く方式 その51〜その60

その51
 

(78)「〜していますか?」(実際の行動)に対して「はい」「いいえ」

 お母さんの、自分自身の、そして自分とお母さん以外の第三者の実際の行動について「〜していますか?」とたずねられて「はい」「いいえ」の判断学習が次の課題です。新聞を読んでいるおばあちゃんのところへ連れて行って「おばあちゃんは(第三者の誰でも良い)は新聞を読んでいますか?」の問いに対して「はい」または「いいえ」と答えられたら100点です。「はい、新聞を読んでいます」または「いいえ、テレビを見ています」とまで答えられたら150点、そこに「おばあちゃんは」と主語をつければ200点ですが、そこまでは要求せず、「はい」または「いいえ」がでたらOKということにしましょう。子供が「はい」または「いいえ」と答えたらそこで承認のしるし(うなずきや頭をサッとなでるなど)を与え、そのあとすぐ「はい」の場合は「新聞を読んでいます。」「いいえ」の場合は「テレビを見ています」をお母さんが言ってください。子供がリピートすればそれでよし、黙っていれば聞かせておくだけでよいのでとにかくそこまで子供に聞かせてください。この学習を続けていけば自分が何をやっているかを意識して行動できるようになってきます。
 

(79)行動の直後に「何をしましたか?」の質問をしよう

 実際にやっている行動に対する質問「〜していますか?」「何をしていますか?」に比べてはるかに難しいのが「何をしましたか?」に答えることです。絵カードであれ、実際の行動であれ「〜していますか?」は目の前に見えていますから「はい」と「いいえ」に慣れた子供はスムーズに答えてくれるようになります。しかし、「何をしましたか?」になるとその行動を示す絵もその行動をしている自分の姿もありませんから、やったことが自分の頭の中に記憶され、それを呼び出してくることができないと答えられません。障害児、特に自閉傾向の子供でこの種の質問に答えられる子はとても少ないのです。なぜなら彼らの行動はジャガイモを切る行動を例にとると{何もしていない状態}から@ジャガイモを手に取る→Aジャガイモを洗う→Bジャガイモの皮をむく→Cジャガイモを切るという一連の行動を繰り返すときジャガイモが目の前にあって、指示されて@をしなければAがはじまらず、BがなければCがはじまらず、Cがなければ@がはじまらないという具合に連鎖するので終わったあと、つまり{何もない状態}に戻ってしまった時には全くの空白であるというメカニズムになっているからです。それを空白ではなく、やったことの記憶を残し、言語化していくようにすることが次の課題です。判断学習を最初に「物の名前」から積んできていればそんなに時間はかかりませんが、それでもなかなか高いハードルですから、根気よくやっていきましょう。次回はその方法を具体的にお話します。

 

●ポイント

 「〜しています」の次は「〜しました」へ進みます。

 


その52
 

(80)「何をしましたか?」「〜しました」を身につけさせる

 行動を記憶の中に残し、言語化できることは今までやってきた判断学習の1つのゴールです。「判断する」と「区別する(弁別する)」の違いは、今、目の前にない物や事柄について考えることができるかどうか、なのです。終わってしまった行動について「〜しました」と言えればそのとき子供はまさしく「目の前にはない」ことがらについて記憶を呼び起こしたことになるのです。ただし、いきなり「今日は学校で何をしましたか?」と聞くのは暴挙というか、子供にとっては一番聞かれたくない部類の質問です。「ひとつひとつの行動を記憶に残すことができてはじめて日常的な当たり前のことは覚えずに忘れる」メカニズムが働き、特別な出来事だけが残っていくのですから答えられなくて当然です。まず、直近の行動について質問し、「今やったばかりのことで、他に答えようがないもの」でパターニングします。一番よいのは歯をみがき終わった直後に「何をしましたか?」−「歯をみがきました」手を洗った直後に「何をしましたか?」−「手を洗いました」というやり方です。もちろん、お母さんが「何をしましたか?」とたずねた後、子供が何か言う前にすばやく「歯をみがきました」「手を洗いました」と言ってしまうというのは今までの判断学習のとりかかりかたと同じです。ここで間違えてはいけないのは「われわれが直近の行動と思っていても子供にとってはそうではない」ことです。ある程度「〜しました」が答えられるようになってきた子供でも1〜2分たつともう答えられないということがよくあります。それは意識レベルがとぎれただけではなく、「何が直近の行為かわからなくなる」という場合があるからです。わかりやすい例で言うと「ごはんを食べ終わった」→「ごちそうさまをした」→「立ちあがってソファに移動して座った」の時点で「何をしましたか?」とたずねるお母さんが多いのですがこれをされるとまだ判断が充分でない子供は全く答えられないか、「すわりました」と答えるということです。「ご飯を食べ終わった」のがもっとも重要な行動で「ごちそうさまをする」とか「そのあとソファに座る」とかはどうでもよい行動だというのはわれわれの常識で、概念形成のできていない子供には通じないのです。「ごちそうさまをする」も「そのあとソファに座る」も「ご飯を食べ終わる」行動よりも下位におく(含めてしまう)のは抽象概念があるからこそである、ということを知らなければなりません。「ごはんを食べました」と答えてほしければ、子供が飲み込んだ直後でなければダメだというくらいに考えて取り組んでもらいたいものです。そういうスタンスでお母さんが取り組んでいけば早ければ数ヶ月のうちに2〜3分前のことでも答えられたり、一番重要な行動を選び出して答えられるようになってくるのです。土の中に根がどんどん広がるように脳のネットワークが形成されていくということです。ただし、植えた当初は慎重に手入れをしなければ枯れてしまいます。課題の出し方を間違えると(最初の手入れをまちがえると)伸びるものも伸びなくなりますから、注意しましょう。

 

●ポイント

・「歯をみがきました」「手を洗いました」から始めよう。



その53
 今回は最も基礎的な日々のトレーニングプログラムを具体的にお示しします。「たったこれだけ?」と思われるかもしれませんが、毎日やれば生活は落ち着いてきます。「たったこれだけのこと」が子供の脳を正しく働かせるのに重要な意味をもっているのです。
 

(81)くれよん方式デイリープログラム@

・ 子供が起きたら「トイレに行きなさい」と指示して行かせましょう。

・ 着替えのあとオットセイ(1秒〜40秒)、うで立て静止(1秒〜40秒)

* 「1秒〜40秒」とあるのは2秒で動いてしまう子供は1秒で「はい、いいよ」とやめさせてください、という意味です。全てお母さんの意志で終わらなければなりません。3秒もつようになればその手前でストップさせればよいのです。

・ 「すわりなさい」と指示して朝食をとらせましょう。食事中は離席させてはいけません。

・  「歯をみがきなさい」で歯磨きに行かせます。ただし、3日に1回はお母さんの手でしっかりみがいてください。

・  「学校へ行きなさい」でランドセルを背負わせて出発です。

・  帰宅時、「カバンを置きなさい」で所定の位置へカバンをゆっくり置かせましょう。

・ 給食袋など、カバンから出すものを1つ1つ指示して出させ、受け取ってください。ただし、順番は日によってかえましょう。

・  5分〜10分の学習をします。(時間はいつでも良いし、椅子にすわっての学習でも結構です。)

@迷路、点つなぎ   A絵と絵のマッチング   B―、|、、||、の模写   Cカード3枚聞き取り   D数字カード1〜5のマッチング   E1〜5を並べる(虫くいも)   F1〜5の聞き取り   G「はい」、「いいえ」の判断学習

などの中から取捨選択して10分程度でサッときりあげましょう。

・ 学習とは別に正座、まぐろ、うつぶせ(各1秒〜40秒)をしましょう。

・ タン、タン、タンのリズム打ち(手拍子かタンバリン)をお母さんに合わせてやらせましょう

・ うまくできなくても毎日2〜3分は取り組みましょう。

・  「座りなさい」と指示してから夕食をとらせましょう。食事中は離席させてはいけません。

・ 「お風呂に入りなさい」で入浴させましょう。洗ったあと「お湯に入りなさい」でつからせ、おかあさんが心の中で数をかぞえて(30〜50)「はい、あがりなさい」であがらせましょう。声に出して数をいうとパターン化→マイペース(自分で勝手に速く数えてあがる)になりやすいのでお母さんは黙っていることが大切です。

・ パジャマに着替えたら「気をつけ」(1秒〜40秒)、オットセイ(1秒〜40秒)、両手つなぎ(1秒〜40秒)の中から2つ選んでさせましょう。「気をつけ」は手を体の横につけさせ、軽く押さえて動かさないようにします。 

 以上がデイリ−プログラム@です。もちろん「もっとできる」というご家庭はどんどん独自プログラムをやっていただいて結構です。これから少しずつ上級のプログラムをお示ししていきますのでそれぞれの子供さんにあわせて利用してください。

 

●ポイント

 行動の開始と終了をお母さんがコントロールできるようになることが基本です。

 


その54
 判断学習に多くのページを割きましたが、今回は久しぶりに「数の学習」についてお話ししましょう。1から順に数字を並べたり、あいた所に正しい数字を入れたり、1と●をマッチングさせたり、数字のかずだけ○を書いたりしてきました。数の学習もまず「数の操作を覚え」、それから概念へと入っていきます。
 

(82)○の数だけ数字を書こう

 数字が1〜10まで書けるようになったら、この学習を始めましょう。 を見て、○の数をかぞえ、右端のところに というように数字を書き入れます。○の数が5個を越えてくると、「1,2,3,4・・・」とかぞえる声と○を指さす手の動きが合わなくなってしまったり、かぞえている途中にボ−ッと止まってしまったりすることがあります。少ない数から少しずつ増やしていきましょう。以前に(46)でお話した「数字のかずだけ○を書く」学習とあわせて行うと、集中力の持続によいトレーニングになり、足し算のよい準備になります。


(83)マル書き足し算をやってみよう

 いよいよ足し算にはいります。「数字のかずだけ○を書く」「○のかずだけ数字を書く」ことができていれば足し算はできます。
 3+2=5をやってみましょう。3の下に○○○、2の下に○○を書きます。書いた○をかぞえると5個ですから=の後に5を書く、というようにパターニングします。つまり、

テキスト ボックス: 3  + 2   = 5
@AB CD
テキスト ボックス: 3  + 2  = 5
○○○ ○○  

となるわけです。このとき

 

 

 

のように○のなかに数字を書くやり方もありますがこれがパターンになってしまうと「左はしの○にはかならず1を書き入れる」ようなことになりやすいので、できるだけ指や鉛筆で○をさしながら「1,2・・・」とかぞえていくやり方にしたいものです。さて、このやり方でいくと大きい数字の足し算ではたくさんの○を書く必要が出てきて大変ですから、大きい数は次のようにします。6+3=9のとき、6の下には○を書かず、3の下だけに○を3つ書きます。そして左はしの○から7,8,9とかぞえて9になる、というようにします。

テキスト ボックス: 6+3 = 9
  ○○○
  (7)(8)(9)←できるだけ書かず、口で言わせてください
 

 

 

 

 これから少しずつ「足し算」「引き算」「かけ算」「割り算」の習得方法を説明していきますが、これはあくまでも「+」の記号の時はこうするという「記号」と「数の操作」の1対1対応にすぎませんから、「数が増える、へる、〜倍になる」などの概念を身につけたことにはなりません。それは判断学習と同じように「数概念を身につける学習」が必要ですから、現時点ではこういう計算を「約束事として覚えていこう」というトレーニングだと思って取り組みましょう。

 

●ポイント

 数字と○を一致させられれば足し算、引き算ができるようになります。ただし、「意味がわかった」わけではないことに注意しましょう。

 


その55
 マル書き足し算ができるようになったら次は「マルけし引き算」です。いつ、引き算に入っていくかという時期の問題ですが、「ひとけた+ひとけたの小さい数の足し算」(たとえば4+3=7)ができた段階で引き算のやり方を教えるようにしましょう。「せっかく足し算ができたのだから、どんどん大きい数もできるようにしよう」と思ってしまいがちですが、ひとつのやり方(脳の使い方)を続けることはそれが、一見高度化複雑化するように見えても神経ネットワーク作りには役立たないことに注意しましょう。ひとつの通り道だけが高速道路化するよりも、デコボコ道や砂利道であってもいろんな道が通れるようになったほうがよいのです。特に自閉傾向の子供で概念形成能力が弱い場合、「ふえる」ということ概念なしに足し算をするわけですから「見ただけで無意識にできるほど高速化する。」ということは「阪神高速道路で神戸―大阪間を時速200キロで目的なしにガンガン往復する」行動と同じなのです。「パターン通りならとても見事に手際よくやってのける」「いろんなことができるけど、わかってやっているか疑問だ」というような子供たちはこういう状態にあります。時間がかかっても、できることがほんの少しで程度が低くてもいろんなことをさせることが大切です。それが子供の脳の神経回路をつなぐことになっていきます。
 

(84)マルけし引き算をやってみよう

 引き算のやり方は「引く数のぶんだけをけす」というやりかたです。3−2=1をやってみましょう。まず3の下にを書きます。そして、「−2」ですから引くべき数は2ということになります。そこで3の下に書いたというように2個消します。そうすると残ったは1個ですから答えは1になるのです。

3  − 2 = 1


というわけです。いくつか例をあげましょう。

4  − 2 = 2      5  − 3 = 2
           

これは○書き足し算と違ってマルを消していきますから

10 − 7 = 3


くらいまではこのやり方でできます。もとの数が10を越えてくると○を書くのが大変ですから筆算の形にしますが、それはまたのちにお話します。

 

●ポイント

 小さい数でのマル書き足し算とマルけし引き算を並行してやっていきましょう。



その56
 1〜20までの数字が読めて書けて、順番に並べることができて、 と 、 と のマッチングができて、マルの数を数えてその数字を書けて、数字を見てその数だけマルを書けるようになり、ひとけたのマル書き足し算とマルけし引き算ができるようになったとしましょう。次にやることは「実際に数のある生活をする」ことです。ためしに子供に「鉛筆を3本もってきて」と頼んで見ましょう。鉛筆を1本持ってくることはできても、「3本」持ってくることは至難の業だということがわかると思います。なぜ難しいのでしょう?それは、今まで便宜上「数える」という言葉を「マルを数えてその数字を書く」と使ってきましたがこれが実は数えているのではなく「指または鉛筆でマルをさす動きと、1,2,3・・・の数唱を一致させ、終わったところの数字を( )に書き込む」という1対1対応のパターン行動に過ぎなかったからなのです。もちろん、たとえ1対1対応のパターン行動であっても、「数のある生活をするための重要な基礎学習ですから、必要不可欠なものです。ただ、これを延々と続けて、どれだけ習熟しても「本当に数える」「足し算、引き算の意味がわかり、生活に生かせる」ようにはならない、ということを知らなければなりません。基礎ができた段階で「具体物を使った数の学習」をさせていき、具体物を使ったパターン行動と机上のマル数えのパターン行動を両方身につけることによって子供が「数を数える」意味に気づいていくようにすべきなのです。また、自閉傾向でない子供で、「具体物を数えて正しくとることはできるけれども数字の読み書きができないために机上学習ができない」という場合がありますが、それはまた別のところでお話ししましょう。
 

(85)おはじき3個、手にとらせよう

 紙に書いてあるマルなら20個まで数えられる(鉛筆でトントンできる、マルの中に数字を書いていける)子供が「おはじきを3個手に取る」ことが、出来ない理由は上に述べましたが、とにかくそれをやらせてみることが第一歩です。まず、お母さんがおはじきを手の上に「1個、2個、3個」と声に出して言いながら乗せましょう。それをまねさせます。もし子供が3個手のひらにのせたあと、4個目を取ろうと手を伸ばしかけたらすかさず止め、「3個取れましたね」と言って今度はその3個をお母さんの手に返させます。どんなことでも最初はパターン作りが大切ですから丁寧にやりましょう。なぜ「2個」でなくて「3個」かというと、「2個」の場合は両手に1個づつもってストップするパターンに陥りやすく、そうなると両手がふさがってしまってそれ以上とることを教えられなくなる可能性があるからです。そして、もうひとつ注意することは「ひとつ、ふたつ、みっつ」といわないことです。これをやってしまうとあとで「1本、2本、3本」とか「1さつ、2さつ、3さつ」などを数える時に苦労することになります。数唱や、机上学習で使っている「1,2,3・・・」と具体物の数が一致して概念となっていくためにはまず「同じ言い方」をすることが大切なのです。「おはじきを3個とってください」で子供が3個自分の手のひらに乗せて次の指示を待てるようになるまで、根気よくやってください。

 

●ポイント

 自分で「3個持ってくる」ことができたらOKです。



その57
 絵カードを見、お母さんの声を聞いて「いす」、「て」など書ける様になってきたでしょうか? まだ50音の文字カードをある程度の枚数「ききとり」ができるようになってきましたか?ここで問題になってくるのは、「どれだけやればよいか」ということだろうと思います。
 

(86)「やりすぎは毒」をいつも心にとめよう

 子供にとっても「やりすぎは毒」です。まず、障害を持つ子は意識レベルの維持が難しく、他の刺激に左右されたり、目、耳、手をうまく使えなかったりして「わかっているはずのものまで間違える」ことがあります。そうすると、お母さんもついイライラして怒ってしまいがちです。子供に学習に対する悪いイメージを持たせてしまってはいけません。短時間集中で良い雰囲気で終えましょう。また、自閉傾向の場合は学習の目的が「出来ることをふやす」のではなく「やり取りに応じ、脳を正しく使う」ことですから、長時間学習しようとすると目的にはずれることがよくあります。まず、長時間座らせる為に学習の切れ目(合間)にこだわりを認めざるを得ないということが起こってきます。「こだわりをさせずに短時間学習し、その時間(量)を少しずつ増やす」ように取り組みましょう。また書字できるものを、すべて書かせ、取れるようになったカードを全部とらせないといけない、と思うのは誤りです。毎日毎日同じカードを見て同じ字を書いていると、それはパターン行動となり、反射に近いものになってしまい、そのとき大脳皮質を使わないことになるのです。そうすると、学習に入るための導入のつもりの課題が、砂さわりなどの常同行動と大して変わらないレベルのものになり、「学習の形をしたこだわり行動」と化してしまいます。これがひどくなると慣れ親しんだ書字や数字書きなら1時間以上一人でも出来るが、「さあこれをやりなさい」と新しいものを出すと大パニックという状態を招いてしまいます。「できたはずのものができなくなっていた」これは脳が健全な証拠です。忘れることは大歓迎、次々と新しいことを短時間、お母さんのペースでやらせていきましょう。
 

(87)文字カードの中から選び取って単語をつくらせてみよう

 「ききとり」が出来る範囲の文字カードを机に一挙にならべましょう。「あ」行から「は」行まで「ききとり」が出来る子の場合、それだけのカード(30枚)を机上にならべるのです。そして「いす」の絵カードを見せ、お母さんが「いす」と言い、更にお母さんが机上のカードの中から「い」と「す」を取ってくっ付けて置き、「いす」とまた言います。次には「かさ」の絵カードを見せ、「かさ」と言い、「か」と「さ」を取ってくっつけてまた「かさ」と言います。こういうふうに例を示して子供にやらせてみましょう。お母さんの例示を見て自分のやるべきことを理解し、そのとおりにしてみようとするかどうかも、今後の生活にとても重要なポイントです。こだわり学習で書字が100枚でき、数字が1000まで書けたとしてもこういうことがなかなかできないのが障害児、とくに自閉傾向の子供です。やってみてできないならまた明日、と言うふうに取り組んでください。

 

●ポイント

 長時間続けるよりも短時間に新しいことを入れていこう。

 「単語づくり」をやってみよう。



その58
 くれよんでは、2ヶ月に1回、また春、夏の合宿の時に体育館を使用して「運動プログラム」を行っています。机の向かって学習するだけでなく、運動することで脳をトレーニングすることも大切です。ここ何回かで、くれよんの「運動プログラム」の基本メニューとその意味、目的をお話し、家庭療育に生かしていただければと思っています。
 

◆基本メニュー

@手つなぎ歩行  A手ばなし歩行  B手つなぎランニング  C手ばなしランニング

D静止トレーニング  E笛の合図でダッシュ  F笛の合図で色玉ダッシュ

Gリレー  Hキャッチボール  I布引っ張り  J床を雑巾がけ  Kくれよん体操

 
(88)運動の基本はまず歩くことと走ること
 
「歩行がなぜ大切か」はくれよん方式その7、その8でお話しました。ここでは運動プログラムの中でどこに注意して歩かせるかを見ていきましょう。

@まず子供と保護者(あるいは他の保護者、ボランティアさんと組むこともあります。)が手をつなぎ、2列で整然と歩行します。(体の不自由な子は円の内側をできるだけついていくように歩きます)音楽はかけますが、音に対して過敏な子がいたり、逆に「ドンドン」と響くリズムに感応してテンションがあがってしまう子がいたりしますので、ボリュームを下げ「なんとなく聞こえている」程度にします。指導者が「ピッ」「ピッ」とリズム良く笛をふいたり、「1,2,1,2」と声をかけるほうがスムーズにいきます。注意することは常に前との間隔を一定にし、あいてくると「ヨーイドン」と声をかけてつめさせるようにすること、つないでいない方の手を「手はグー」で握らせておくことです。(空いたほうの手をブラブラさせたり、ブンブンふったりすることから行動リズムが乱れていきます)

A指導者が「手をはなしましょう」と声をかけたら、手を離して自分で歩かせるようにします。歩行のペースがおちないように、保護者(ボランティア)はしっかり腕を振り上げて歩き、良い見本を見せます。もし子供が列から飛び出そうとしたり、座り込もうとしたときはすばやく阻止して歩行を継続します。このとき子供には「手をグー」で握らせておきます。

B「走りましょう」の合図で保護者(ボランティア)が子
供の手をつないで走ります。大人のペースでグイグイ引っ張らず、子供が「自分のペースより、こころもちがんばる」程度のペースで走りましょう。子供の走るペースが悪いとき、あれこれと話し掛けるのはかえって逆効果です。「1,2,1,2」とリズムを刻むための声かけをしてください。

C「手をはなしましょう」の合図で全員が自由に走ります。自由といっても子供と一緒に走る保護者は(ボランティア)は子供の少し前を走るようにします。ただし、子供についていない保護者(ボランティア)は子供がつられて走ってしまうように思いきりペースを上げてください。また、子供が全速力を出し始めたら「一緒に走るよ」と声をかけて止めましょう。「ダーッと走ったり、止まってしまったり」は「座り込んでしまう」のと同じくらいよくないことなのです。コンスタントに走れるようにはたらきかけましょう。

 

●ポイント

 歩く時走る時の手は「軽くグー」が一番良い。



その59
 体育館を使用しての運動プログラムの続きをお話ししましょう。
 

(89)静止トレーニングはメリハリをつけて

 歩行とランニングの後、夏の暑い時は休憩を取った後、暑くない時はそのままD「静止トレーニング」へと進んでいきます。

・ 「気をつけ」静止━くれよん方式その4、その5を見てください。

・「うで立て」静止、オットセイ━くれよん方式その12を見てください。

・「うつぶせ静止」、ずりばい━くれよん方式その29、その30を見てください。

・まぐろ━あお向けに寝て手のひらを床につけ静止します。

 それぞれ40秒計っておこないます。多くの子供が40秒たつ前に大なり小なり動いてしまいますので、家で日々40秒を目指して取り組んでもらうことになります。さらに、応用編として「頭に色玉をのせて気をつけ静止」、「両手を前に伸ばして手の甲に1つずつ色玉をのせて静止」「両手を横に伸ばして手の甲に色玉を1つずつのせて静止」「あお向けに寝て色玉を両足のつま先ではさんでそのまま足をあげて静止」などがあります。またこの静止トレーニングからあとのプログラムは1つ1つやり方や注意点を説明しながら行うので、子供はお母さんやボランティアさんと一緒に一つの姿勢に取り組んだ後、座って説明が終わるのを待つ、ということになります。障害児はよく「じっとしていられない」と言われますが、最初は動き回ったり反発を見せる子供でもトレーニングを積むにしたがって座っていられるようになるものです。ただこの静止トレーニングは姿勢保持の苦手な子にとっては苦痛なので反発がおきやすくなりますから、「メリハリをつけて(さっと切り上げて悪いやり取りにならないように)、テンポよく」行うのが大切です。
 

(90)笛の合図で走り出そう

E4人が横一列に並び、笛の「ピーッ」という合図で10m先のカラーコーン目指してダッシュします。ボランティアさん、お母さんが80%ぐらいの力で一緒に走れば子供はなんとなくつられて走ってしまいます。これを何度も何度も次から次へと運動部の補強トレーニングの雰囲気で繰り返します。「コーンまで走るんだ」と理解できた子供は回を追うごとにしっかり走るようになります。ここで気をつけることは「どこまでも走らせない」ということです。コーンを過ぎてしばらくしたら止まる、ということを教えなければなりません。

F1人が6本ほど走ったら、応用編としてコーンのあたりにたくさんの色玉をばらまいて、まずはボランティアさんが何回か「笛の合図でコーンまでダッシュし、色玉を拾って帰ってくる」見本をみせます。そしてさっきと同じ要領でお母さんがボランティアさんと一緒にトライします。これを何回も繰り返すうちに子供たちは理解します。「言葉の指示、他人の見本動作で正しい行動を身につける」ことを運動プログラムの活気ある動きの中で身につけてゆくことがねらいです。さらに進めて「2個持ってきて」というように個数を決めることもありますがこれは「よい流れを止めてしまう」結果になることもあるので、慎重にすべきです。

 

●ポイント

 しっかりとした見本があれば子供は理解する。

 


その60
 今回も体育館を使用しての運動プログラムの続きです。
 

(91)リレー形式を経験させよう

  次はリレーです。障害児、とくに自閉傾向の子供には競争はとても高いハードルです。「人に勝つ」ことはこれから徐々に教えていくとして、まずは「形の上でリレーに参加すること」ことを身につけましょう。学校の体育会でリレーに出て「われ関せず」の態度で歩いたり、コースを逸脱するのを見るのはお母さんとしてはとてもつらいものがあります。速く走るのは難しくても、しっかり1周走って次の走者にバトンタッチできるようにしてあげましょう。そして、「形だけでもトラックを一定のペースで走る」というのは目標物(コーン)が自分の走るコース上に見えている直線ダッシュに比べてはるかに難しい(最終コーナーを回るまでは目標が見えず、そのかわりに他の刺激がたくさん目に入って意識レベルの維持が困難)ですから、これができるようになると生活面で違ってきます。

 

@お母さんかボランティアさんが前を走りついてこさせる。−これが最初のステップですが、これは直前に目標があることになりますから療育的な意味は乏しくなります。だ円のトラックを走るという行動パターンを子供に教え体に体にしみ込ませるだけが目的です。
 

Aお母さんが内、ボランティアさんが外を伴走し、「1、2、1、2」の声かけで走らせる。―次は子供を内、外両側からはさんで走らせます。これによって目の前の目標がない中を走ることを教えます。ただ、あまりくっつくともたれかかってきたり、反発が出たりすることがありますから、手を伸ばして触れるか触れないかくらいの距離を保つようにします。3〜4回やりましょう。
 

B内側(トラックの)を伴走するだけで走らせる。−子供の体の外側には広い空間が広がっていますが、その刺激に反応せずに走り続けることを教えます。「1、2、1、2」の声かけも子供がリズムに乗ったと判断したら少しずつ減らします。
 

C止まったらいつでも走らせにいける距離を保って離れたところからの声掛けで走らせる。―これだけのステップをふめば、ジョギングペースであっても「トラックを走りぬく」責任は果たしてくれるようになります。「トラックを走る」ことが安定してきたら次はいよいよバトンを持ちます。反射が強く出るタイプの子供は何のトレーニングもなくいきなりリレーに出ると自分が何をしてよいかわからないために意識レベルが下がり強い反射がでてバトンをはるか遠くへ放り投げてしまったりすることがあります。トレーニングしている子供でもはじめてバトンを持つときは@→Cをバトンを持たせてくり返すくらいの周到さが必要です。

 

(92)キャッチボールができないのは力を抜くことができないから

  次はボール運動です。キャッチボールをしようとすると、ボールを投げずに「手渡しにくる」子供がいます。これはボールを持った手の力がはいったままになっていて手放すことが出来ないからなのです。どこまでいっても障害児の療育は「力抜き」をどうやって覚えさせるか、につきあたるのです。次回はこのお話から・・・

 

●ポイント

 直線を走るのとだ円のトラックを走るのとは全く別と考えてプログラムを組みましょう。


 

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