く方式 その61〜その70

その61
 

(93)キャッチボールの第一歩はボールを下に落とすこと

 キャッチボールの前段階として、持っているボールを下に落とさせることから始めましょう。お母さんが両手で持ったボールからパッと手を離してボールが下に落ちる様子を子供に見せます。子供がすぐに真似をしてボールをパッと下に落としてくれればいいのですが、そうでない場合、まず子供に両手でしっかりボールを持たせ、お母さんがその手を離させてボールを落としてください。「ボールから手を離して下に落とすんだ」ということが伝わるまでくり返してください。それができるようになったら次はパスすることに挑戦します。最も簡単なのは胸元から手を前に押し出す「チェストパス」です。ここで間違えてはいけないのは我々にとっていちばん簡単に見える「下から放り投げるパス」は一番難しいということです。力の抜けにくい子供にとって下からボールをさし上げる形で腕を動かしていく中でボールを前に飛ぶように手の力を加減するのは非常に難しいのです。チェストパスなら力が抜け切っていなくても腕を前に伸ばせばボールは勝手に手から離れてくれます。「力を抜く」ことのできていない子供はひじを曲げたままで手首から先でポイッとボールを離しますから相手にとどきませんが、まずこれが第一歩です。あとはキャッチボールそのものだけでなく、うで立て静止、オットセイ、ぶら下がり運動などで体の力を抜くトレーニングを並行してやっていく中で自然と力が抜けて遠くにほうれるようにしていきます。


(94)布ひっぱりで「意図的に力を出し続ける」ことを学ばせましょう

 子供を2人1組でペアにし、1人には毛布の上に座り、端をしっかりもち、もう1人は布の先端を引っ張っていくようにします。座っている子供は落ちないように毛布を握りつづけ、引っ張る子供は毛布をしっかり握りこんで力を出し続けることが行動をまとめるうえでよいトレーニングになります。他のトレーニングに比べて「意識レベルを高く維持し続けているかどうか」が見ていてよくわかりますから、子供の成長をよく感じとることができます。注意することは、すわる子の体重を軽くして引っ張りやすくしてあげること、最初は3メートルほどの短い距離にしてあげることです。組み合わせがうまくいくようならリレー形式にするとよいのですが、なかなかうまくペアが組めない場合はリレーはしないほうがよいでしょう。重くて引っ張れない時「意識レベルの低下(行動のとぎれ)」を助長し、逆効果になってしまいます。トレーニングは常に成功させなければなりません。

 

●ポイント

 キャッチボールはチェストパスから始めましょう。

 布引っ張りの目的は「終わりまで力を出し続けること」 。




その62
 体育館を使用しての運動プログラムの基本メニューの締めくくりは「雑巾がけ」と「くれよん体操」です。
 

(95)床の雑巾がけをして手足の分化をはかろう

 我々にとっては「しんどいけれども難しくはない」床の雑巾がけも、障害を持つ子供にとっては難しい場合が多いのです。雑巾がけをするためには「膝をあげた姿勢を保ち続け」「足の指の付け根部分でしっかり床を押して体を前に進め」「手のひらでしっかり雑巾を押さえ」「腕をピンと伸ばして」そして「足は動くけれど手は動かさない」などのことができなければなりません。意識レベルが持続しなければ姿勢を保てず、大きく足を前に踏み込まなければ体がのびきってしまって続けられませんし、手足のさまざまな反射運動が出ていては雑巾から手が離れてしまいますし、首の付け根から肩の力が抜けていなければ腕がのびません。そして、足を動かした時に手が連動しないように止めることも大切です。我々は手足が十分に分化していますから自然な歩行の時には足と手が交差パターンでスムーズに動き、雑巾がけのような特別な時にはどちらかを止めることができるのですが、未分化な子供は自然歩行の時には手と足がうまく動かず止めておきたいときには連動してしまうのです。ひざをついて片手でふいている子供や、カエルとびのように両足をそろえてピョンと飛ぶ形で雑巾がけをしている子供は手足が未分化ですから、どちらの場合も子供の体をまたぐようにして立ち、腰を引っ張り上げて正しい形になるのを助けてやらなければなりません。また、足の指先の反射が強くて過敏な子は膝をついて足の指先を浮かして床につけようとしないことが多く、手の反射が強い子はギュッと雑巾を握りこむようにしてしまって手のひらをペタンとつけることができないことが多いものです。そういったことは日常生活の中でさまざまな問題になって出てきますから雑巾がけをしっかり練習しましょう。

 

(96)しめくくりはくれよん体操

 「ラジオ体操第1」をやっている施設や学校をよく見かけますが、これは最初の運動だけみても、腕を真ん中から左右に開く動作と膝を曲げる動作を同時にする、という難しさですから「多くの人がボーッとなにもしない」ことになりがちです。「障害を持った人の為の体操」が工夫されなければなりません。くれよん独自の体操には、いくつかの種類があります。特色としては、ひとつの運動を数多く繰り返し、運動と運動の間に二拍ほど間をおいて少しでも模倣しやすくしていること、オットセイやうで立て静止を取り入れていること、ひとつの運動で動かす部位を一箇所にすること、前後左右への歩行やジャンプを入れて方向感覚を養おうとしていること、できるだけゆっくりとした動きになるようにしていること、などです。以上が運動プログラムの基本メニューです。進んだメニューはまたの機会にお話ししましょう。

 

●ポイント

  雑巾がけの上手な子供は体の分化が進んでいる。

  障害者向けの体操は「ひとつの動作でひとつの部位だけ動かす」ことが基本。




その63
 また学習の話題に戻りましょう。学習は脳の活性化が最大の目的ですから、1対1対応の課題をやりすぎると逆効果です。ひらがなを一通り書けるようになり、マル書き足し算、マルけし引き算を身につけた子供は模写、書字、計算は最小限にとどめて、ききとり、単語作り、おはじきなどの具体物を数だけ取る、といった学習を重点としましょう。そして、何よりも時間を割かなければならないのは判断学習です。くれよん方式その45〜その52まででお話した内容ができたら次へ進みましょう。
 

(97)「これらか何をしますか(どこへ行きますか)?」に挑戦しよう

 「何をしましたか?」→「〜をしました」という問答についてお話ししてから判断学習については書きませんでした。なぜかというと、これから取り組む内容は今までのことがしっかり定着していないとできるようにならないからです。そして、中途半端にやり始めると子供は混乱を起して判断学習そのものが退行するおそれがあるからなのです。「これから何をしますか?」という問いは非常に難しい課題です。たとえば「朝は広場で体操する」ということが固定化している施設の利用者さんで、広場に行く前にこの質問をうけて答えられる人はそんなに多くはありません。声を掛けて促されたり、大勢の人の流れに乗って広場に行くことと、自分で「次は広場に行く」と意識して行くことは全く別だからです。整列したら必ず体操する、と決まっている場合でも整列している人に「今から何をしますか?」とたずねて「体操をします」という答えはなかなか得られません。1年間、毎日同じスケジュールで過ごしていてもこういう問いには答えられないのです。「何をしましたか?」→「〜をしました。」の場合は実際に行動した後ですから、行動中の意識レベルを上げておけば、記憶して言うことができます。しかし、「今から何をしますか?」の場合はまだ行動を起していませんから、スケジュールが頭に入っていて、なおかつ、今の自分の状況を把握し、そのスケジュールの中に当てはめてからでないと答えられないのです。パターンで動く人の場合は、それぞれの動きに固有のきっかけがあってたとえば「体操に行くよ」の声かけだけで、整列→体操→ランニング→室内に戻る、までを1人で完了することができるにもかかわらず、体操が終わった後に「これからランニングをします」とは言えないという事態になるわけです。あせらずにやっていきましょう。ためしにたずねてみて、あっさり正しい答えが返ってきたらめでたしめでたしです。そこまで成長していればもうその人は以前のような突然の不快反応は起こらないはずです。答えられない場合は「○○君、今から体操をします。今から何をしますか?」という質問をしてください。「今からホームルームです。今から何をしますか?」「いまから掃除をします。今から何をしますか?」我々から見ると無意味に思える問いが障害を持つ子にとっては「今、目の前になく、やってもいないことを意識する」第一歩になり、見通しを立てて安定した生活をするスタートになるのです。続きは次回に・・・

 

●ポイント

 「今からご飯をたべます。今から何をしますか?」とたずねることから始めよう。




その64
 

(98)スケジュール表が理解できるようにしましょう

 前回、お話した「今からご飯を食べます。今から何をしますか?」の方法による問答が定着してきたら次はご飯を食べ始める時に「ご飯をたべます」をはぶいて「今から何をしますか?」とたずねるようにします。ここで注意しなければならないことは「あれこれ思いつくままにたずねてはいけない」ということです。いままで「いまから〜します。今からなにをしますか?」と質問してきたものに限ることが大切です。限られた種類の質問に答えることができてはじめて応用が利くようになるのです。また、限られたものがスムーズになった時には初めてたずねられたことにもある程度対応できるようになっているものです。根気よく「今から何をしますか?」を同じ場面でたずねて定着させてください。そこまでできるようになり、なおかつ文字が読めるようになっている子供が次に取り組む課題は「スケジュール表(学校の時間割表)」を使っての問答ができるようになることです。表の前へ連れて行き表の一番上に書いてあるものを指差して「今から何をしますか?(かならず指さしてください)」とたずねます。もし「朝ごはん」が一番上にあるなら子供は「朝ごはんをします」と答えるでしょう。「朝ごはんを食べます」と答えられるのがベストですが、それには現時点ではこだわりません。もし答えられないならお母さんが教えてあげて復唱させてください。(そのときは「朝ごはんを食べます」といってしまいましょう。朝ごはんを食べ終わった時また表の前に連れて行き「今、何をしましたか?」とたずねます。子供は「朝ごはんをしました(食べました)」とか「パンを食べました」とか「牛乳を飲みました」とか答えるかもしれません。「朝ごはん」に関係のある内容のものならなんでもOKです。答えられなければ「朝ごはんをたべました」と教えて復唱させます。そして、次に二番目に書いてある文字、たとえば「カバンの用意」ならそれを指さして「今から何をしますか?」とたずねます。子供が「カバンの用意をします。」と答えたらOK、答えられなければ教えて復唱させます。できるようになってきたらだんだん「指さして示すこと」をはぶいていきます。このようにして、「書いてあるものを見て自分のしたことと、これからすることを理解する」力をつけていきます。これがスムーズになるころには表がなくても「日課として定着していること」や「目の前にこれから何が起こるか予想できるものがあること」については「今から〜します」と答えることができるようになってきます。あせらずにやっていきましょう。ただ、注意することがひとつあります。スケジュール表に番号をうって、「次は何をしますか?1番が終わったから2番でしょう?」とか学校の時間割表を見せて「3時間目が終わったから4時間目は?」というような問いをしないことが大切です。1から100まで書けたり言えたりするからといって1番目、2番目(1時間目、2時間目)というように順序を理解しているとは限らないからです。1から300まで言えても「1の次は?」がわからない子供がたくさんいます。それは数の勉強で独立して扱うべき問題です。

 

●ポイント

 最初は表をきちんと指さしてたずねるようにしよう。




その65
 

(99)次は「場所」をたずねてみよう

 「今から何をしますか?」ができるようになってきたら、そろそろ「場所」についてたずねてみましょう。しかし、これをやると「思ったよりできない」ことに驚くことが多いと思います。なぜかというと、「場所」の理解は高い概念能力が必要だからです。たとえば、学校の教室で子供に「ここはどこですか?」とたずねたとして、いきなり「教室です」と答える子供、「ここは体育館ですか?」に対していきなり「いいえ、教室です」と答える子供はすばらしく高い能力を持っているのです。なぜなら[「机」「いす」「黒板」「ロッカー」などのいろいろなものがあって学校生活の中で主に学習に利用する部屋]が「教室」であり、そういうことがわかっていないと、いきなり「教室」とこたえることは出来ないということです。学校の中での利用目的まではわからなくても、「机やいすが並んでいて前に黒板がある部屋」まではわかっていなければならないのです。これは「机」や「黒板」や「いす」の名前を知っていることとは全く別のことであり、「1対1対応」ではありませんから、なかなかできないのです。しかし、「はじめはできない」ことを前提としてやっていくのがくれよん方式ですから、めげずにパターニングから始めましょう。教室なら教室、体育館なら体育館、台所なら台所を徹底して「ここは教室(体育館)(台所)です」というようにパターニングしましょう。最初はいろんな場所を手当たり次第にパターニングしようとしないことが大切です。学校ならまず「1年3組の教室」に限って「ここはどこですか?」―「教室です」をパターニングします。スムーズに出るようになったら1年1組の教室へ行ってたずねてみます。「ここはどこですか?」−「教室です」と答えられれば、机やいすの配列や掲示物のはりかたの違う2つの教室を「教室」という概念でくくれたことになります。しかし、ここで安心してはいけません、ここで次は「体育館」または「作業室」のような「明らかに普通教室とは異なって見える」場所をパターニングします。スムーズに出るようになったときにたずねてみましょう。「ここは教室ですか?」−「はい、教室です」「ここは教室ですか?」―「いいえ、作業室です。」これでOKです。これができると後は運動場、図書館、多目的ホール・・・なんでもわりあい早くおぼえていってくれますし、それぞれに「はい」「いいえ」ができるようになります。この段階まで来てはじめて「次は家庭科だから調理室へ行きなさい」といわれて自分で考えて(パターンでなく)、たった一人でも(人の流れについていくのではなく)行けるようになるのです。知的障害児はきまじめですから、視覚情報を頼りに、わかっていないことも一生懸命にやろうとしますので10の行動のうち半分くらいは「たまたま当たってしまう(適応行動になってしまう)」ものですから、何でもわかっているように見えるのですが、これが幸福なのか不幸なのかといえばやはり不幸でしょう。お母さんや指導する立場の人が「分かっていないものと考えて」慎重にステップを踏んで教えていってあげたいものです。

 

●ポイント

 一つの部屋(場所)を選んで、「ここは〜ですか?」をパターニングしてから新しい場所をふやしましょう。




その66
 

 くれよん方式では、障害児の「不可解な行動」を「発作」ととらえています。(以前くれよん方式その35で自閉症児のパニックを「発作」と説明しました。)「発作」とは、「脳の内側で起こる電気的異常(過剰な放電)」です。その時放電を起した部分の働きが突出してあらわれてしまったり、欠落してしまったりします。たとえば、運動野の中で「親指を動かす部分」に過剰放電があると、意識とは関係なく親指が勝手にビクンビクンと動いてしまいます。また、記憶をつかさどる側頭葉に過剰放電があると、意味不明の奇行があらわれます。知的障害児は身体がある程度動くために、すべての行動を「心の表現」と見られてきましたが、下記のようなさまざまな奇妙な行動を「発作」と考えると、子供の行動がよく理解できると思います。 

・     くるくるまわる・急に極端な横目で見る・一定のリズムで力強く上体をロッキングする

・     「ア〜」など、持続的に大声を出し続ける・同じ言葉や文を繰り返し反復する・しきりとかゆみを訴え掻き続ける・視覚的、聴覚的な異常を訴える(幻覚、幻聴、暗さを感じる、音が強く響く)・何の前触れもなく尿失禁を起す・動作を停止してボーッと立ち尽くす・体にグーッと力を入れている・強く、連続して手たたきをする・舌を強く鳴らす

・     特別に必要もないのに絶えず動いている(ボタンをかけたりはずしたりする。ポケットを探る。物をしきりにさわり続ける。物を元あった位置や自分の決めている位置にしつように戻す・座ったり起立したりしていても体の一部が絶えず動き静止できない―すべて反復的、継続的)・意味もなく歩き回る(障害物はよけて歩ける)・鼻歌を歌い続ける

・     突然笑い出す・突然泣き出す・突然怒り出す・・・・

  まだまだあって、すべて書き出そうとすると1枚では足りないくらいですが、上にあげただけでも子供の行動の中で「あっあれのことかな?」と思われるものかかなりあるはずです。このとき、子供の脳の内部は一般に「てんかん」と呼ばれる発作と同じ状態になっています。「てんかん」の一種と考えるべきなのです。「てんかん」を意識を失って痙攣を起したり急にバタンと倒れる病気だと多くの人が思っているのは3つの理由からです。 
 @紀元前200年前、秦の始皇帝時代に「てん」(倒れる病)と名づけられ、その後7世紀初頭隋の時代に「かん」(子供の病)という語が付け加えられて「てんかん」となった。Aギリシャ時代のヨーロッパでエピレプシア(何かにとりつかれてたおれる)と名づけられた。そして決定的な理由はB意識を消失して転倒するとそれによる大けがの可能性があるため、治療の必要があったということです。つまり緊急に治療しないと危険のある「大発作」や「意識消失」だけが「てんかん」として認識され、それ以外の発作は緊急に治療を要しない為に、日常の生活の中で見過ごされてきた、と考えてよいでしょう。いわゆる「発作」は「意識レベルが下がると起きやすい」ことがはっきりしています。脳を正しく使うことによって意識レベルは上がり、発作は軽減し、行動はまとまるのです。
 これがくれよん方式の土台となる考え方です。また今度詳しくお話ししましょう。

 

●ポイント

 理解しにくい行動は「発作」という面からとらえてみよう。




その67
 さまざまな「不可解な行動」を「発作」ととらえようと前回お話しました。ではどう対処すればよいのでしょう。
 

(100)「体が動いてしまう」行動(発作)はとりあえず止めよう

 とにかく止めることです。手たたきをしていたら手を止めましょう。とびはねたらグッとつかまえましょう。歩き回る時は着席させましょう。すこしでもドアが開いていたらそれをしめずにはおれない、というときにはドアのところへ行くのを阻止しましょう。体をかきむしる時はその手を止めましょう。上体を揺らす時は背中に手を当てて止めましょう。こういったときは大なり小なり意識障害を起こしていますから指示が通らず何か課題に向かわせるということができないものです。まずその無意識の動きを止めることで覚醒させましょう。ただ、ここで注意することはより大きな発作(パニック)に発展してしまわないように「こまめに小さな介入を繰り返す」ことです。昔から「強く抵抗することがあるのでそのまま見守りましょう」といわれてきました。そしてその動きが終わると「気がすんだ」というように解釈されてきました。そうではありません。「発作が終わった」にすぎないのです。「てんかん」の代名詞である「強直間代発作」や「欠神発作」がある程度の時間で終わって回復するのと同じです。しかし、発作を起すたびにニューロンが減少していくのですから、発作は出来るだけ少なく、短いほうがよいのです。「動きを止める」という刺激を与えて「脳内の電気的異常に変化を起こさせる」ことが大切、と考えるのがくれよん方式です。「放っておけばいずれは終わる」からといって放置すると、頻度が増し、程度もひどくなります。こまめに止めましょう。


(101)一番大切なのは「予防」

 体の動きが大きい場合は止められますが、「奇声」「しつこく同じことを言う」「突然笑う」「突然泣く」などの声の発作や尿失禁などは止めようがありません。特に「こだわって同じことを言いつづける」ような場合、そのことに言葉で対応すればするほど長引き、困らされてしまいます。こういう止めにくいものは「予防」つまり「意識レベルを下げない」ことが大切です。どんなとき、意識レベルは下がるのでしょうか?代表的なものとして、@感触遊びをしている時Aずーっと放っておかれたときBパターン通りの行動をしているときC決まりきった作業を繰り返している時D好きなことに熱中しているように見える時、などが挙げられます。ただ一緒に生活するうえで、少々意識レベルが下がり発作の起きやすい状態であっても「1人で大人しくしていてくれる時間」が必要なことも確かです。そうでなければ家族は起きている間中、ずっと何かメニューを用意しておかなければならず、そんなことは不可能でしょう。お母さんが暇な時、折に触れて指示を与えいろいろなことをさせてみましょう。「その53」でお話した基本メニューと「折に触れての指示」があれば意識レベルは上がります。公共交通機関で外出しなければならないときや映画鑑賞のとき、式典のときなどにそなえて「どの程度のトレーニングや指示を事前にしておけば発作を予防できるか」というコツをしっかりつかんでください。

 

●ポイント

 「動き」の発作は止めましょう、しかし声に関するものや尿失禁などは「予防が第一」。




その68
 前回、発作の対策は「予防が第一」とお話しました。予防する為のこつは、それぞれお子さんの特徴によって違いますから一概には言えませんが、「最低これだけは・・・」ということをお話ししましょう。
 

(102)予兆をつかむようにしよう

 発作の予兆としては、「ぐずぐずと機嫌が悪くみえる」「ゴロゴロしてしんどそうにしている」というのがあります。また逆に「非常にテンションが高く機嫌がよい様子にみえる」「せかせかと動き回る」というのもあります。全く相反する行動ですが、どちらも脳細胞の興奮性が高まり。過敏になっていることから起こるものでいつ発作を起こしても不思議のない状態です。厳密に言えば、「すでに小さな発作を起こしている」と考えるべきです。「意識を失う発作」を起こす子の場合予兆を感じたら「しんどそうだし、嫌がっているから休ませておこう」と思わず、出来るだけ動かしましょう。こまめに指示を与え、脳を使わせましょう。意識を失う時は「すべて順調に見えて、こちらが働きかけていないとき」と考えてください。意識レベルを上げていれば多くの場合、発作を防ぐことができます。また、そういうかかわりをしていれば万一、発作による意識消失が起こっても転倒による怪我を防ぎやすくなります。意識を失わない発作(その66で挙げたような)の場合共通しているのは「発作が起こったら指示が通らない」ことです。しつこく同じ動作を繰り返しても、「やめなさい」と言えばそのときはやめられる、という状態の時は「発作の予兆が強く出ている」と考えましょう。そのときにどれだけ「場面を変える」なり、「歩行させる」なり、「脳を使う課題を与える」なりで意識レベルを上げられるかにかかっています。また、「目つき」が変わってきた時も発作が起こりますから、ふだんのよい状態のときの「目つき」をよく覚えておくことも大切です。ギラギラした感じになりますから、よく見てください。「ニャー」と笑っている時も危険信号です。手をつないでいると、急激に力を入れて手を離そうとするのも発作が起きかけていると考えてよいのでグッと握りこみましょう。よく観察すればどの子も発作を起こす予兆を持っており、また、起こしやすい周期をもっていることがわかりますから、そういうときには出来るだけ子供をこちらのペースで動かし、課題を与えたり、いつものパターンを変更したりするようにしましょう。


(103)手と顔にいつも注意していよう

 なんらかの発作が起きると、手に猛烈に力が入り、表情が変わり、声もよく出ます。大脳皮質運動野、体性感覚野の分業体制の中で手と顔は他の身体部位に比べて非常に広いですから、まずそこに変化が現れるのです。「おかしい」と思ったら早めに両手の動きを止めることが大切です。運動野、感覚野でもっとも広い面積を占める部分の動きを止めてしまうと早くおさまります。奇声や独り言、持続的な発声、笑い、泣きなども手を自由にしているのとしっかり止めているのとでは全然ちがいます。そのためにもふだんから手つなぎに心がけましょう。

 

●ポイント

 発作の予兆、発作の周期をつかみ、できるだけ事前に手をうとう。

 「おかしい」と思ったら両手を止めよう。




その69
 ここでは「遊び」について考えてみましょう。社会の中で他の人とともに生きていける力を養うのがくれよん方式の目的ですから、「遊び」もそういう観点から考えることになります。今までの学習やトレーニングで「人とやり取りする習慣」がついてきていますから、その延長上で「遊び」を教えていきましょう。「ルールのある遊び」をすることで、脳のトレーニングをすることができます。
 

(104)ひらがなカードの聞き取りができていれば「かるたとり」をしよう

 ある程度ひらがなカードの聞き取りができていたら、「かるたとり」をします。読み札の文章の字を聞き取って取る、という理解はなかなかですが、「みんなで遊ぼう」の「み」というように繰り返してその部分を強調すると「み」のついた絵札を取るのだと理解してくれます。また、読み札の文章の中に出てきた単語(たとえば「ブランコ」)と絵をマッチングして取る場合もありますが、はじめはそれでもOKです。最初のうちはお母さんと2人でやり、お母さんは読むだけにして子供にとらせましょう。取れたらきちんとほめてあげます。慣れてきたらもう1人大人を入れて競争で取る形式にします。大人といったのは兄弟などの子供だと兄弟ばかりが取って勝負にならない可能性があるからです。相手をする大人はわざと負けてやることと、子供が取ろうとしたところをパッと先に取って「負け」を認識させることを両方しなければなりません。最後に枚数を数え、お母さんが多ければしっかり喜び、子供のほうが多ければしっかりほめてあげましょう。自閉傾向で干渉されるのが苦手な子の場合は、「お母さんの勝ちです」または「あなたの勝ちです」という言葉をきっちり聞かせるということでけっこうです。数を数えるのがまだ不確かだったり、数の大小がまだわかっていない子の場合はお互いの取ったカードを積んで並べ、高さを比べて「高い方が勝ち」というようにしてください。「勝って嬉しい」とか「負けたくない」という思いをもってゲームをするのはまだまだ先のことですが、やり方がはっきりわかれば子供達はきちんと取り組み不適応を起すことはありません。「ルールが単純化できているか」が大切なポイントです。


(105)ルールに気をつけて「坊主めくり」をしてみよう

 「かるた取り」に取り組めたら、次は「坊主めくり」に挑戦しましょう。これは地方によって、また家族によってルールがさまざまのようですが、療育として行う場合は最も単純化したルールから始め、1つずつきまりを増やしていくことがたいせつです。

@「お姫様」の札を全部取り除き、「坊主」がでたら場ヘ出す、だけのルールで行う

 百枚ある人物の札の中で、他と区別しやすいのは「坊主頭」の「お坊さん」です。まず、「かるた取り」と同様に、子供1人でやらせます。裏向けに積み上げた札を1枚ずつとらせていき、「お坊さん」が出たらそれまで取った札を全部場に出すことを教えます。何回かやって「お坊さん」を見たら札を場に出すようになれば、次はお母さんと交互に取り合います。最後に自分の前にある札を数えて、お母さんの取った札の枚数と比べて「勝ち負け」をはっきりさせます。これが「坊主めくり」の第一段階です。

 

●ポイント

 スモールステップでルールを教えよう。




その70
 「ぼうずめくり」の第2段階からお話ししましょう。
 

A「姫」の札を加え、「姫」が出たら場に出た札を全部持って帰る、というルールにする

 「お坊さん」が出たらそれまで取ったものも全部場に出す、ということが定着したら、次は「姫」の札を加えます。「姫」が出たら場の札を自分の所へもってこれるルールを教えましょう。まず、お母さんがやってみせます。今回は「場に札が出ている場合は持って帰る」「場に札がない場合はそのまま続行」というように複雑になりますので、子供に行わせると混乱してしまう可能性があります。お母さんが「姫が出たね」→「場に札あるね、これを持って帰るよ」そして「姫が出たね」→「場に札がないから次まためくるよ」という見本を何度も見せてから、ようやく子供にひとりで行わせます。子供がすぐに自分で理解できなくても、お母さんの声かけにスムーズに応じて札を動かすようであれば、お母さんと交互に札を取り合う形にもっていきましょう。1回1回しっかり指示に従って「札」と「場」をよく見てやっていくうちにだんだん自分で判断がつくようになります。
 @とAのルールまでにして、この形で何度も「坊主めくり」をしてみましょう。子供はたくさんのことを身につけいろんな遊びをする基礎ができます。(順番を守る・札を識別する・札の種類によって行動を選択する・札と場の関係に基づいて判断する・・・)


(106)トランプで遊ぶ為にカード並べをしよう

 トランプもやってみましょう。絵カードのマッチングができていればそんなに難しくありません。ただ、視覚情報をきちんと処理しきれない子供が多いので、まずは2〜10までカード並べをしましょう。(AやJ,Q,Kはそれが1,11,12,13であるという別のマッチングが必要なのであとまわしにしましょう)まず、ダイヤで2〜10まで並べさせましょう。並べたら「虫食い」の形であいたところに置かせましょう。次はハートで2〜10まで並べさせます。そこまで出来たらダイヤを上の列、ハートを下の列というように2列に並べ「虫食い」にしておきます。最初はダイヤの7があいていたらハートの7は既に置いてあり子供はハートの7を手がかりにダイヤの7を置く、というようにします。ハートの3を置こうとするときにはすでに置いてあるダイヤの3を手がかりにする。ダイヤの6を置こうとするときにはハートの6を手がかりにする、という具合にどんどんやっていきます。そして最終段階は「ダイヤの4とハートの4」「ダイヤの8とハートの8」のように同じ数字をあけておき、子供はダイヤの4を渡された時に「2と4の間」と「ダイヤの形」という2つの判断をして置けるようになる、という段階です。すっとできるようになればどんどん先に進めますが、戸惑ってしまう場合は根気よく例のカード並べからやり直しましょう。@ダイヤの一列Aハートの一列Bダイヤとハートの違う数字を開けておくCダイヤとハートの同じ数字を開けておくという4つのステップを確実に踏んでください。Cまでできれば次はスペードとクラブで同じようにやりましょう。

 

●ポイント

 手にしたカードをよく見ているかどうかをいつも注意しよう。


 

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