取れるようにします。(23、32、そしてまた23)このあと「1と4」、「2と4」、「3と4」、「2と5」、「3と5」そして「4と5」を順番にやっていきます。ただし、1度にやらずに1日1つだけ、(今日は「1と4」明日は「2と4」)というようにやっていき、折に触れてすでに学習した「1と3」をやってみたりします。そして、それと並行して(これも毎日でなくてもよいのですが)数字ならべを1〜20くらいまでをやっておくことです。そうして積み重ねて「1〜5」の中だったら間違いなく多いほうのカードを取れるようになっていたら、いきなり「7と9で多いほうをください」と言っても対応できてくるものです。「7と9」の比較は初めてでも「2と3」の比較と同じことをやっているのだと理解できるようになるのです。そういった神経のネットワークの広がりが行動面においても落ち着きとなってあらわれてくる、ということです。この手順で1〜20くらいまで、「どちらが多いか」を判断できるようにしましょう。ただし、「1,2,3の中で一番多いのは?」とたずねるのはまだ待ってください。2つの比較が1〜20の数字で完全になり、次に述べる「量の比較」ができるまでは「いちばん〜」に進むべきではありません。子供をもっとも混乱させ、伸びを阻害するのは「我々から見ると同じことの様に見えるがまったく違う概念」をいきなり要求することであり、「2つの比較」と「3つ以上の中から最大を選ぶ」ことはまさにそれに当たると言っていいでしょう。あせりは禁物です。
 

(112)おはじきをお皿に入れて「どちらが多いか」を学習しよう

 次はおはじきでやってみましょう。お皿でなくてもよいのですが、同じ形をした容器を2つ用意してください。そこにまず、片方に2個、もう片方に3個のおはじきを入れます。まずお母さんが「こっちのお皿のおはじきはイーチ、ニーイ、2個だね。こっちのお皿はイーチ、ニーイ、サーン、3個だね。多いのは3個の方だね」と実際におはじきを数えて、多いほうの3個のお皿を指さします。そして今度は子供におはじきを数えさせ、多いほうの3個のお皿を指さすように促します。数えるのも一緒に声を出してください。3個のお皿を指さすようになったら「2個と4個」「3個と4個」「3個と5個」、「4個と5個」というようにやっていきます。これは数字カードで多いほうを取るよりずっと難しい課題です。意識レベルの維持が難しい障害児にとって、お皿の中にあった個数を覚えておいて、次に数えた個数と比較するのは大変だからです。あせらず、「2個と3個」が出来るようになるまで根気よく毎日1回でも取り組みましょう。なお、なぜ「1個」をしないかということですが、これは数字の1(いち)と個数の1個(いっこ)の音が一致しないからです。どんな課題でも混乱させてしまうと進歩が望めなくなります。

 

●ポイント

 「AとBではどちらが多い?」と「A、B、Cのなかで一番多いのは?」は同時にしてはいけない。




その74
  今回は少し違った問題について考えてみましょう。「かかわりが取りやすく情緒的な交流は出来るのだけど、ずっといたずらばかりして困る(人のいやがることばかりする、嫌なことばかり言う・・・)」ということで悩んでおられるお母さんもたくさんおられます。どうしてそうなるのか、どう対処すればよいのかについてお話しします。
 

(113)わかっているはずなのにどうして同じことばかり繰り返すのか?

 「こちらの言うことはわかっているし、怒られたときは反省するのに、すぐまた同じことをする」子供がよくいます。「かまってほしいから」とか「気をひこうとしているから」とよく言われますがこの考え方は正しいのでしょうか?結論から言えば、「正しい」と言ってよいと思います。しかし、療育に大切なのは「結論に至るまでの過程」ですから、「なぜそうなるのか」をしっかり考えなければなりません。まず、「知的障害児に会話の得意な子はいない」ということが大前提になります。我々が日常、会話をしている内容を思い起こしてください。たとえば、「桜が咲いているね」という場合、「現実に目の前にある桜の花」のことだけをいっているのでしょうか?その言葉は当然、「春が来たね」さらに「新しい年度、新しい出発」、「気持ちのよい季節」、「のんびり花見をしながら弁当でも食べたいな、でも今は仕事中だ」などいろんな意味を含んでいます。そのとき相手はその場の状況から「相手はどの程度の意味を込めているのか?」を推し量り、「そうですね」のあとにそれにふさわしい言葉をくっ付けて答えるのです。つまり、「桜と言う花が咲いている」という事がわかるだけでは「この花はなんですか?」とか「桜の花は咲いていますか?」の質問に答えることは出来ても日常会話に参加することができない、ということなのです。健常者の日常は1日中こういった会話に埋め尽くされているのですから、知的障害をもつ人にとっては人と接することは非常に困難だということになります。そこで彼らがとるコミュニケ―ション手段は「先手必勝マイペース型」になってしまうわけです。「こうすればああなる」とわかっている形にもちこみます。人をたたいたり、背中を押したら「何すんねん!」と言う反応が返ってくるとわかっていますから、彼らは好んでそれをやります。そこには「後でしかられる」こともちゃんと筋書きに入っていますし、親や先生がしかるときの言葉も彼らにとっては十分に守備範囲ですからとても安心なのです。きつく叱られればシュンとしますが、理解できない会話や遊びに巻き込まれるよりは、とまた同じことをやることになります。「悪いことばかりする」というのはそのほうが相手の反応が読みやすいからです。「よいこと」の場合、ほめてくれる人もあれば知らん顔をする人もあり、「必ずこうなる」という予測がつかないのです。「悪いこと(人のいやがること)」の場合はたいていの人が同じ反応をしてくれる、というのが彼らにとって魅力なのです。発音が不明瞭だったり、発語の難しい子はとくに「人の嫌がる行動」をやりますが、これは「わかりにくい反応をされたり、わからないことを言ってこられるのがイヤ」だからです。ここではこのような行動への対策を考えましょう。なお、自閉傾向の子供の人の嫌がる行動はこれと似ていても発生のメカニズムがまったく違いますから、別のところでお話します。

 

●ポイント

 「人の嫌がること」を好んでするのは「自分の思い通りにかまってほしいから」




その75
 

(114)「人の嫌がる行動(言動)を繰り返す子供にどう対処するか
                       →「かかわりのパターンを組替えよう」

 なぜ、知的障害の子が何度注意されても「人の嫌がる行動」を繰り返すのか、について前回お話ししました。今回は「どう対処するのか」について考えてみましょう。よく言われる対策に「無視する」というのがあります。「いくらやっても相手が反応してくれないなら、やっても仕方がないからやめよう」と思うはずだ、という考え方ですが、これは正しいのでしょうか?「正しいけれど実際にはできない」というのが答えです。そうそう無視しつづけられるものではありませんし、10回中、9回まで無視しても最後の一回「何すんねん!」と反応してしまえば水の泡です。じゃあどうすればよいのでしょう?正解は「人の嫌がる行動そのものをやめさせるのではなく、よいことをしたときにほめることに力を入れる」です。要は悪い形が出来たパターンを良い形に組替えればよいのです。ついつい我々は子供の行動で「よいこと(当り前のことや日常動作も含めて)に対して無関心で「困ること」に対してだけは叱ったり注意を向けたりしがちです。会話が苦手な知的障害児にとっては相手が確実に(予想できる形で)反応してくれる行動をとろうとしますから、どうしても人をたたいたり、押したり、人のものをヒョイととったり物をちらかしたりすることになってしまうのです。そこで、今まで「そんな事ぐらいでほめていられるか」とばかりに知らん顔をしていたなにげない日常動作に対して「ちゃんとできたね」「えらいね」とさりげなく(オーバーにやるとお母さんも疲れますから)言葉をかけてあげましょう。簡単な用事をたくさんさせてあげて、その度に称賛してあげましょう。はじめはお母さんも「取ってつけたような」感じがして疲れを感じるかもしれませんが慣れてくれば自然にでるようになります。そうやって「よい行動(当り前の行動)→ほめられる」ことが子供のコミュニケーションの基本になるように組替えていくのです。当然、はじめのうちは悪い行動がたくさん出ますが新しいコミュニケーションのパターンが出来上がるにつれて悪い行動の割合が減ってきます。「なんとなく最近、聞分けがよくなったな」とか「叱られることが減ってきたな」と感じられるはずです。ただ、長年培ったパターンを組みかえさせるのですから1日や2日でできるものではありませんから、気長に取り組みましょう。
 

(115)パターンを組替えても「しかる」ことは大切

 こう書いていると「ほめる」ことだけがいいのかと思われがちですが、そうではありません。今まであまりしなかった「ほめる」という行動を意識してたくさんやろうということであって、やはり悪い行為は叱らなければなりません。「冬の寒さがあってこそ春の心地よさがわかる」ように「しかられてこそ、ほめられることの良さがわかる」のです。悪いことは短くビシッと叱る、良いこと(当たり前のこと)には称賛や感謝をきちっとあらわす。このルールをお母さんがしっかり守ることが大切です。

 

●ポイント

 当り前の行動をきちんとほめてあげましょう。




その76
 今回は自閉傾向の子供が「人の嫌がる行動をくりかえす」ことについて考えてみましょう。
 

(117)自閉傾向の子供は「かまってほしい」のではなく、「パターン通りになる事が快」

 他の子をパン!とたたいてはしかられ、「もうしません」「ごめんなさい」と言ってしばらくするとまたたたいてしまう、というような子供がいます。74,75でお話したような場合と表面上似通った行動にみえますが、自閉傾向の子供は単にパターンを組みかえるだけではなかなか行動は改善されません。よいパターンの形成によって「良い行動」が増えてくることは確かでなのですが、「叱られるよりもほめられることが嬉しい」→「しかられることはやめておこう」というようにはなりにくいのです。自閉傾向の子供は「パターン通りになる事が快」ですから、「悪い行動→しかられる」も大切なパターンになっているので、なかなかやめてくれません。お母さんが思いきりしかったときに子供は本能的な恐怖を感じてシュンとしたり、泣いたりすることはありますが、大脳新皮質を使っていませんから「もうやめよう」とは思ってくれないのです。本能的、というのは大脳辺縁系以下のレベルですから、「お母さんが怒っている→怒られるのがイヤだからもうしないでおこう」と考えているわけではなく、瞬間的に「生命維持できるかどうかの危険を感じているだけ」ということです。そこが理解されないと、延々と何年経っても同じことの繰り返しになってしまいます。
 

(118)悪いパターンそのものを消去しよう

 自閉傾向の子供の行動を改善する時に必要なことは@「良い行動→ほめられる」と言うパターンの形成と並行してA「悪い行動パターンの消去」です。子供の行動の中でお母さんが「これだけはやめてほしい」と思うものをリストアップしましょう。そしてその中で優先順位をつけます。順位の高いものから順番に1つずつ取り組んでいくのです。たとえば「妹をたたく」という行動をやめさせたいなら、妹と一緒にいるときには不用意に近づけさせないようにさせ、何があっても妹をたたかせないように目を光らせるのです。74,75で述べた「自閉傾向のない子供」の場合はかかわりを求めてたたくのですが、自閉傾向の子供の場合は「パターン行動にはまる」つまり、意識レベルが下がった状態で勝手に動いてしまうのですから、しっかりみていれば防げるのです。何もせずボーッとしている時、常同行動がたくさん出ている時、こだわりにはまっている時に妹さんの姿が目に入るとその瞬間に「ポカリ」とやってしまいがちですから、そういうことに注意していれば防げます。1日に数回出ていた悪いパターンを4〜5日出さなかっただけでも子供の行動はかなり変わります。上で述べた「妹をたたく行動」そのものが減るだけでなく、もう1つか2つ、困った行動が減るように感じられるはずです。これも脳の活性化によるネットワークの広がりなのです。また、「じっと見ているわけにはいかないから無理だ」と思われるかもしれませんがまずは「お母さんが見ていればしない」ところからスタートすれば良いのです。それまでは誰が見ていようと出ていたものが(むしろ、お母さんとのセットパターンでお母さんがいる時ほど出ていた場合も多いと思います)お母さんが「させまい」と思ってみていればしない、というようになるだけでも大進歩です。手つなぎを増やすことによっても頻度をへらすことができます。

 

●ポイント

 自閉傾向の子供はまず「悪い行動をさせない」ことが肝心。




その77
 自閉症児の「悪いパターン行動」を消去していきましょう、と前回お話しました。どんな行動も「してしまえばパターン化」し「しなければパターンが消えていく」、簡単に言えばこれだけのことです。誰も悪い行動をわざわざ教えてパターン化させようなどという人はいないはずです。悪い行動(たたく、つねる、投げる、かむ、ちぎる、ぶちまける・・・)は発作が起きて体にすごい力が入った結果、その力の受け止めどころが人であったり物であったりし、それが発作の時に必ず出る行動としてパターン化された、と考えてください。そしてそのあとの周囲の反応(音声や表情)が次に誘発刺激としてインプットされてしまっているのです。ですから「してしまったら、後で何を言ってもダメ」であり、何も言わない方がまだまし、ということです。「してしまったことに対して懇々と言い聞かせる」ことはパターンをより強化してしまう(その音声を聞いたり表情を見ると次にまたやってしまう)だけだということを知っていただきたいと思います。
 

(119)「させない」ためにはどうしたらよいか

 「未然に防ぐ」ことが最善の策ですが、どうすれば防げるのでしょうか?「絶対に〜のことはさせない」と思って子供さんの動きをみてください。見られる事によって子供の意識レベルは上がり、無意識のパターン行動は止まります。そしてよく見ていると子供が「あっ今やろうとしている」ということがわかるようになってきますから、そこで声かけをしたり、対象となるものを取り除いたりして未然に防ぐことが出来るようになります。その積み重ねで「お母さんといるだけで悪い行動が減る」ようになっていきます。気迫のこもった強い視線を感じて緊張状態になることによって意識レベルが上がる、というメカニズムが働くのですが「それではお母さんはずっと気迫満々でないといけないのか」と思わずため息をついてしまうお母さんもおられると思います。そんなことはありません。「車を運転する」のと同じだと思ってください。教習所に通っている時や、免許をとりたての時はそれこそ全神経を集中して運転していますが、慣れてきたら人と話しながらでも平気で運転できますね。でもそうやって人と話しながらでもごくスムーズに「信号は変わりそうか、歩行者は出てこないか、前の車は車線変更しそうか、」などあらゆることを考えながら運転しています。それと同じように、慣れてくれば取り立てて意識しなくても常に子供を視野に入れ、ごく自然に対応したり先手を打ったりすることが出来るようになるのです。知的障害児、特に自閉症児の療育は「車を運転するような気持ちで」行うとよいのです。初心者マークに間はちょっと大変ですが、慣れればさほどのことはありませんし、子供がよい状態の時にけなげに頑張る姿がみられるようになって幸福を感じることも多くあります。

 

●ポイント

 自閉症児の療育は「車の運転」と同じです(問題行動は「歩行者が急に飛び出してきた」ようなもの)。




その78
 

(120)視線で止められるようになっても、手つなぎを忘れてはいけない

 「お母さんといるだけで悪い行動が減る」ところまでくると、ついつい「これでよし」と思ってしまいますが、大切なことを忘れてはなりません。あくまでもそれはお母さんの姿、お母さんの視線とセットになったパターン行動に過ぎませんから、『他の人と一緒では全然ダメ』ということが起ってきます。誰もが気迫十分で接してくれるわけではありませんので、絶えず『手つなぎ』をして、他の人でもしっかり手をつなげば一応、指示通り動けるようにしておくことが大切です。お母さんが「そこにいなさい」と言えばかなり止まっていられるのに、他の人が「ここにいようね」と手をつなごうとしたら振りほどいてマイペース行動をしてしまう子供が多いのも事実です。『善意の手つなぎ』を素直に受け入れられるようにしましょう。
 このあたりでまた学習の話題にもどりましょう。
 

(121)「赤い・・・、黄色い・・・」などを定着させよう

 くれよん方式その24のところで「赤い・・・」、「黄色い・・・」の絵カードと文字カードのマッチングについてお話しました。それがすでにできていれば次に進みましょう。
 マッチングの次はききとりをするのが手順ですから、たとえば「赤いカサ、黄色いカサ、緑色のカサ、青いカサ、黒いカサ・・・」など5〜6枚のカサの絵カードと文字カードのマッチングができたら次には「赤いカサ」と「黄色いカサ」の絵カードでききとりをします。「赤いカサをください」で正しくとれたら、場所を入れ替えてまた「赤いカサをください」と要求します。正しくできたらまた場所を入れ替えて、今度は「黄色いカサをください」、できたら場所を入れ替えてまた「黄色いカサをください」と要求して、クリアすれば「赤いカサ」と「黄色いカサ」に関してはOKです。ここで「黒いカサ」を加えます。このとき、まだ「青いカサ」は加えないほうが無難です。「あかい」と「あおい」の「あ」の部分だけしか聞かずに反応してしまうかもしれないからです。「赤いカサ」「黄色いカサ」「黒いカサ」の3枚を並べ、「黒いカサをください」と要求し、正しくとれたら「黒いカサ」を真ん中に移してまた「黒いカサをください」、うまくいったら「黒いカサ」を最初と反対の端に置き、「黒いカサ」をとらせます。(「黒いカサ」をとったあとの「赤いカサ」と「黄色いカサ」をとらせる順番はどのようにしてもけっこうです。)ここまでくると、「緑色のカサ」というように「の」を使う言い方のカードを加えてもだいじょうぶですし、また、そういうものも混ぜていかないと、脳がバランス良く成長しません。

 

●ポイント

 大人になっても「手つなぎ」をできるようにしておきましょう。

 「赤い・・・」と「青い・・・」をいきなり聞き分けさせることは避けましょう。




その79
 

(122)「大きい・・・」「小さい・・・」、そして「長い・・・」「短い・・・」を学習しよう

 次に「大きいりんご」と「小さいりんご」の絵カードをそれぞれ「おおきいりんご」「ちいさいりんご」の文字カードのマッチングを確認します。それができたら「大きいりんごをください」、場所を入れかえて「大きいりんごをください」、それもできたら今度は「小さいりんごをください」、うまくいったら場所を入れかえて「小さいりんごをください」というように聞き取りをすすめ、すべてできたら「大きいりんご」と「小さいりんご」は0Kです。そして「りんご」以外にもう1つやっておきましょう。「大きいかばん」と「小さいかばん」と「小さいかばん」でもいいし、「大きいくつ」と「小さいくつ」でもかまいません。ただし、「同じかばん、同じくつで大きさだけが違う」ものにしてください。ついついまったく違う種類のかばんで大小を比べさせようとしてしまいますが、それをやると子供はどこに注目すべきなのかがわかりません。色も形も同じで「大きさ」だけが違うからこそ「大きい」「小さい」ということばと、そのことばのあらわす視覚的な特徴とがマッチングできるようになるのです。同じようにして「長いえんぴつ」と「短いえんぴつ」の絵カードと「ながいえんぴつ」「みじかいえんぴつ」の文字カードをマッチングさせてから、聞き取りをします。この場合も、同じ形、同じ色で、「長さだけが違う」えんぴつにしてください。


(123)色、大小を組み合わせよう

 次にやることは、「黒い・大きい・かばん」と「黄色い・大きい・かばん」の2枚での聞き取りです。ここまでくると、文字カードと絵カードのマッチングは省略して聞き取りからはいることができます。以下、順に「黒い・小さい・かばん」と「黄色い・小さい・かばん」、「黒い・大きい・かばん」と『黒い・小さい・かばん』、「黄色い・大きい・かばん」と「黄色い・小さいかばん」、「黒い・小さい・かばん」と「黄色い・大きい・かばん」というように、2枚で聞き取りをしていき、すべてできたら4枚をならべて聞き取りをしてください。4枚にしてみたら思ったほどできなかった、、ということもよくあります。そのときには4枚のうち「黒い・大きい・かばん」という1枚をきめて、端から順に動かしてゆく、という方法をとります。それができたら次は、「黄色い・大きい・かばん」をかならずを最初にとらせて順に位置を変えていく、というようします。これができるようになると「最初に耳に入った刺激に反応する段階を卒業し、超速行動(無意識行動)が減少します。「はい」「いいえ」の判断と「色・大小の聞き取り」を並行してやっていくと、行動に「間」が出来るようになり、落ち着いてくるのです。

 

●ポイント

 「同じ形」「同じ色」のもので大小・長短をくらべよう。




その80
 

(124)できるだけマルをかかずにたし算をしてみよう

 その54,55でマルかき、マルけしによるたし算とひき算のやり方を説明しました。これに慣れてきたらだんだんとステップアップしていきましょう。マルをかけば確実にたし算はできていきますが、とても手間がかかります。丸をかかずにたし算をするようになる方法が2つありますので、どちらかでやってみてください。
 

@マルをかくことを省略していく方法

まず、5+1=6,6+1=7,8+1=9のように右側を1に揃え、左側の数の下にだけマルをかくようにし、「+@」についてはマルをかかずに(頭の中でマルをかき)、1をたした答えを書きます。これをすぐできるようになるまでくりかえし、できたら4+2=6,5+2=7,8+2=10、のように右側を2で揃え、左側の4,5,8の下にだけマルをかくようにし、「+2」についてはマルをかかずに(頭の中でマルをかき)、2をたした答えを書きます。できるようになったら次は「+3」のところをマルをかかずに(頭の中でマルをかき)、3を足した答えを書きます。そして順に「+4」「+5」「+6」・・・とふやしてゆくのです。
 4+7=11のような式をみたら、「左右」だけではなく、「数の多い方」のマルをかき、(この場合は7個マルをかく)、「少ない方」(この場合は4)はマルをかかずに4をたして答えが出せる練習をします。もし、これが難しければ、「その72」でやった「数の多少」が理解できていないことになりますから、「5と8では8が多い」がわかるように復習しましょう。
 

A指を使って計算する方法

8+4=12という計算をしたいとしましょう。お母さんが見本をやってみせてください。このとき「多い方」は8ですから片手を開いた状態で「8!」といいます。そして親指を折りながら「9」、人差し指を折りながら「10」、中指を折りながら「11」、薬指を折りながら「12」といいます。そして「12」という答えを書きます。これが難しい場合は「親指を折って1・・・小指を折ると5」という対応関係が理解できていないまたは、そのことは理解できていたとしても「8」がもともとあって「親指を折ったら1をたすことになるから9だ」ということがわからないという原因が考えられますから、その学習から始めましょう。お母さんと一緒に左手(左利きの場合は右手)を声を出しながら親指から順に「1,2,3,4,5」と小指まで折っていきます。次はひとりで「1,2,3,4,5」と声を出して折っていきます。それが出来たらお母さんが「3」といってから「1,2,3」と中指まで折って止めます。「3」で中指まで折ったら手を膝にします。「手を膝にする」が大切です。これをさせないと子供はお母さんの顔色をうかがって適当にやってしまうようになります。まずは「1から5」の間でお母さんが言った数の分だけ指を折り、終わったら手を膝にする習慣をつけましょう。続きは次回に。

 

 

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